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2割特例が必ずしも得とは限らない? インボイス制度、消費税の計算方法を税理士が解説!

2割特例が必ずしも得とは限らない? インボイス制度、消費税の計算方法を税理士が解説!

10月1日から「インボイス制度」がスタートしました!

前回の記事では、買手のインボイス対応方法についてお伝えしました。

知らないと実質増税の可能性? 買手としての「インボイス制度」対応方法を税理士が解説

中でも特に衝撃だったのが、インボイス制度は「消費税」の制度の改正であり、正しい知識を身につけないと知らない間に実質増税となる可能性があるという点です。

そこで今回は、実質増税にならないために大切な知識である「3つの消費税の計算方式」をお届けします!

3つの消費税計算方式とは「原則課税=本則課税」「簡易課税」「2割特例」のことでした。

そもそも、消費税の計算方式が3つあることを知らない方も多くいるでしょう。

3つの計算方式によって、納める消費税額が大きく変わることも。

特に注意が必要なのは、インボイス制度を機に消費税の課税事業者になり「2割特例」の対象となる方です!

今回の記事では、

・3つの計算方式について詳しく知りたい!
・3つの計算方式で、それぞれ納税額はどれくらい変わる?
・結局、どの計算方式を選べば良いのか、判断基準を知りたい!

このような疑問にお応えすべく、消費税の計算方式について、簡単な例を用いて解説していきます!

概要編~消費税計算方式は3つ~

ここでは、ざっくり各計算方式の全体像を押えましょう。

計算方式は、例示と合わせながら読んでいきましょう。

「原則課税(本則課税・一般課税)」

・売手から受け取った消費税から、実際に支払った消費税を控除して納税額を算定する計算方式。

「簡易課税」

・売手から受け取った消費税額に一定の割合(みなし仕入率)を乗じて納税額を計算する方式。
売手から受け取った消費税額がわかれば簡単に消費税を計算できる方式。

<注意点>
・基準期間(※個人事業主であるフリーランスの方は前々年)の課税売上高が5,000万円以下であれば適用可能。
・簡易課税を選択するには、事前に税務署へ届出が必要!

「2割特例」

・売手から受け取った消費税額に一定の割合(売上税額の8割)を乗じて納税額を計算する方式。
・簡易課税と計算方式が似ていて、売手からの受け取った消費税額がわかれば簡単に消費税を計算可能。
※下図の計算イメージを参照下さい。
・もともと免税事業者だったけど、インボイス登録事業者の登録をしたことによって課税事業者になった方向けの計算方式。

<2割特例の注意点>
・前々年度の課税売上高が1000万円を超える事業者等は適用対象外。
・事前の届出は不要!

【各計算方式のイメージ図】

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm

【簡易課税制度の概要】

財務省:消費税の中小・小規模事業者向けの特例に関する資料

事例編〜3つの計算方式でどれがお得?〜

実際にどれくらいの金額の消費税を納めなければならないのか、簡単な例題を5つ用意しました。

3つの計算式で消費税の納税額がいくらになるか、各事例ごとに見ていきましょう!

ケース1~5はすべて売上は1,000万円と同じ金額に設定にしております(経費の内訳がそれぞれ違います)。

先にヒントをお伝えすると、「簡易課税」と「2割特例」の計算方式の場合、ケース1~5はすべて同じ消費税の納税額になります!

3つの計算方式の消費税額の納税額の算定方法について、ざっくりまとめます。

原則課税の計算方式:「売上にかかる消費税-経費にかかる消費税
簡易課税の計算方式:「売上にかかる消費税-売上にかかる消費税 × みなし仕入率
2割特例の計算方式:「売上にかかる消費税-(売上にかかる消費税 × 80%)

文字だけだとイメージできない方も、例題をみることで計算式の理解が進むかと思います!

※1 計算式のイメージをもって頂きたく、計算過程等を省略・簡略化しております。
※2 正確な計算方法を知りたい方はこちらをご覧下さい。

国税庁:消費税 納付税額の計算のしかた

ケース1)通常のケース

【前提】
サービス業を営むAさん。その1年間の収支は以下のとおりです。ここでは、適用税率はすべて10%とします。

【計算過程】

①原則方式:「売上にかかる消費税-経費にかかる消費税」
1,000万円×10%-(200万円+100万円+50万円+300万円)×10%=35万円

②簡易方式:「売上にかかる消費税-売上にかかる消費税×みなし仕入率」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%)×50%=50万円

“概要編”でお伝えしたとおり、「みなし仕入率」というのは、業種毎に決められています。
例題の場合は「サービス業」ですのでみなし仕入率は50%となります。なお、小売業は80%、不動産業は40%です。

