起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第87回・「住みたい街」の条件
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
新型コロナウイルスで売り上げが落ち込んだ業界への需要喚起のために始まったのが「Go To キャンペーン」で、最初が「Go To トラベル」でした。最近では利用者が増えてきて観光地もにぎわいを見せていますが、キャンペーンが開始した2020年7月22日からの約2カ月間で、実は全体予算のたった6%ほどしか利用されませんでした。
一方で最初から好調なのが、その次に始まった「Go To イート」です。10月1日に開始後、半月ほどで延べ1000万件を超える予約があり、その後も予約のペースは上がっているといわれます。
旅行と外食では1回に使う金額に大きな差があるのは確かですが、間違いなく「Go To イート」は始まった時からすごい勢いだったのです。
それでは解説します!
そんな「Go To イート」ですが、当初から批判も含めいろいろな意見がありました。その1つが「トリキの錬金術」です。焼き鳥チェーン「鳥貴族」で298円の商品を一品だけ注文して1000円分のポイントをもらう人が続出したことで、ルールの甘さが指摘されるきっかけとなりました。結果、ルールが見直されたのは記憶に新しいところです。
最近では、「無限くら寿司」が話題となっています。「Go To イート」を利用して回転寿司チェーンの「くら寿司」を予約して食事をすれば、2回目以降は無限に無料で食べられるというものです。
夕食時に2人以上で予約して1人1000円以上の食事をした場合、人数分×1000ポイントがもらえます。すると次回はそのポイントで食事ができ、さらにまたポイントがもらえるので、その次もまたポイントで食事ができる…というわけで、まさに無限に食べられちゃうのです。
ただ、こちらについてはくら寿司側も推奨しているように、お店側に大きなメリットが発生しています。ルール改正後の範囲内での利用となるので悪質性もありません。そしてそれこそが、「Go To イート」がキャンペーンとして非常にうまく機能している一番の理由なのです。
もらったポイントの有効期限は2021年3月末まで(ポイントの付与は1月末まで)ですから、もらったポイントを使うためには、またお店に足を運ぶ必要があります。つまり、一度「Go To イート」を利用すれば、自ずと「また行こう」という行動喚起につながるわけで、お店側としては非常にありがたい話です。もちろん利用客もポイントで安く食べられるわけですから、みんながお得なのです。
「1回で終わりのもの」と「何回も使えるもの」
「Go To トラベル」は、旅行代金が最大35%割引となり、さらに15%相当の地域共通クーポンが紙か電子で発行される仕組みです。大きく違うのは、もらえる地域共通クーポンが使えるのは「旅行期間中のみ」だということ。つまり、旅行の間に使い切れなかったものは全て無駄になってしまいます。
ここに「Go To トラベル」と「Go To イート」の差があります。
もしかすると、「Go To イート」と同じ発想で地域共通クーポンの有効期限を伸ばせば、「クーポンも残っているし、また同じところに旅行しようか」という行動喚起につながったかもしれません。
なぜそうしなかったのかは分かりません。「紙のクーポンだと転売される可能性がある」といったことも懸念点だったのかもしれませんが、1つ想像できるのは、制度設計時はまさに試行錯誤だったのではないか、ということです。狙って「無限くら寿司」が生まれたわけではないのかもしれません。
いずれにしても、元々はどちらのキャンペーンも窮地に陥っている業態を助けることが目的で、そのためにお金を補助して多くの人を集めようとしました。その時に「1回で終わりのもの」と「無限に使えるもの」では、後者の方が需要開拓において効果があるということが、このキャンペーンを通じて見えてきたような気がします。
「もらったポイントは無駄にしたくない」という心理
日本人は「ポイント好き」とよくいわれます。「もらったポイントは無駄にせずに使おう」と考える人が多いからこそ、ポイント還元を取り入れたキャンペーンは日本ではすごく有効であり、身の回りを見てもそうしたキャンペーンはたくさんありますよね。
「お客さんに何度も来てほしい」と思った時に、期間限定ポイントがすごい力を発揮するということが、今回の「Go To キャンペーン」の事例であらためて証明されたように思います。みなさんも何かキャンペーンを考える時には、これらの事例を参考にしてみるといいかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「もらったクーポンを使うために繰り返しお店に行く」でした。ちなみに、少し前に大きな話題になった「PayPay」なんかも、まさに日本人のポイント好きをうまく取り入れたキャンペーンでしたよね。まだまだ、何か面白い仕掛けが考えられそうです。
構成:志村 江