前回は、個人事業主の方から受ける相談でもっとも多い「必要経費」の考え方についてお伝えしました。
その中でも、特に相談が多いのが「車」関連の経費です。車経費が必要経費となるか、判断に迷われる方が非常に多いです。
例えば……
「車を2台所有しています。2台とも経費として認められますか?」
「プライベートでも仕事(事業)でも車を利用しています。その場合、何%まで経費として認められますか?」
「車の保険料や、自動車税、修繕費や車検にかかった費用は経費に入れられますか?」
……などなど。
実際に税理士や税務署の人はどのように「必要経費」を判断しているのか、前回までの記事では3つのステップ(経費判断の枠組み)をお伝えしました。
<経費判断の枠組み>
「大原則」に照らす(所得税法や裁判所の裁判例、国税庁が発表している指針=基本通達などに事実を当てはめて検討する)
⇩
(ステップ2)
過去の事例に照らす(過去の税務調査事例や、裁決事例、税務雑誌等を参考にする)
⇩
(ステップ3)
一般常識に照らす
今回は実際にそのステップに沿って、車の購入費等が経費となるか否かを見ていきましょう!
※前回の記事を読んでいなくても読み進められる内容となっていますので安心してください!
今回の記事を読めば、車の購入費に関する経費の考え方が明確になることでしょう!
まずは大原則から“必要経費”となる根拠を探ろう!
“大原則”による、車の購入費が経費に認められる根拠は?
個人事業主が事業所得を計算する上で「必要経費」に算入できる金額について、大原則の一つである「所得税法」に記載があります。
次が「必要経費」として認められる金額です。
(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
・収入を得るための活動と直接な因果の関連性があり、客観的にみて必要な支出は必要経費としてOK
・業務関連性がない経費は必要経費としてNG
この原則を「車」の場合に当てはめて考えてみましょう!(一部私の解釈があること、ご承知おき下さい)
・収入を得るための活動と直接な因果の関連性があり、客観的にみて必要な支出は必要経費としてOK
※ただし、経費算入する時期については注意しましょう。
・業務関連性がない経費は必要経費としてNG
⇒よく2ドアのスポーツカーや高級車は経費として認められないと言われますが、大原則(所得税法)には一切そんなことは書かれていません!
業務関連性があれば、必要経費として計上できる可能性があります。
⇒プライベート&個人事業の通勤・移動用として両方使う場面がある場合、少なくとも業務のための使用がある点で、業務関連性はあると言え、必要経費としてOKです。
ただし、次で紹介する「家事関連費」に当てはまらないか、注意が必要です。
⇒業務関連性が認められる車であるならば、それに伴い維持するための関連費用も経費計上OK!(車両保険、ガソリン代、自動車税、車検代や修繕費)
100%経費になるとは限らない?家事費
個人事業主の方が経費となるか否か検討する際に注意しないといけない事があります。
それは「家事費」と「家事関連費」という大原則です。
個人事業の方は、個人名義で車両を購入するのが一般的ですが、
・完全なプライベートもしくは事業で使用する場合、
または
・プライベートや事業の両方で使用する場合が考えられます。
大原則では、「家事費」と「家事関連費」という概念の中で、このプライベート部分は必要経費にならない事が示されています。
「家事関連費」・・・一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある支出の事を言います。必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
この大原則によれば、「家事費」すなわち、完全にプライベートで使用(消費)する車にかかる費用は経費として認められません!
また、プライベート&業務の両方で使用する車の場合、取引記録などに基づいて業務遂行上直接必要であったことを明らかに区分する必要があることが示されています。
問題は「プライベートでも使うし、事業の両方で使用する」という場合、どのように業務遂行上直接必要であったかを明らかに区分するのでしょうか。
「事業利用割合」の算定方法につき、税務上明確な「基準」は特にありません。
そのため、ここは経費判断の枠組みのステップ3、「一般常識」で判断します!
車の購入費の場合は一般的に、車の利用頻度(使用距離や使用日数)に基づいて按分するケースが多いです。
総利用距離10,000㎞(プライベート使用 5000㎞、事業で使用 5000㎞)
⇒事業で使用した割合の50%を経費(減価償却費)とする。
取引記録としては、実際の業務の使用時間や仕様距離・区間等を記したものを残しておくと良いでしょう!
さらに、カレンダーや手帳にどこにいって誰と会ったのか等、裏付けの記録を残しておくと安心です!
過去の事例から車の経費に関することを探ろう!
経費判断の枠組みとして、ステップ2は過去の事例に照らします(過去の税務調査事例や、裁決事例、税務雑誌等を参考にする)。
過去の事例には、経費性を判断するうえで重要なヒントが隠されています。
今回はその中で、実務上も重要な国税不服審判所の判決事例をご紹介します。
国税不服審判所の判決事例から学ぶ(一部前回の復習)
<国税不服審判所とは>
https://www.kfs.go.jp/introduction/
国税不服審判所は、国税に関する法律に基づく処分についての審査請求に対する裁決を行うことを目的に設置されました。国税庁の特別の機関として、執行機関である国税局や税務署から分離された別個の機関として設置されています。
税務調査が入り、ある支出が経費として認められないと税務署に主張され、処分がくだされたとしましょう。
この処分を国と争いたいとき、いきなり訴訟を起こすことはできません。
「国税不服審判所」に審査請求をするか、「税務署」に対して再調査の請求をします。
審査請求を受けた国税不服審判所では、審査請求人と原処分庁の各主張の間で争いのある点を中心に調査及び審理を行った上で裁決を行います。
その裁決事例のうち先例性があるものが国税不服審判所のホームページで公表されています。
税務調査を受けて、なおも争うことになった事例ですので参考になる部分が多いです。
それでは、次に車の必要経費についての事例を見ていきましょう!