国税庁:簡易課税

③2割特例:計算式「売上にかかる消費税額 -(売上にかかる消費税額 × 80%)」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×80%)=20万円

【計算結果】

原則課税:35万円
簡易課税:50万円
2割特例:20万円

【結論】

2割特例 20万円<原則課税 35万円 <簡易課税 50万円

この事例の場合、2割特例が一番お得ということがわかりました。

ケース2)人件費(給与)が多いケース

人件費(給与)は、所得税の計算上「経費」として認められますが、消費税の計算上は「経費」として認められません

ケース1では人件費0円、外注費300万円です。
ケース2では人件費300万円、外注費が0円の場合です。
税額はどのように変わるのか注目して見ていきましょう!

【計算過程】

①原則方式:「売上にかかる消費税-経費にかかる消費税」
1,000万円×10%-(200万円+100万円+50万円)×10%=65万円

②簡易方式:「売上にかかる消費税-売上にかかる消費税×みなし仕入率」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×50%)=50万円

③2割特例:「売上にかかる消費税額 -(売上にかかる消費税額 × 80%)」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×80%)=20万円

【計算結果】

原則課税:65万円
簡易課税:50万円
2割特例:20万円

【結論】

2割特例 20万円<簡易 50万円 <原則65万円

2割特例が一番お得となりました。

経費の内訳が変わっても、「2割特例」や「簡易課税」の計算には影響を及ぼしません。
そのため、ケース1と同じ納税額になりました。
なぜなら計算式で示したとおり、「2割特例」や「簡易課税」はあくまで売上にかかる消費税をもとに納税額を計算する方式のためです!

人件費のような、消費税の計算上経費とならない項目の割合が高い場合は、2割特例や簡易課税がお得となるケースが多いです。

ケース3)経費が少ない事業のケース

【計算過程】

①原則方式:「売上にかかる消費税-経費にかかる消費税」
1,000万円×10%-(100万円×10%)=90万円

②簡易方式:「売上にかかる消費税-売上にかかる消費税×みなし仕入率」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×50%)=50万円

③2割特例:「売上にかかる消費税額 -(売上にかかる消費税額 × 80%)」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×80%)=20万円

【計算結果】

原則課税:90万円
簡易課税:50万円
2割特例:20万円

【結論】

2割特例 20万円<簡易課税 50万円 <原則課税 90万円

経費の内訳が変わっても、「2割特例」や「簡易課税」の計算には影響を及ぼしません。
そのため、ケース1とケース2と同じ納税額になりました。

経費が少ない事業の場合は、2割特例や簡易課税がお得となるケースが多いです。

ケース4)経費が多い(赤字)のケース

【計算過程】

①原則方式:「売上にかかる消費税-経費にかかる消費税」
1,000万円×10%-(200万円+200万円+200万円+500万円×10%)=△10万円

②簡易方式:「売上にかかる消費税-売上にかかる消費税×みなし仕入率」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×50%)=50万円

③2割特例:「売上にかかる消費税額 -(売上にかかる消費税額 × 80%)」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×80%)=20万円

【計算結果】

原則課税:△10万円
簡易課税:50万円
2割特例:20万円

【結論】

原則課税 △10万円<2割特例 50万円 <簡易課税 90万円

ケース2やケース3同様、経費の内訳が変わっても、「2割特例」や「簡易課税」の計算には影響を及ぼしません。
そのため、ケース1とケース2と同じ納税額になりました。

注目するべきなのは、「原則課税」の場合、10万円が還付されるということです!

消費税は払う場合だけでなくて、申告して還付(=税務署から税金が戻ってくる)される事もあるのです!

「2割特例」が必ずしも有利とは限らない、という事を覚えておきましょう!

ケース5)多額の固定資産の購入(設備投資)があるケース

【計算過程】

①原則方式:「売上にかかる消費税-経費にかかる消費税」
1,000万円×10%-(200万円+100万円+50万円+300万円+500万円)×10%=△15万円
※経費にかかる消費税には、設備投資(車両や備品の固定資産の購入)も含まれます!

②簡易方式:「売上にかかる消費税-売上にかかる消費税×みなし仕入率」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×50%)=50万円

③2割特例:「売上にかかる消費税額 -(売上にかかる消費税額 × 80%)」
1,000万円×10%-(1,000万円×10%×80%)=20万円

【計算結果】

原則課税:△15万円
簡易課税:50万円
2割特例:20万円

【結論】

原則課税 △15万円<2割特例 50万円 <簡易課税 90万円

ケース2やケース3、ケース4同様、経費の内訳が変わっても、「2割特例」や「簡易課税」の計算には影響を及ぼしません。
そのため、ケース1とケース2、ケースと同じ納税額になりました。

「原則課税」の場合、設備投資にかかる消費税を計算上差し引ける事もあり、15万円が還付される結果となりました!

