数多の種類が存在する医療保険。
現在、日本には生命保険会社だけでも40社以上があり、さらに各社が展開する保険商品は多種多様に存在します。
あまりにも数が多すぎて「結局自分に合った医療保険が分からない……」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回、やさしいお金の専門家の横川楓先生に伺ったのは「若手フリーランスにおける、自分に合った医療保険」の見つけ方。
医療保険に悩める20代の若手イラストレーターの庵(いおり)ちゃんに、横川先生がアドバイスし、その様子を会話形式でお届けします。
「医療保険は、フリーランスだからこそしっかり考えてほしい」と語る横川先生。果たして、庵ちゃんに合う保険は見つかるのでしょうか?
横川楓さん
やさしいお金の専門家・経済評論家
明治大学法学部卒、その後同大学院へ進学、24歳で経営学修士(MBA)を取得。
実家は会計事務所を経営。同年代の友人たちのお金に対する意識と、将来の資産形成、所得格差、年金問題、増税など、これからの日本を担う世代に振りかかる様々なお金の問題との乖離に疑問を持ち、お金の知識の啓蒙活動を開始。
ファイナンシャルプランナー(AFP)や、マイナンバー管理アドバイザー、マネーマネジメント検定等の資格を取得する。
「収入=給与」に縛られない。経済評論家・横川楓さんに聞く、独立・起業に必要な2つの条件
庵(いおり)
イラストレーター
都内に勤める、27歳の会社員。
学生時代から絵を描くことが好きで、数年前から副業としてイラストレーターの仕事を受けるようになった。
近年は副業での収入が本業の稼ぎより多くなったことから、満を辞して独立を決意。
前回の取材を経て、晴れてイラストレーターとして独立。今回は「お金の管理」の重要性について、横川先生に伺います!
「配偶者やこどものいない独身フリーランサー」は、とりあえずベーシックなプランの医療保険を検討するべし
横川先生、今日もよろしくお願いします!
こちらこそよろしくね、庵ちゃん。今回は「保険」がテーマなんだけど、そもそも保険というものは大きく2つの種類に分けられるんだけど、知ってるかな?
2種類?
1つ目は公的医療保険。フリーランスの人が加入する国民健康保険や、主に会社員が加入する(健康保険組合や全国健康保険協会による)健康保険のことだよ。
日本は国民皆保険制度といって、国民全員が公的医療保険に加入しなければならなくて。
公的医療保険にはいろんな特徴があるのだけど「医療費の3割負担」なんかは分かりやすいんじゃないかな?
そういえば会社員時代から保険証が変わったのに、支払う医療費は3割負担のままでした。
そうそう。それは会社員もフリーランスも、公的医療保険に加入しているから。
そしてもう1つは民間の医療保険。これは民間の生命保険会社が販売している保険商品のこと。よくあるのが「入院1日いくら」「手術1回いくら」といったベーシックなタイプの保険。
民間の会社の商品であることから、当然公的医療保険のように国民全員が加入する必要はないの。
でもいくら医療費が3割負担といっても、入院した場合はベッド代や食事代なんかで意外と費用がかかるんだよね。
そうした公的医療保険でカバーしきれない範囲の費用負担を軽減できるのが、民間の医療保険のメリットね。
たしかに、入院や手術って聞くだけでお金かかりそうですよね……。民間の医療保険ってたくさん種類があって、なんだかよく分からないんですけど、とりあえず今の私が検討した方がいい保険ってどんな保険なんですか?
たしかに保険会社各社でいろんなタイプの商品があるから、迷ってしまうよね。
庵ちゃんにおすすめするとしたら……まずはベーシックな医療保険を検討して欲しいかな。
ベーシックな保険というと?
「入院1日いくら」「手術1回いくら」といったタイプの商品のことだよ。
一方で、まだ若くて独身の庵ちゃんにとって死亡保険なんかはあまり必要ないかもしれないね。
保険、と聞くと死亡保険とか、がん保険なんかを想像しちゃいます。名前だけで中身はあんまり分からないんですけど……(苦笑)。
実際そういった保険はCMなんかがよく放映されているし「保険といえばがん保険!」といった具合で想像しやすいよね。
でも死亡保険はあくまで「残された家族」に支払われるもの。まだ配偶者やこどもがいない庵ちゃんにはあまり必要とは言えないかな。
もっとも、保険料は控除の対象になるから、節税的観点では悪い選択肢ではないと思うけれど……。
それよりは、いま生きている自分が病気やケガの時にケアしてくれるお金の方が必要だと思うの。
生きてる間にお金が欲しいです!
