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年間2000軒をはしご酒、酒場の魅力を伝える案内人・塩見なゆ

お酒の歴史は人類の歴史、と言い切ってしまうのは大げさだろうか。

お酒と人の付き合いは長く、紀元前4000年にはワインの原型が、紀元前3000年にはビールの先祖が生まれた。以来、お酒はほほえましいエピソードから恥ずかしい失敗談まで、様々なドラマを私たちに提供している。

お酒に関わる仕事も世の中にたくさんある。酒造や酒屋、居酒屋などはメジャーだが、「酒場案内人」という仕事があることをご存じだろうか?

塩見なゆさんは一般企業で広報・宣伝を経て独立し「酒場案内人」を名乗る女性。業務内容は飲食店のコンサル・広報をはじめ、酒場を紹介する記事の執筆など幅広く、酒場の魅力を世に広めることを仕事にしている。

彼女はなぜ酒場案内人になったのか? お酒と共に歩んだ半生を伺った。

<プロフィール>
酒場案内人 塩見なゆ

東京都杉並区・荻窪生まれ。新宿ゴールデン街に足繁く通う作家の両親を持つ。幼いころより中央線沿線の飲み屋へ行く両親と行動を共にし、物書きの大人と瓶ビールに囲まれて成長する。会社員として広報・宣伝を経てフリーランスに。

お酒好きの両親と一緒に。外食=居酒屋だった幼少期

- 塩見さんはリサーチのために、年間2000軒をはしご酒していると聞きました。そもそも「酒場案内人」ってどのようなお仕事なのでしょうか?

塩見さん
お仕事の中心になっているのは、酒造メーカーや居酒屋さんのコンサルティングと広報です。

居酒屋さんの新メニューの開発会議に参加させてもらったり、酒造メーカーのキャンペーンの方針に意見やデータを提供したり。ほかにはテレビ局や制作会社さんにロケ地を紹介したりもしますし、自分で「Syupo(シュポ)」という酒場メディアも運営しています。


https://syupo.com/

- 酒場に関する情報発信を幅広くされているのですね。珍しい肩書きのお仕事ですけれど、なぜこのような働き方をされるようになったのでしょうか?

塩見さん
私の両親は文筆家なんです。母は雑誌のライター、父は歴史小説を書く作家でした。作家さんってお酒が好きな人が多いんですけど、両親の周囲にも酒豪が集まっていたんです。だから小さい頃から「外食=居酒屋」という環境で育ってきました。

両親が出会った新宿のゴールデン街にはよく連れて行かれましたし、上野や吉祥寺の飲み屋さんにも。飲み物はもちろんソフトドリンクでしたけど、小中高と常におじさんおばさん達に囲まれて、居酒屋メニューを食べて育っていました。

- 生粋というか、英才教育というか。それで酒場が好きになったんですね。

塩見さん
居酒屋のメニューが好きなので、大学生になってからは1人でいろんなお店に行きましたねー。両親にもよく飲みに連れて行ってもらいました。

- ということは新卒で入った会社もお酒に関わるお仕事だったのでしょうか?

塩見さん
最初は違う業界だったんです。電機メーカーに入社して、企画部門に配属されました。

数年後、ブログサービスを行う関連会社にいくことになったんです。。当時はサービス利用者を増やすことを目的に本社の製品をブロガーさんに紹介したり、自らブログを運営してユーザー拡大に努めたり。その時に生まれたのが、現在も運営している「Syupo(シュポ)」の元サイトだったんですよ。このブログがけっこう読まれていて、酒造メーカーさんからも反応がありました。

- もしかしてそれが独立のきっかけになったのでしょうか?

塩見さん
飲食に関わりたいという気持ちは強くなっていました。勤めていた会社が幅広く事業を行っていたので、このままだと興味のない分野で働く可能性もありましたし。

それで飲食に関わる業界に行こうと思い2011年、催事の企画などをしていた広告代理店に転職して百貨店や駅ナカ催事場のPRを担当しました。次に居酒屋のチェーン店に転職して、商品開発やプロモーションに関わりました。

2014年には「Syupo(シュポ)」を立ち上げ、ブログの記事を移動して企業とのタイアップも始まっていました。メディアの更新も忙しくなっていたのでそろそろ頃合いかなと思い、2015年に独立したんです。

「まんべんなく、偏りなく」自らに課したルールとは

- 次は、具体的な仕事の進め方を教えていただけないでしょうか?

