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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第144回・自動運転車のオプション価格

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

アメリカの自動車会社、テスラの経営者であるイーロン・マスク氏は、「自分たちは自動車会社だけでなく、ソフトウェア会社でもある」と言っています。今回はそれにまつわる問題です。同社の電気自動車の中で一番売れている「モデルY」というSUV車は、日本では本体価格が583万4600円に設定されています。その自動車と一緒に、実はまだ出ていない「完全自動運転オプション」を購入することができるのですが、さて、それは一体いくらに設定されているでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

今回は、テスラ社が提供する自動運転車の「オプション価格」についてのクイズです。

もし価格を知っている方がいたら読み進めていただき、知らない方は、だいたいどれくらいかを予想してみてくださいね。

それでは解説します!

同社が販売している自動運転車で人気なのが「モデルY」というタイプです。現在のところ、普通の自動運転車にあるようなオートブレーキや高速のクルーズコントロールといった、いわゆるレベル2までの自動運転機能が搭載された自動車となっています。

今回取り上げた完全自動運転オプションについて1つ大事なポイントがあるとしたら、それは「今それを購入しても使うことができないソフトウェアである」ということです。

ではいつになったら使えるのかというと、今後テスラが完全自動運転のAIを完成させ、日本の法律がそれを認めた時に、初めてインストールすることができるのです。おそらく5年以上は先だろうと思いますが、テスラ車にそのAIをインストールすることで、その車がレベル5の完全自動運転車になるというわけですね。パソコンのOSをアップデートするような感じといえば分かりやすいはずです。

さて、このオプションがいくらで売られているかですが、正解をお伝えすると「87万1000円」です。

正直なところ私は、安いわけでもなく、ものすごく高いわけでもなく、何とも微妙な値段だなあという印象を持ちました。

ディーラーに聞くと、今のところそのオプションを購入する人はまだまだ少ないようです。何しろすぐに使えるわけではありませんし、ただでさえ高額な自動車がさらに割高になるような印象を受けるからでしょう。

ただ、1つ考えられるのは、実際に完全自動運転のAIが完成した時には、テスラはもっと高く売るのではないかということです。なぜなら、根拠になる数字があるからです。

テスラはアメリカでも全く同じ仕組みで販売していて、自動車本体が約742万円(5万4990ドル ※)、完全自動運転オプションは約203万円(1万5000ドル)となっています。

自動車本体の価格も日本に比べると高いですが、オプションの方はさらに高くなっています。これが分かった時に、下手したら日本でもそのくらいの価格になる可能性もあるのではないかと思ったわけです。後々、「あの時に87万円で買っておけばよかった」と思う人が出てくるかもしれませんね。

※1ドル135円で計算(23年3月時点のレート)

なぜ87万1000円にしたのか?

今回のオプション価格の話ですが、これは実は商品やサービスの「プライシング」を考える時の戦略思考の典型的な例なのです。

例えば、最初から「5000円」みたいに設定することももちろんできますよね。そんなに安ければみんな買うはずなので、一気にマーケットを作ることができるかもしれません。逆に、売れた時にはしっかり儲かるので、いくらでも高くすることもできるでしょう。

でも、テスラは87万1000円という価格設定をした。その理由として考えられるのは、将来そのAIが完成したら自社の車で使用するだけでなく、他社にも売ろうとしているのではないかということです。その時にあまり安く設定してしまうと、ソフトウェア会社としては儲かりません。

同時に考えられるのが、将来的には電池やモーターといった部品が今よりも安く作れるようになり、ハードウェアの価格自体が下がる可能性が高いということ。

「自動車なんか売っても儲からない」という時代が来た時に、ソフトウェアだけで完全に利益が出る、いわばマイクロソフトみたいなビジネスモデルに移行するためには、価格はいくらであるべきなのかをものすごく考えたのだと思います。

つまり、商品も相場もルールもまだない今の段階では、別にいくらでもいいわけですが、ビル・ゲイツのように発想したら、今のところは87万1000円がいいなと思ったのではないか、という話ですね。

「いくらで売るか」は戦略思考的に考えよう

どんな商売をするにしても、プライシングは非常に重要です。いくらにでも設定できるのだとしたら、それをどう考えていくかは、ある意味でビジネスの命運を左右することにもつながりかねません。

だからこそ、「いくらで売るか」は戦略思考的に考えた方がいいわけですね。ぜひ参考にしてみてください。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「87万1000円」でした。確かに高いオプションではありますが、そもそもの価格が583万円で、それが670万円ほどですから、その差を考えると勢いで買っちゃった方が実は良かったりするようにも思えてきます。そういう意味では、もしかしたら絶妙なプライシングかもしれません。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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