このように、黒字ではあるものの車両や備品等の大きな設備投資がある場合は、「原則課税」が有利となることがあるということを覚えておきましょう!

この章のまとめ

原則課税

・実際に支払った消費税をもとに税務署へ納付する消費税を計算するので、多く払いすぎた場合は消費税が還付される
・赤字の場合や多額の設備投資がある場合は原則課税の計算方式が有利になることも
・仕入にかかる消費税も計算しないといけないので、他の計算方式に比べて手間暇は格段に多い

簡易課税

・売上にかかる消費税を元に消費税を計算するので、経費の内訳が計算に影響を及ぼさない
・業種毎のみなし仕入率により、納付する消費税が変わる
・経費や設備投資が少ない場合、原則課税より有利になることも

2割特例

・売上にかかる消費税を元に消費税を計算するので、経費の内訳が計算に影響を及ぼさない
・売上にかかる消費税の20%が納税額になるので、計算が簡単
・簡易課税より2割特例の方が有利(ただし、第1種卸売業以外の業種は除く。みなし仕入率が90%のため)

「2割特例」対象の方は注意!申告時まで消費税の計算方式(税務ポジション)を判断できない可能性あり!

「2割特例」を受けるには事前の登録等が不要でした。

そして、「2割特例」を適用できる方は、「原則課税」「簡易課税」を適用するか選択可能となっています!


https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm

注目は、申告時のタイミングに「原則課税」か「2割特例」を適用するか決めることが可能という点です。

※事前に「簡易課税適用の事前の届出」がある方は、「簡易課税」か「2割特例」を適用するか申告時に選択できます。

国税庁:インボイス制度における注意すべき事例 「簡易課税選択届出書」にかかる記載を参照

申告時に選択できるメリット

申告時に、「原則課税」と「2割特例」のそれぞれの消費税額を計算し、一番消費税が低くなる方法を選択可能というメリットがあります!

ただし、どっちが有利になるか申告時に計算してみないとわからない場合、税務ポジションが申告時まで確定できないというデメリットもあります!

例)申告時に消費税額を計算してみた結果

【計算結果】

「原則課税」による消費税額:50万円
「2割特例」による消費税額:150万円

【結論】

「原則課税」の方が消費税額が100万円低くなるので有利。よって、「原則課税」を選択適用する。
ただし、「原則課税」を適用する場合は買手としてのインボイス対応が必要(売手からインボイスをもらい保存するなど)。

※「簡易課税」の届出がある方は、「簡易課税」と「2割特例」の消費税額で比較可能。

2割特例か原則課税・簡易課税を選ぶか迷ったときは?

「簡易課税」「2割特例」の方は「買手」としてのインボイス対応は特段不要です。

そのため、「原則課税」か「2割特例」のどちらになるか申告時にならないとわからない方は、「原則課税」になる可能性にも備えて、買手としての準備が必要となります。

対処方法としては、最初から「2割特例」を選択すると決めてしまうのもありです。

「原則課税」が有利となる可能性が高いケース:

・赤字の場合
・大きな設備投資等がある場合

このようなケースに該当しなさそうな方は、最初から「2割特例」を選んでしまえば「買手」としての準備が不要なので、事務負担は大幅に軽減されます。

今回のまとめ

今回の記事では、

①3つの計算方式(原則課税、簡易課税、2割特例)についてお伝えしました!
②3つの計算方式で、それぞれ納税額はどれくらい変わるか、事例を通してお届けしました。

「2割特例」と「簡易課税」の計算式が似ています。

また、「2割特例」も、「簡易課税」も仕入税額の実額計算が不要でした。

そのため、メリットとして納税予測が比較的簡易で、買手としてのインボイス対応も不要です。

「原則課税」の場合、消費税が還付されるケースがあることも知っておきましょう!

③どの計算方式を選べばよいか?

3つのうちどの計算方式を採用すべきかは一概に断言できません。

事例でみたとおり、業種や業績、売上や経費の内容により、ケースバイケースです。

「簡易課税」は事前に届出を提出する必要があり、将来の損益予測や設備投資等の計画に基づいて実務上判断することが多いです。

このような事があり、どの計算方式を採用するかは、税理士でも意見がわかれるかと思います。

だからこそ、自社はどうするべきか正しい知識を身につけることが大切です。

知らない間に損をしないためにも、計算方式の正しい知識を身につけていきましょう!

文=齋藤 雄史
編集=内藤 祐介

<プロフィール>
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。

高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。

合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。

ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代〜30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。

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