起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第134回・典型的な破壊的イノベーション
いきなりですが、クイズです!
増えているでしょうか。減っているでしょうか。今と同じくらいで変わってないでしょうか。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
2022年に入り、食料品やエネルギー価格などの値上げが立て続けに起こっています。
特にこの10月には今年最大といわれる約6700品目が値上がりしました。9月末に慌てて量販店やスーパーなどに買い物に走った人も多かったのではないでしょうか。
こうした値上げラッシュを引き起こす原因は大きく分けて3つ考えられます。
1つ目は急激な円安。
2つ目は原油高。
そして3つ目が、小麦高です。
今回のクイズは、「この先もこうした値上げが続くのか、どうなのか」というところを読み解くことができれば、自ずと答えが見えてくるはずです。
それでは解説します!
ではさっそく、値上げを引き起こしている3つの要因それぞれが、今後どのように推移しそうかを考えてみましょう。
まずは円安ですが、今年10月20日には32年ぶりの円安水準となる1ドル=150円台をつけました。昨年末からの下落幅は大きく、まだまだ底が見えない状態が続きそうです。
続いて原油高ですが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、一時は1バレル(約159リットル)あたり100ドルを超え、今年6月には120ドルという非常に高い値をつけました。しかし、その後は少しずつ下落し、ウクライナ侵攻の前の水準に近づきつつあります。
それを受け、アメリカではガソリンの価格が落ち着き始めました。1ガロン(約3.8リットル)あたり5ドル以上で推移していた時期もありましたが、3ドル台にまで下がってきています。この流れは間違いなく日本にも波及します。つまり、国内でもあと数カ月もすればガソリンの価格は下がってくると考えられます。
最後に小麦高です。小麦というものは価格が管理されている製品で、政府が一度まとめて買い上げて、価格を決め、その価格で業者に卸す仕組みが取られています。
ここ1年ほどで小麦の価格が急激に上がっているのはご存知の通り。国際小麦価格を見ても、今年2月に390ドル50セント、5月には522ドル29セントまで上がっており、この流れでいくと10月には同様に30%近く上がってもおかしくありませんでした。
しかし、岸田総理は10月以降の輸入小麦価格を据え置くことを発表しています。ウクライナが小麦などの輸出を再開したこともあり、明るい兆しが見え始めています。
原油と小麦の値上げのピークはすでに超えた!?
これらの状況から分かることは、3つの要因のうち、「原油」「小麦」についてはすでに値上げのピークは超えている可能性があるということです。
ガソリンの価格はタイムラグがあるためまだまだ高い印象ですが、原油高が下がるということは、電気代もガス代もこれ以上、上がるとは考えにくい状況でしょう。
また、小麦の価格が下がってくれば、原材料費の値上がりは避けられます。場合によっては、ウクライナ侵攻前の水準にまで下がる可能性もありそうです。
となると問題は円安だけで、これについては先行き不透明です。
……というのが、みなさんのこれからの経営環境なのです。
必要以上の価格転嫁はしなくてもいい状況が見込める
この1年は特に、あらゆる業種においてコストが上がり続け、非常に苦しい状況だったと思われます。しかし、この先の数カ月から半年くらいを想定すると、コストが上がる要因は転換してきたといえそうです。
つまり、「兆し」が見え始めたのと同時に、必要以上の価格転嫁はしなくてもいい状況になっていく、といえるかもしれません。
もちろんまだまだ予断は許さないですが、こうやって取り巻く状況をチェックして先を見越しておくことは、戦略思考トレーニング的には非常に大切なことです。ぜひ参考にしてください。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「コストは2022年10月よりも下がる方向にある」でした。値上げラッシュは家計に直撃します。少しでも賢く生活していきたいものですね。
構成:志村 江