起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第102回・51という数字の秘密
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
完全自動運転の世界を目指して、世界中の自動車メーカーが電気自動車の開発を進めています。今年4月に中国で開かれた上海モーターショーの会場でも、話題は電気自動車一色だったようです。
テスラ社のエントリークラスに相当する「Model3」という車が430万円程度で販売されていますが、国や各都道府県などのEV補助金制度を活用すれば、実質300万円台で購入できる時代がいよいよやってきたのです。
ちなみに、自動運転は搭載される技術によって5段階にレベル分けされています。現在最も多いのがレベル2で、高速道路では自動運転に近い機能を実現していますが、まだドライバーによる監視が必要で、ドライバーは運転中にハンドルから手を離してはいけないことになっています。
そんな中、先日ホンダが発売した「レジェンド」は、世界初のレベル3の自動運転車として話題になりました。バックアップ機能を搭載することで、人ではなくシステムによる監視のもとで行う自動運転が実現したのです。
今後、自動運転の技術はどんどん上がっていくでしょうから、楽しみで仕方がありません。
それでは解説します!
さて、今回のクイズは、そのテスラ社の電気自動車の話です。同社の電気自動車には、いわゆる「鍵」がついていません。正確には、扉の解錠・施錠はできるのですが、その操作を鍵ではない「あるもの」で行います。
最近の自動車はキーレスの装備が当たり前ですし、一般的に言われる「スマートキー」と呼ばれる、近づくだけで解錠や施錠ができたり、簡単にエンジンがかけられるスマートエントリーシステムが導入されている場合がほとんどでしょう。
そんな中、テスラ社の電気自動車はもう一段進んでいて、鍵として「スマートフォン」を使用します。要は自分のスマホを鍵として登録し、スマートキーのように使うわけですね。
これは、スマホと自動車をBluetooth®で接続することで、スマホの画面上で様々な操作を可能にする技術です。この仕組み、ひとことで言ってしまうとDX(デジタルトランスフォーメーション)ですよね。
DXとは「進化したデジタル技術を使って人々の生活をより良いものに変革すること」ですが、まさにこのテスラ社の話は、DXの基本といってもよいでしょう。
DXを難しく考えている人が多いですが、「消費者の多くはスマホを持っている」という前提で考えれば、汎用性のあるアイデア・切り口は実は生まれやすいですし、目の前のサービスをデジタルに変えることだってそう難しくはないのです。
スマホの活用はコストダウンにもつながる
スマホを使ったDXの例は、他にもいろいろあります。
少し前の話になりますが、2017年にはアメリカン航空が機内の座席モニターを廃止しました。そのかわりに、それまではモニターで視聴可能だったサービスを乗客のスマートフォン上で利用できるようにしたのです。
乗客の多くが席に着くなり自分のスマホを見ている姿を見て、このアイデアを思いついたそうですが、おかげで液晶モニターを用意する必要がなくなり、コストダウンにもつながったのです。
ポイントカードも、今やスマホのアプリに切り替わっています。お店側はいちいちカードを発行しなくてよくなりますし、利用者もスマホさえあれば常にカードを持ち歩かなくてもサービスを受けられますから、お互いにとって非常に便利な状況が生まれています。
最近増えているタッチパネルを使って注文する飲食店などでも、最近はお客のスマホで注文できるシステムを導入するところが増えています。これについてはコロナ禍による衛生面の影響も大きいですが、お店側としたらタッチパネルへの投資をしなくても、スマホで同じようなことができるようになっているわけです。
気がついたら、タッチパネルを使った注文が当たり前になっていましたが、実際はもうその先までいっているわけですね。
「消費者はスマホを持っている」を前提に考えてみる
例で挙げたような、お店のタッチパネルで行っていたことをお客のスマホに切り替えて便利にすることも、立派なDXです。しかも、それによってお店側はタッチパネルを用意しなくてよくなります。巨額の投資が不要になるわけですから、これからお店を始めようと考えていた人や、導入を検討していた人は実はラッキーかもしれません。
自分の商売で何かDXを始めようと考えていた人は、「消費者はスマホを持っている」という前提でサービスを組み立てていけば、もしかしたら意外とお金をかけずに面白いことができるかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「スマートフォン」でした。私自身も、経済と人工知能の専門家である以上、自動運転車に乗っています。この先、自動運転がどう進化していくのか、引き続き注目していきたいと思っています。
構成:志村 江