会社勤めの方の場合、源泉徴収と聞くと会社から毎年渡される「給与所得の源泉徴収票」を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、詳細まで理解している人は少ないかもしれません。フリーランスは源泉徴収が確定申告や毎月の請求書に関係してくるため、より深く理解しておく必要があるでしょう。源泉徴収とはどのようなもので、どのようなときに必要になるのか、フリーランスにおける源泉徴収の基礎を、まとめてお伝えします。
フリーランスの源泉徴収とは
源泉徴収とは、フリーランスに報酬を支払うクライアント側が、納税が必要な税金分を差し引いた金額を報酬として支払う制度です。
会社員の場合には、企業が従業員に代わって給与から源泉徴収をします。従業員は、企業が年に一回渡してくれる「給与所得の源泉徴収票」で給与から差し引かれた額が確認できます。法律で従業員を雇用して事業を営む企業やフリーランスの人は、給与や報酬を支払う人ひとり当たり2通の「給与所得の源泉徴収票」の作成が義務付けられています。
企業は、作成した2通の給与所得の源泉徴収票を、1通は支払いを受ける従業員へ、もう1通は税務署長へ翌年の1月31日までに交付しなくてはいけません。
ただし、フリーランスの場合は自分で確定申告を行います。報酬については源泉徴収される業務とされない業務があるので、自分が受注している仕事はどちらなのか、きちんと理解しておく必要があります。源泉徴収が必要な報酬がどんなものかわかっていないと、確定申告で損をしてしまう可能性もあります。
源泉徴収はどんな報酬に必要?
フリーランスの業務の中で、以下のものは報酬を受け取る際に源泉徴収の対象になると定められています。
1)原稿料、講演料、デザイン料など(一人に対して1回に支払う金額が5万円以上の場合)
2)弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格保有者へ支払う報酬
3)社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
4)プロのスポーツ選手、モデルや外交員等に支払う報酬
5)芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払われる報酬
6)宴会等で接待を行うコンパニオンへ支払われる報酬
7)プロ野球選手の契約金など役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
8)広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
デザインは、インテリアデザイン、空間デザイン、パッケージデザイン、広告デザインなど多岐に亘ります。ただし、Webデザインには源泉徴収がかかるものの、Webサイトの製作には源泉徴収がないので、余計に支払わないよう注意しましょう。
「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」(国税庁)
源泉徴収の手続きとは
源泉徴収がどんな報酬に対して必要なのか理解していただけたでしょうか。ここからは、源泉徴収を納税する際、どのような手順で手続きを進めなくてはいけないのか説明していきます。
事前に注意しておきたい点が一点あります。それは、源泉徴収された分の税金について、フリーランスが自ら手続きをする必要はないということです。源泉徴収とは、報酬を支払った側が行うものです。これは依頼主となるクライアント側が、企業の場合でもフリーランスでも変わりません。
源泉徴収額の計算方法
源泉徴収される額の計算方法は、業務内容や支払先によって異なります。ライターの原稿料や講師をしている人の講演料などの場合は報酬額によって税率が異なるものの、計算方法はいたってシンプルです。
【支払われる額=100万円以下の場合】
支払われる額×10.21%=源泉徴収額
【支払われる額=100万円以上の場合】
(支払われる額-100万円)×20.42%+102,100円=源泉徴収額
いくら手取りで支払われるかを計算したい際には、【支払われる額-源泉徴収額=手取り】で算出できます。
「No.2793 報酬・料金等の源泉徴収義務者」(国税庁)
※上記ページ内にある「関連コード」で業務・業種ごとの源泉徴収額計算方法が確認できます
納付方法