塩見さん
営業はこちらからかけていなくて。メディアの「Syupo(シュポ)」が広告塔になっているので、先方からお話をいただいています。他は酒場で知り合った業界関係者から「今度会社に遊びに来てください」と誘われたり。

幸い、対等な立場で接していただけるクライアントさんばかりなので、いつも楽しくお仕事をさせてもらっています。

私の仕事って居酒屋の情報が売り物なんです。どんなお酒が置かれているとか、売れ筋のメニューはどれかとか、その情報を頼りにしてくださっているんだと思います。

飲むのが好きで、飲んでいたらビジネスとして回り始めていたという感覚が強いですね。ただ、酒場に行くのもお金がかかりますからその分は稼がないと(笑)。

- 年間2000軒酒場に訪れているそうですけれど、行くお店はどうやって決めているんですか?

塩見さん
「まんべんなく、偏りなく」をルールにしています。情報が偏ってはいけないので、赤提灯系もバルも行きますし、高級店も大衆店も、チェーン店も個人店も行っています。地域も偏りがないように「今日は蒲田、明日は上野」とまんべんなく通っているんです。リサーチしたお店はGoogle Mapにまとめて、メニューや値段、お酒の種類などを書き込んでいて、これが私の生命線ですね。

あとは、「料理は残さないこと」もルールにしているんです。やはり酒場あっての商売ですし、顔を覚えてもらうことも多いので、礼儀として出された料理は残さないことにしています。ただ、1日に何軒も通うので、お腹いっぱいになっちゃうことも多いんですけれど(笑)

- これだけ酒場に精通していて情報を持っていると酒造メーカーさんからスカウトされたりはしないんですか?

塩見さん
それが、飲みに行くといつの間にか役員クラスの人と仲良くなっていることもありまして。逆にいろいろと知りすぎているので「専属で」というお話は頂いていないんです。

独自の立ち位置になっているようで、幅広くいろんなメーカーさんからお声かけいただいているんですよ。普通ライバル社と取り引きがある人には依頼できないじゃないですか。でも、皆さんと仲良くさせてもらっているんです。たまに「大丈夫ですか?」とお聞きしているんですが「塩見さんだから大丈夫」と(笑)

夢の中でも居酒屋に、お酒があれば趣味も仕事も成り立つ

- ところで、塩見さんにとってお酒ってどのような存在なのでしょうか?

塩見さん
私はずっとお酒を飲んでいたいですね。夢の中でも居酒屋にいたりしますし。私、酒場がすっごく...、大好きなんですよ。家族との原風景でもありますし、お店で飲んでいる人を見るのも好きですし、思い出が蓄積されていく場所でもありますし。

だからこの空間に通い続けたいんです。あとは酒場って街を映す鏡だと思うんですね。学生の頃は地理が好きだったので、学んでいた土地ならではの特色がリアルに見られるのが面白くて。

最近は全国各地の酒場を開拓してるんですよ。特急が止まるような、各地の主要な街全部の酒場を調べてみようと思って。それが終わったら海外も。飲みに行ければ趣味も仕事も成り立つので、ずっとこの仕事を続けていきたいですね。

インタビュー中も軽快に杯を空けていた塩見さん。おそらく3〜4杯は飲んでいただろうか。けれど、取材が終わるとケロッとした顔で「これからリサーチに出かけます」と蒲田の街に消えていった。その姿を見て「この人は本当に酒場が好きなんだろうなぁ」と思う。

年間2000軒は1日あたり約5~6軒。日々コツコツ調べた酒場の情報は、唯一無二の価値になっている。
塩見さんのお話を聞いていると「近道なんてないのかもしれない」と思う。毎日地道に、けれど楽しみながら積み上げたものが、未来の自分を支えてくれるはずだ。

文=鈴木 雅矩
編集=内藤 祐介

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