前回の記事では、個人事業主の方から受ける相談でもっとも多い「必要経費」について、その考え方をお届けしました。
https://entrenet.jp/magazine/41559/
「とある支出が、税務署や税理士に経費にすることはできないと言われたのはなぜか?」
「全額経費に入れないとしても、何%までなら経費に入れられる?」
……などなど、個人事業主の方が抱く疑問にお応えすべく、実際に税理士や税務署の人はどのように「必要経費」を判断しているのか、以下の3つのステップ(経費判断の枠組み)で判断しているということをお伝えしました!
<経費判断の枠組み>
「大原則」に照らす(所得税法や裁判所の裁判例、国税庁が発表している指針=基本通達などに事実を当てはめて検討する)
⇩
(ステップ2)
過去の事例に照らす(過去の税務調査事例や、裁決事例、税務雑誌等を参考にする)
⇩
(ステップ3)
一般常識に照らす
※実際の検討・思考フローは、先に一般常識から結論を考えて、その結論に合うような法律的な根拠や、過去の似たような事例を探るということもあります。
今回は、ステップ2・3の、「過去の事例に照らす方法」「一般常識に照らす方法」の詳細を解説していきます!
<この方法を知る主なメリット>
・税理士や税務署に対しても、経費となる根拠を明確に示すことができます
実際に税理士等が判断するときの枠組み(思考の軸)です。
一番大事なのは、この枠組み(思考の軸)の全体像を押さえること。経費計上できるか迷ったとき、ここの枠組みに立ち返って下さい!
【経費計上の大原則】過去の事例を探してみよう!
過去の事例に照らす方法として、①判例(★応用)、②裁決事例(★応用)、③税務雑誌等、④税務調査事例の4つの方法をお伝えします!
※とくに「★応用」項目は難しい内容なので読み飛ばしても構いません。
どれも実際に探すのは難しく感じるかと思います。
大事なのは、このような方法があるという事を知っておき、必要な時には税理士に頼って相談しましょう!
①判例(★応用)
<判例とは>
「判例(はんれい)」とは、裁判において具体的事件における裁判所が示した法律的判断のことを言います(狭義に日本法においては特に最高裁判所が示した判断を言います)。
同種の事件について先例となることからも、経費になるか迷ったとき、過去に似たような判例がないか調べることは有用です。
「判例」とはどんなものか、実際にみていきましょう。
例えば「外れ馬券の購入費用」が必要経費として控除できるかが争われていた判例などがあります。興味があればぜひ読んでみてください。
<判例の調べ方>
・裁判所や国税庁のホームページにて検索
・有料の判例データベースにて、キーワード等により検索
※専門家や上級者向けのため詳細は、割愛します。
<調べる時のポイントなど>
・その判例は、どういう根拠でどういう判断(結果)になったかに着目しましょう。
・原文で読むのが難しい場合は書籍や雑誌などの解説付のものが良いでしょう。
②国税不服審判所の判決事例(★応用)
<国税不服審判所とは>
https://www.kfs.go.jp/introduction/
国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行うことを目的に設置されました。国税庁の特別の機関として、執行機関である国税局や税務署から分離された別個の機関として設置されています。
税務調査が入り、ある支出が経費として認められないと税務署に主張され、処分がくだされたとしましょう。
この処分を国と争いたいとき、いきなり訴訟を起こすことはできません。
「国税不服審判所」に審査請求をするか、「税務署」に対して再調査の請求をします。
審査請求を受けた国税不服審判所では、審査請求人と原処分庁の各主張の間で争いのある点を中心に調査及び審理を行った上で裁決を行います。
その裁決事例のうち先例性があるものが国税不服審判所のホームページで公表されています。
税務調査を受けて、なおも争うことになった事例ですので参考になる部分が多いです。
税法やその中の項目ごとに検索可能です。
③書籍や新聞、ニュース
経費にできるか迷ったとき、この方法によって情報を集めているのではないでしょうか?