源泉徴収の納税方法は、税務署の「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」と呼ばれる用紙を使って納税します。弁護士、税理士、司法書士等の報酬については、給与所得・退職所得等の納付書を使用してください。詳しくは、国税庁のホームページをチェックしてみてください。
「「納付書の記載のしかた(報酬・料金等の所得税徴収高計算書)」(国税庁)
納付期限
源泉徴収の対象となる報酬の支払いがあった場合、原則的に支払いのあった月の翌月10日が納税期限となるため、期限内に税務署へ納税しにいきましょう。納税期間を過ぎてしまうと、納税期限日から納税するまでの日数に応じた延滞税が発生します。
このとき、毎年納付するのが手間という方は、特例措置を適用し年に2回にまとめて納付できます。特例措置を適用させるための条件は給与を支払う従業員が常時10人未満の源泉徴収義務者であることです。また、特例措置を受けるためには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を給与等の支払いを行う事務所などの所在地を所轄する税務署に提出しておかなくてはいけません。
「[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」(国税庁)
フリーランスが源泉徴収で気をつけるべきこと
会社員と違ってフリーランスになると、すべての業務を自分で行わなくてはいけません。源泉徴収はお金にまつわることなので、シビアになっているフリーランスの方も多いでしょう。源泉徴収についてフリーランスが気をつけるべき点をいくつか紹介します。
確定申告に「源泉徴収税額」を記載する
「結局のところ源泉徴収は何を支払っているの?」と疑問に感じている人もいるかもしれません。源泉徴収では所得税を支払っています。
そのため確定申告をする際には源泉徴収額を必ず記載してください。源泉徴収額の記載が漏れてしまっていると、所得税を二重で支払うことになってしまいます。会社員の場合は年末調整で済みますが、フリーランスは確定申告をして所得税を納めなくてはいけません。必要以上に所得税を納税していないか、きちんと計算しておきましょう。
なお、確定申告で計算を誤り、税金を多く納め過ぎてしまった場合、還付をしてもらえます。還付をしてもらうためには、正しい金額に訂正するための更正の請求手続きが必要になります。また、5年間の期限付きなので注意しましょう。
「[手続名]所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続」(国税庁)
請求書の記載は消費税を別に記載する
源泉徴収は支払われる報酬だけでなく、それにかかる消費税についても源泉徴収の対象になります。ただし、請求書の中で本体価格となる報酬の金額と、消費税の金額が明らかに分けられている場合には本体価格のみが源泉徴収の対象となります。
【本体価格と消費税が分かれていない場合】
報酬 :110,000円(消費税込)
源泉徴収税額:110,000円×10.21%=11,231円
【本体価格と消費税が分かれていない場合】
報酬 :100,000円(消費税込)
消費税 :10,000円
源泉徴収税額:100,000円×10.21%=10,210円
請求書に源泉徴収額を記載する
フリーランスが請求書を発行する際、報酬に源泉徴収の対象となるものがある場合には請求書内に源泉徴収額の記載をします。
ただし、法律上、請求書に源泉徴収額を記載しなければいけないとは定められておらず、仮に記載がなかったとしても報酬を支払う側は源泉徴収をし税金を納めなくてはいけません。
しかし、源泉徴収額の記載を忘れてしまうと、支払う側も源泉徴収をし忘れてしまうことがあります。源泉徴収をしてもらえないと後から還付などの手間がかかってしまいます。スムーズに経理処理をするためにも、請求書に源泉徴収額は記載するようにしておきましょう。
源泉徴収で所得税を支払うので理解をしておこう
フリーランスになると会社員と違って、すべての手続きを自分で行わなくてはいけなくなります。
中でも請求書や確定申告などお金については、しっかり進めていきたいところです。源泉徴収はフリーランスが自分で納付しに行かなくてはいけないなどの手間はかからないものの、クライアントとの間で手違いが起きてしまうとスムーズな経理処理ができなくなってしまいます。お互いに気持ちよく仕事を進めるためにも、源泉徴収額を記載しておいたほうが良いでしょう。
フリーランスは源泉徴収で所得税を支払っています。「わからないからいいや」と思っていると、想定よりも多くの所得税を払っていた、なんてことになってしまいかねないので、注意しましょう。
<文/ちはる>