未経験でゼロから独立すると、開業準備を進める中で自分なりにいかにその仕事への知見を深めても、顧客からは実績や経験を求められるもの。
未経験者がいきなり自分の望む仕事に挑戦しようと思っても、そもそも挑戦の場すら与えられない、ということは往々にしてよくあることです。
今回お話を伺ったのは、システムプロジェクトマネージャーの石井勇多さん。
実は石井さんは整体師として独立後に、システム開発に事業転換したという、異色の経歴を持っています。今回はそんな石井さんのキャリアとともに、異業種への事業転換を成功させた秘訣について伺いました。
石井勇多さん
システムプロジェクトマネージャー
専門学校を卒業後、理学療法士として病院勤務を始める。2019年には、整体師として独立。効率化のため、整体事業での顧客管理や予約、決済システムの構築を自ら行う。
2020年にビジネス交流会をきっかけに仲良くなったエンジニアと共に仕事をするようになり、システム関連の仕事を請け負うように。現在は様々な企業からシステム開発を受託し、プロジェクトマネジメントに従事している。
整体師からシステム開発へ転向。石井さんの異色のキャリア
――まずは石井さんの現在の仕事について、簡単に教えてください。
フリーランスでシステムプロジェクトマネージャー(PM)という仕事をしています。
企業から業務システムやアプリ開発、データベースの構築といった仕事を受託し、システム開発の目標設定や予算の管理、開発計画の立案、一緒に仕事をするエンジニアへの発注など、開発に関わる全般の管理をしているんです。
その他、最近では主にInstagramにおいて、ChatGPTなど最新の技術についての情報発信も行っています。
――石井さんは独立以前から、システム開発に関わる仕事を行っていたのでしょうか?
いえ、実は全く違う仕事をしていました。
専門学校を卒業して、理学療法士として病院に勤務するところから、僕のキャリアは始まりました。
そして2019年にシステム関連の仕事ではなく、整体師として独立したんです。
――全く業種の異なる仕事ですね。なぜキャリアを転向していったのでしょう?
実は整体師として独立した時に、効率化を目指すために顧客管理や予約、決済システムを自分で作ってみたんです。
そんな中、ある時ビジネス交流会に参加する機会があったのですが、そこで出会ったエンジニアの方に自分でシステムを作った話をしたら、面白がってもらえて。
次第に開発の仕事に興味が湧くようになり、整体師の傍ら、現在のような仕事も並行してスタートさせました。そして今は整体師としてではなく、システムの仕事をするようになったんです。
「実績」も「経験」も、待っているだけでは生まれない。異業種への事業転換で必要なこと
――整体師からシステム開発への事業転換。全くの異業種なので、かなり苦労されたのではないでしょうか?
そうですね、特に初期は大変でした。
あるベンチャー企業にシステム開発のプロジェクトマネージャーとして業務委託で携わらせていただいたことがありました。
ですが、その会社がまだ小さかったこともあり、人手が足りず、成り行きで様々な仕事をするようになり、気づけば総務や営業、人事の領域の仕事まで担当するようになっていたんです(笑)。
当時の僕にはシステム開発の実績も経験も足りなかったので、自分にできることはとにかく夢中で取り組もうと思っていました。
そして頑張った甲斐があり、わずか4カ月で売り上げが当初の50倍になりました。他の会社からもお仕事をいただけるようになり、少しずつ現在のような仕事をするようになっていきました。
――異業種での事業転換において、まずは信頼していただけるだけの行動をすることが大切なんですね。
事業転換に限らず、仕事は信頼を得ることが第一だと僕は考えています。
そのために指標として分かりやすいのは、やはりその事業での「実績」なのですが、事業を始めて最初の頃はその実績がどうしても足りない。
だからこそ僕は、様々な方法でお客さまに信頼していただけるよう、意識して行動していました。
――どういった行動をされたのでしょう?
例えば、先ほどお話しした業務委託先のように、時には領域外の仕事もして、結果を出すことにコミットしたり、交流会や飲み会に積極的に参加して、僕という人間を知っていただいたり。
そこから生まれたどんな小さな仕事でも、全力で取り組みました。「実績」や「経験」は、待っているだけでは生まれません。
実績がなかったり未経験から事業をスタートしたりするためには、時に自分の領域外だったとしても、手段にとらわれることなく体当たりで挑戦してみることが大切だと僕は思います。
――以前のお仕事と比べて、変化を感じることはありますか?
市場の規模は大きくなったなと、改めて感じました。IT人材やエンジニアは人手不足と言われて久しいです。
逆にいえばそれだけ需要があり、きちんと実績と経験を積んでいければ、仕事を作っていけると思います。
そういう意味では、異業種でも比較的参入しやすい業界だったのかもしれません。
とはいえ、先ほどもお話しした通り、元々僕はシステム開発の事業は全くの未経験でした。自分でシステムを作った経験があるとはいえ、ゼロから仕事を受注するにはそれなりに苦労しました。
特に異業種での独立、あるいは事業転換によって、ゼロから実績を作るのはIT業界に限らず、どの業界においても難しいと思います。
でもそこで思考停止することなく、あの手この手で仕事を勝ち取る姿勢が、独立・起業に求められる力なんじゃないかと僕は思います。
仕事は「総合力」で勝ち取るもの。実績ゼロの未経験でも仕事を手に入れるために
――石井さんのこれからの展望を教えてください。
現在はフリーランスとして事業を行っているのですが、まずは法人化することが直近の目標です。
今でもエンジニアだけでなく、様々な業種・職種の人とチームを組んで動くことが多いのですが、法人化することで、よりたくさんの人と一緒に仕事ができたらと思います。
そして日本にもっとたくさんのIT人材を創出して、その人たちが働きやすい環境を作り出せるような、1つの居場所になれたら嬉しいですね。
――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
「仕事の報酬は仕事」とはよく言ったもので、フリーランスになって以降、とても切実にこの言葉の重みを感じます。
最初は、誰でも実績ゼロからキャリアが始まるものです。
「仕事の実績はないけど、この人に仕事を頼んでみたい」と思われる人材になるには、仕事以外での能力、その人の持つ「総合力」が必要です。
手に職をつける世界なら、その人の持つ技能が優れているかももちろん大事ですが、それ以前に人と関係性を築けたり、営業ができたり、適切なコミュニケーションが取れたりするかといった面も重要だと、考えています。
もしそういったことが苦手なら、コミュニケーション能力の高い人と組んで、力を借りるのも全然ありだと思います。
特にフリーランスで事業を立ち上げる場合は、顧客からあらゆる能力をトータルで判断されます。
もし事業転換に悩んでいる方や仕事が見つからなくて困っている方がいれば、ぜひ参考にしていただけたらとても嬉しいです。
取材・文=内藤 祐介