起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
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いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
この記事がアップされる頃は、韓国で開かれている平昌オリンピックも終盤戦。選手たちの頑張りに、大いに盛り上がっていることでしょう。
平昌が終わったら、次は2020年の東京オリンピックが控えています。東京の湾岸エリアでは選手村の工事が着々と進んでいますし、先日は競技会場の建設現場が公開されるなど、少しずつですが、かたちとして見え始めてきました。
まだまだ先だと思っていた東京でのオリンピック開催が、ぐっと現実のものに感じられるようになってきたという方も多いのではないでしょうか。
それでは解説します!
オリンピックが近づくと、いろいろな業界では盛り上がりを見せますが、一方で敏感な反応を見せるのは広告業界です。
オリンピックに関する知的財産や、出場選手の肖像を使用した広告活動を行うことができるのは、IOC(国際オリンピック委員会)やJOC(日本オリンピック委員会)などの関連組織と、契約締結を済ませたスポンサー企業のみとなっています。つまり、スポンサー企業は莫大な協賛金を支払って運営を支えるかわりに、契約内容に基づき広告を出せる権利が与えられるわけです。
そのかわり、権利を持たない企業や団体、個人がオリンピックを連想させるような便乗広告を使用することを厳しく制限しています。これを「アンブッシュマーケティング」といいます。
つまり、東京オリンピックにおいても、「東京」はもちろん、「2020年」といったオリンピックを彷彿とさせる文字を広告で使用するのは、スポンサー企業以外は細心の注意が必要となり、場合によってはアウトとなります。「東京で会おう」「東京で感動を」みたいな、オリンピックを連想させるものについても、危険が伴うため広告業界では自粛する傾向が進むでしょう。
「何もかも禁止だから何もやらない」は経営者として逆によくない
ただ、みんなが注目する以上、ここにビジネスチャンスがあることには間違いありません。
オリンピックを連想させる全てを制限してしまえば、何もできなくなってしまいますよね。よく、ワールドカップなどスポーツの大会が開催されている時に「中継やってます」という張り紙を出す飲食店がありますが、あれを禁止してしまったら、そもそもスポーツバーは成り立たないでしょう。
たまたまつけていたテレビでオリンピックが放送されたとして、それすら気にし始めれば、もうテレビをつけることそのものが禁止されてしまうことになってしまうわけです。でも、それって何か変ですよね。
何もかも禁止だから何もやらない、というのは逆によくないと思います。
オリンピックを応援したい気持ちから、たとえば経営するラーメン店で勝手に「金メダルおめでとう半額セール」をやってしまうのはさすがにまずいですが、直接的な表現を使わなくても気分を盛り上げる方法は、工夫次第でいくらでもあるのではないでしょうか。
たとえば金メダルをとった次の日に「今日は店主の気分がいいので半額」とか、「何かを応援したい気分の人は集まってください」みたいな方法は、もしかしたらアリかもしれません。
東京オリンピックの前という、国際ルールに触れられるいいタイミングだからこそ、広告にまつわる身近な問題として楽しみながら考えてみてはいかがでしょうか。
身近なものをきっかけに、国際ルールに触れられるいいタイミング
オリンピックにまつわる広告のルールが非常に厳しいものであることは先述の通りです。今回お伝えしたいのは、それに対するアンチテーゼではありません。厳密なルールがあるからこそ、そのギリギリの線で何ができるのかを考えてみるのは、非常に頭の体操になるんだ、ということです。
東京オリンピックという身近なものを通じて国際ルールに触れられるからこそ、どこまで一緒に盛り上げることが許されるのか、どこまでがフェアなのかも分かるという意味で、いいきっかけになるのではないでしょうか。
楽しみながら自分なりのガイドラインを作るにはちょうどいいタイミングだと思いますので、ぜひやってみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「東京」でした。ちなみに、数年前にソフトバンクのCMで「何だか分からないが世界的なイベントが開催」という雰囲気をパロディーにしたものがあったのを覚えている方がいるかもしれません。CMの中で開会宣言まで行って、最後に「これって何のイベント?」と言って終わるのですが、あれも1つのギリギリを狙ったパロディーかもしれませんね。
構成:志村 江