特に最近は、WEBニュースやコラム、ブログ等によって検索している方は多いでしょう。
またYouTubeなどの動画で経費関連のわかりやすい解説動画も増えています。
<どんな書籍等がよいか>
・税理士等専門家向けの専門書籍から、一般の事業者向けのわかりやすさを重視した書籍まであります。
まずは、正確性よりもわかりやすそうなものを読んでみましょう。その中で、詳しく調べたい項目を掘り下げて他の情報に当たると良いかと思います。
ただしもちろん注意点もあります。
書籍や新聞、ニュースでも誤った内容のものや、結論しか書かれていないものがあります。
税のプロフェッショナルが書いていても、解釈により異なる結論になることがあります。
・一つの情報だけだと危険!複数の情報に目を通そう
特に、WEB関連から情報を取る場合、間違ったことが書いてあることもしばしば。
また、複数の解釈がある所、ひとつの解釈しか書かれていないものなどさまざまです。複数の情報源を見るようにしましょう。
・いつ書かれたものかを確認しよう!
税法等の大原則は毎年改正が行われています。
古い情報の場合、現在の大原則に照らすと違った結論になることがあります。
④税務調査の事例
<税務調査とは>
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/02.pdf
「税務調査」とは、税務署が納税者の提出した申告書の内容が正しいかどうかを帳簿などで確認し、申告内容に誤りが認められた場合等、是正を求めるものです。
経費として計上したものが、認められるか否か確認が行われます。
個人事業主の方にとっては、「税務調査」という言葉は聞いたことがあっても実際どんなものか知らない方が多いことでしょう。イメージをつけたい方は、下記のサイトを参照ください。
前年度の調査実績は43万件以上!? 税務調査の備え方と当日の流れを、税理士が解説!
経費になるか悩んだ項目があった場合、過去の税務調査事例を知ることは有用です。
大原則(所得税法や基本通達等)には抽象的なことしか書いていない場合があります。
それが実際の調査の事案でどのように判断されたか知ることができます。
税務調査事例は、調査経験の豊富な税理士(特に元国税調査官出身の税理士)から情報を得ると有益でしょう。
一般常識が一番難しい? 税法の世界観を知って経費の判断を!
<税法の世界における一般常識とは>
経費になるか否かの判断する際、大原則に照らしその適用において、最終的に一般常識・見解(社会通念)に照らしての判断となることがあります。
所得税の「基本通達前文」にも、下記のような記載があります。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/00/01.htm
過去の裁判例にも、下記のような記載があります。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/74/04/01.pdf
このように、大原則はあいまいな部分が多く、明確に書かれていることが少ないです。
そこで、大原則の具体的な適用について社会通念等で判断しないといけない部分があります。
そのため、経費か否かその判断が難しい理由となっています。
そしてこの税法の世界でいう社会通念とは何かがはっきりしないため、さらに混乱してしまうかもしれません。
<社会通念を使う場面の具体例>
例えばですが「弔慰金を個人が受け取った場合に、所得税等が課されないのか」といった内容の照会があります。
大原則(ここでは基本通達)のいう社会通念の考え方について示されたものがあります。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/01/05.htm
税法の世界でいう“社会通念”を読み解くのは難しいです。
ここでは、社会通念に照らして判断することがあるということを覚えて頂き、その具体的な事案で判断に迷ったら税理士へ相談してみましょう。
参考サイト:酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第70回】「社会通念から読み解く租税法(その1)」
今回のまとめ
2回にわたって、多くの個人事業主の方が疑問に思う「経費」ってどこまでOKなのか、その考え方についてお届けしました。
私が経費に関する相談を受ける中で、よく感じるのがネットの情報や他の経営者の情報を鵜呑みにしてしまい、間違った判断をしている方が多いということ。
それは入手した情報が誤っているということもありますが、経費判断の枠組み(思考の軸)を知らないために、一部分の情報でしか判断できないことが主な原因かと思います。
そこで、経費判断の枠組みの大枠的な所をお届けしました。
難解な部分が多かったと思いますが、一番大事なのは、この枠組み(思考の軸)の全体像を押さえることです。
そして枠組みは道具のように使いこなすことで自然と慣れてきます。
税理士や税務署に相談する時も、この枠組みのどの部分の話をしているか意識することで、より思考が整理できるかと思います。
経費計上できるか迷ったとき、この枠組みに立ち返って下さい!
今までより一歩深く経費の世界が覗けると思います。
文=齋藤 雄史
編集=内藤 祐介
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。
高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。
合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。
ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代〜30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。
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