重要な過去の裁決事例を読んでみよう!
国税不服審判所 平成7年10月12日裁決(非公開裁決)
※非公開裁決となるため、先程紹介した国税不服審判所のホームページには公表されていません。
https://www.kfs.go.jp/service/MP/index.html
原文を読むには、税理士向けのサイトになりますが税法データベースTAINSにて参照可能です。
<概要>
通勤や出張目的で購入したスポーツカー(フェラーリ)について、税務署が経費として認めなかったものの、国税不服審判所にてフェラーリについては経費として認められました。
※事案は、消費者金融業を営む「法人」の話となります。しかし、個人事業主の事業所得における必要経費を考える場合にも有用な事例であると考えられます。
<税務署が経費として認めなかった理由>
・購入理由が個人の趣味であり、事業の用に供するために取得されたものでない
・関係書類等からみて事業の用に供された実績が明らかでない
<国税不服審判所が経費として認めた理由>
・通勤及び支店を巡回指導する際の交通手段として使用していること
・個人的な趣味により選定したスポーツカータイプの乗用車であっても、事業の用に供されていることが推認できること
<推認するに至った事実関係>
・本件車両は、道路運送車両法に基づく車両の検査記録によると、平成6年7月26日に車検を受けるまでの3年間に、7,598キロメートル走行していること
・請求人は、本件車両のほか、会長及び役員用の乗用車としてロールスロイス及びベンツを所有していること。また、これらの車両は、使用する役員自身が運転し、車両の運転記録を作成していないこと
・会社の出張旅費規定によると、旅費は、交通費、宿泊料及び日当に区分され、社用車による日帰り出張の場合は旅費は支給しないことになっていること。
・実際の旅費精算書によると、交通実費としての通行料、宿泊料及び日当が支給されているが、交通費は支給されていないこと
<ポイント>
・たとえ個人的な趣味で選定した乗用車であっても、法人の事業として使用していることが推認できる事実があったため、国税不服審判所は乗用車を経費として認めた事例でした。
・過去の事例の読み方は、どういう事実に基づいてどのような結論になったかまで含めて読みましょう!結論だけ読むと、別な事例で検討する際、誤った解釈をしてしまう可能性があります。
今回の事例の場合、出張や通勤目的で購入した車両であれば経費としてOKと考えがちです。
また、複数台車を所有している場合は、1台だけ経費にしている場合、その車は必要経費として認められると考えがちです。
注意しないといけないのは、この事例の場合は、事業の用に供されていることが推認できたケースでした。
したがって、事業の用に供されていないと考えられるケース、例えば車を複数台保有していても、全く稼働していない場合や、稼働が少ないケースの場合は、経費として認められない可能性もあります。
個人事業主の場合は、大原則の所でお伝えした「家事関連費」の考えにより、使用頻度等に応じた家事按分も加味する必要があります。
下記、個人事業主の場合の車の家事按分について参考となるサイトリンクとなります。
※また、税理士によってもさまざまな見解があることがわかって頂けると思います。
freee税理士検索 使用頻度の少ない車両の家事按分について
今回のように、スポーツカーでも経費として認められた事例でしたので、安直にスポーツカー=経費に認められる。というように考えがちです。
しかし、大事なのは車両(今回のケースではスポーツカー)が事業の用に供されている点です。
スポーツカーが事業の用に供されているとは一般的に考えにくい。という点もあるため、しっかりと、事業の用に供されていると思われる事実は記録として残しておくと良いでしょう。
今回のまとめ
前回までの経費判断の枠組みを使って、個人事業主が「車」を経費する場合の検討事項をみてきました。
今回の事例でも、繰り返しになりますが、経費の枠組み(思考の軸)に当てはめて検討するということが大切です。
(ステップ1)
車が経費になるかという点を検討するときも、一番最初は「大原則」にあてはめてみましょう。
どの大原則を使うかわからないときは、税理士に相談しましょう!
大原則の中で、特に個人事業主の方に大事なのはこちらです!
「家事関連費」・・・一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある支出の事を言います。必要
経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
業務上必要であるかを確認しましょう。
その判断に迷ったら、過去の事例について税理士に相談してみましょう!
また、個人事業主の方はプライベート&事業として車を両方の場面で使っているケースは多いかと思います。そのような方は、しっかり取引記録を残しておくことが大切です!
(枠組み ステップ2)
スポーツカーが経費として認められた実務上重要とされる裁決事例をお届けしました。
過去の事例を見るうえでも結論だけを読んで解釈を誤ることや、大事な前提事実の見落としがないか確認しましょう!
「車の経費は半分までは認められると、周りの経営者が言っているから大丈夫」というような、安易な考えで根拠がないまま経費計上をしてしまうと、税務調査のときに痛い目にあってしまうかもしれません。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言います。
経費の判断も歴史(過去の事例)から学べることを感じ取ってもらえたのではないでしょうか?
文=齋藤 雄史
編集=内藤 祐介
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。
高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。
合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。
ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代〜30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。
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