そうだよね(笑)。
だから基本的にはそういった「入院、手術でもらえる保険」をベースに、あとは必要に応じて自分が付けたいオプションを追加していくというイメージかな。
庵ちゃんのような女性のフリーランスこそ、なるべく早めに医療保険に加入しておいた方がいいという面もあって……。
フリーランスは保障が「ないないづくし」? 女性こそ医療保険に加入するべき理由
なんで女性こそ医療保険に加入した方がいいんですか?
ここからは世知辛い話になるのだけど……。
え……?(不安)
フリーランスって本当に保障が「ないないづくし」。
まず初めに、会社員の「傷病手当金」に当たる制度がないの。
傷病手当金?
傷病手当金というのは、病気やケガをして休業をした時に給付されるお金のこと。端的に言えば「病気やケガで会社を休んでしまっても、収入の2/3程度を保障しますよ」というもの。
でもこのお金は健康保険から支払われているから、国民健康保険のフリーランスの人は対象外。
加えて育児休業給付金はもちろん、出産手当金もフリーランスはもらえないんだ。
本当に「ないないづくし」なんですね(泣)。
うーん……。この辺りはどうしても会社員の方が保障が厚いと言えるよね。
基本的にいずれも「給与所得」に基づいて算出されるから、「事業所得」であるフリーランスは対象外になってしまうんだ。
何か、何か救いはないのでしょうか……?
だからこそ、普段からの貯蓄を多く持っておくことと、何かあったときのために民間の医療保険にも早めに加入しておくことを検討してみてほしいな。
例えば出産のときに通常分娩ではなく、帝王切開になった時の入院や手術も医療保険の対象。
フリーランスの人は会社員の人にある保障がない分、少しでも病気やけがの時の金銭的負担を減らすためにも医療保険は入っておくといいかもしれないね。
基本は掛け捨てでOK! 保険貧乏フリーランサーにならないために必要な、2つのポイント!
本当に世知辛いんですね……。
まぁ今回はあくまで「保険」という軸でお話したから、そう見えてしまうけど……。
妊娠出産に関しては、各地方自治体でも申請すればお金をもらえたりするから、しっかり調べてみてね。
ちなみに民間の医療保険には、貯蓄型や掛け捨て型など、いろいろな種類があるけれど、さっきも話した通り今の庵ちゃんには、ベーシックなタイプの「掛け捨て保険」でいいと思う。
掛け捨てだから、例えば「支払ったお金が解約時に返ってくる」とかではないんだけど、その分気軽に安く入れるし、最低限の保障をしてくれるものがほとんど。
安いものであれば、月千円程度から入れるものがあるよ。
その上でもし働けなくなった時のことを考えるなら「収入保障型」の保険なんていうのもあるから、調べてみてね。
収入保障なんていうのもあるんですか?
うん。「就業不能保険」といって、「働けなくなった場合、月●●万円支給します」といったものもあるよ。
その他、女性特有の病気等をケアできる商品もあったりするから、その辺りは必要に応じて調べてみて!
でもまずは病気やけがに備えて、「ベーシックで安い掛け捨ての医療保険」から考えてみること。
ちなみに保険を見直すべきタイミングとかってありますか?
基本的にはライフイベントに応じて、という感じかな。
例えば結婚したり、こどもが生まれたりといったケースだったり、あとはプランによってはもしフリーランスを辞めて再就職をすることになった場合も、一応気にしてみるといいかもしれないね。
会社員……! やっぱり待遇がいい……!
(笑)。ともあれ、今回のポイントは2つ。
1つ目はここまで話してきたように、庵ちゃんのように、独身の若いフリーランサーはまずはベーシックな掛け捨ての医療保険から検討すること。
そしてもう1つ、保険はあくまで何かあった時のための“保険”として捉えておくこと。
まだまだ若くて健康な、フリーランス1年生の庵ちゃんにとって何より大切なのは、まずは目先のお仕事をがんばること。
変に心配しすぎて、安くない保険料をたくさん払って、家計を圧迫してしまっては元も子もないからね(笑)。
最低限の保険に加入した上で、あとはたくさん仕事をがんばって、その分、貯蓄をしていく。
そして結婚をしたり、家族ができた時にまた考えればいい。
もしもの時のことを頭の片隅に置いておきつつ、いっぱいイラストの仕事をがんばってね!
この2つのポイントを抑えて、自分なりの保険を検討してみたいと思います。今回もありがとうございましたっ!
構成・文・撮影=内藤 祐介
イラスト=ram