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事業譲渡を行った際に従業員の有給休暇はどう扱うべきか

事業譲渡を行った際に従業員の有給休暇はどう扱うべきか

最近では企業の買収(M&A)や合併が一般的になりました。

事業を継続していくなかで、“会社を他社に売却”したり“他社と合併”したりするのです。

では、売却や合併をした際、それまで繰り越されてきた従業員の有給休暇などはどうなってしまうのでしょうか。

ここでは、事業譲渡や合併した際の、有給休暇の取り扱いについて解説していきます。

事業譲渡した際に有給休暇はどうなるのか?

一概に事業譲渡といってもさまざまな形態があります。

1つは合併であり、会社全体が別の会社と一緒になることです。

また、合併にも“1つの会社が他社に吸収される吸収合併”と“新しく新設される会社に合併される新設合併”があり、それぞれで取り扱いが異なります。

もう1つの形態は会社分割であり、会社の一部を別の会社に移すことを指します。

どの形態による事業譲渡かで有給休暇の取り扱いに違いが出るため、場合に分けて解説していきます。

1.吸収合併する場合

会社が合併した場合、会社法750条では「吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継する。」と規定されていて、原則的にはそれまでの労働契約を承継しなければなりません。

したがって有給休暇の取り扱いについても、そのまま引き継ぐことになります。

しかし1つの会社に複数の人事制度が存在する状態は会社としては好ましくなく、改善したいと思うのが一般的でしょう。

合併後、一定期間が過ぎた段階で、人事制度を統合することを検討すべきです。

ただし、労働契約法9条では「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」(不利益変更の禁止)とされています。

労働条件を変更する際には組合などとの合意が必要となるので注意しましょう。

2.新設合併や会社分割をする場合

M&Aでは会社の一部の事業だけを他社に売却することがある一方で、いくつかの会社を新設する1つの会社にまとめることもあります。

この2つの場合では、労働契約を承継するかどうか、分割計画書(分割契約書、分割協議書など)によって決まるのです。

一般的に新設合併や会社分割の場合、吸収合併とは違って従業員と新たに労働契約を結ぶことが多いです。

したがって、有給休暇を引き継がないこともできます。

先述したように、会社による労働条件の不利益変更は禁止されていますが、合理的な範囲内での変更は認められているのです。

もし、会社から提示された労働契約に不満があれば、従業員は条件付きで異議を申し出ることができるようになっています(会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律4条)。

従業員は引き継ぎではなく転籍となる?

新設合併や会社分割をする場合、従業員は引き継ぎではなく“転籍させる”のが一般的です。

転籍となると、前の会社を一旦辞めて新しい会社に入ることになるので、勤続年数や有給休暇についてもリセットして新しい労働契約を結びます。

ただし、変更が大幅すぎると転籍を機に従業員が辞めてしまうこともあるので、勤続年数の通算・有給休暇の引き継ぎについても検討しなければなりません。

会社の状況に応じて、調整をしていきましょう。

事業譲渡の際に有給休暇の買い取りを行うには

転籍のために有給休暇が減らされる場合、転籍する前に有給休暇を取得する従業員が出てくるかもしれません。

ただし、会社には時季変更権というものがあり、転籍の人が一斉に休暇を取ると業務に支障が出る場合にはその取得を変更させる権利があります。

したがって、転籍前の大量の有給休暇取得は制限することが可能です。

では、従業員から「消化できない有給休暇は買い取ってもらえないか」と申し出があった際はどのように対処したら良いのでしょうか。

有給休暇を買い取ることは、一定の条件を満たす場合を除いて原則的には“違法”です。

一定の条件とは、以下の3つになります。

・退職時に、未消化分の有給休暇を買い上げる場合
・すでに時効(2年間)よって消滅してしまった有給休暇を買い上げる場合
・労働基準法で定めた有給休暇の法定付与日数を超える部分を買い上げる場合

つまり、法定付与日数を持ち越されている有給休暇は買い取ることができますが、単純な未消化の場合は退職時でない限り買い取ることはできないのです。

事業譲渡では、転籍者に対して特例として買い取るなどの対応をすることも可能です。

会社の状況や従業員の反応を見て選択しましょう。

まとめ

事業譲渡では、吸収合併であれば労働契約をそのまま引き継ぐため、原則的には有給休暇の取り扱いを引き継ぐ必要があります。

一方、新設合併や会社分割などの場合には、新たに労働契約を結ぶため有給休暇を引き継がなくても問題ありません。

ただし、従業員が転籍を機に辞めてしまわないように、従業員があまりに不利になる変更は避けたほうが良いでしょう。

経営の舵取りは難しいですが、しっかりとした知識を蓄えて、会社を発展させてください。

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PROFILE

ファイナンシャルプランナー・行政書士 青野 泰弘

1964年静岡県生まれ。同志社大学法学部卒業後、国際証券に入社。その後トヨタファイナンシャルサービス証券、コスモ証券などで債券の引き受けやデリバティブ商品の組成などに従事した。2012年にFPおよび行政書士として独立。相続、遺言や海外投資などの分野に強みを持つ。

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