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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第91回・お客さんを途切れさせない工夫

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

人気の動画配信サービス「Netflix」。オリジナル作品やドラマ、映画、ドキュメンタリー、アニメなどが幅広く見られることから、ハマっている人も多いと思います。そのNetflixには、テレビや他のサービスにはない「ある特殊的な機能」があり、それがハマりやすいポイントの1つだといわれています。最初のうちは「え?」と思うものの、慣れてくるとそれがすごく便利でやめられなくなるその機能とは、一体どのようなものでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

新型コロナウイルスの流行で、この年末年始は「家族でステイホーム」の人が多くなりそうです。そんな巣ごもり生活に欠かせないのが、家の中での楽しみです。

今の時代であれば、「Netflix」や「Amazonプライム」などの動画配信サービスは、家で過ごす時の強い味方でしょう。「これを機にあの作品を全部見るぞ」などと今から計画している人もいるのではないでしょうか。

さて、そのNetflixですが、私はある便利な機能に注目しています。すでに利用している人にとっては当たり前の機能となっているため、分かる人はすぐ分かると思いますが、斬新なその工夫は、商売をする人にも非常に参考にできるものだと思っています。

それでは解説します!

まずはNetflixという会社の歴史について簡単に触れてみたいと思います。

元々、NetflixはオンラインのDVDレンタル事業を行っていました。しかし、事業開始当初に頭を悩ませたのが、貸したDVDがなかなか返却されないことでした。人気作品が返却されなければ次の人に貸せないうえに、そこで延滞金を請求するとお客さんはそれで損をしたと感じてしまいます。当時のDVDレンタル事業者共通の悩みでした。

そこで考えたのが、返却しやすい仕組みづくりでした。具体的には届いた封筒のシールをちょっと剥がせば返信用封筒になるようにし、利用者が手間をかけずに簡単に返却できるようにしたのです。今や競合他社もまねしていることではありますが、それでも効果は思ったほどではなかったそうです。

そうしてたどり着いたのが、「返せば次がすぐに届く」というシステムでした。月額15ドルで、あらかじめ利用者に次の週末に見たい映画をリストアップしてもらい、返却し次第、次の映画が自宅に届くようにしたのです。返却してもらえるようになっただけでなく、これなら確実なリピートにつながるため、お客さんとの関係が途切れにくくなります。

これまでの話で分かるように、同社は創業以来ずっと「お客さんを途切れさせないためにはどうしたらいいのか」を考え続けてきた会社なのです。

そして、現在の動画配信サービスの提供にあたっては、この発想がきちんと機能として取り入れられています。それが、1つの動画が終わりに近づくと、自動的に続きが再生されるという仕組みです。正確にいうと、エンディングが近づくとアイコンが出てくるのですが、そこで止める作業をしなければ次の動画が始まってしまうため、ついつい続きを見てしまうわけですね。

この機能の一番のポイントは「途切れさせないこと」です。まさに、お客さんとの関係が途切れないための機能であり、同社の大きな発明ともいえるものです。

膨大な量のコンテンツがあるのはもちろんですが、それをついつい見続けてしまうような仕掛けがあることが、サービスへの支持を強いものにしているのだと思います。これはコンテンツを作る側にはなかなか思いつかない発想ですし、エンディングの一部をカットして次の話を再生させるわけですから、ある意味で非常に斬新なやり方です。しかし、これが実に利用者心理をうまくついていると思えて仕方がないのです。

「一区切り」させない方法をいかに考えるか

こうした「途切れさせない工夫」で真っ先に浮かぶのが、人気のアニメ番組「プリキュア」です。プリキュアの新シリーズは、一般的な番組改編期である4月ではなく「2月」から始まります。

その一番の理由は、3月末で終了し4月から新シリーズが始まると、進級するタイミングとぴったり合うため、「これを機にプリキュアも卒業しよう」といわれてしまう可能性があるからです。

そうならないように、2月から新しいシリーズをスタートさせて、さらに3月から4月にかけては最初の山場が来るようにストーリーを設定することで、視聴者が離れないようにしているそうです。

余談ですが、この「2月始まり」にはもう1つ大きなメリットがあります。4月の進級に向けて身の回りのものを色々と新しく揃える時に、新シリーズのグッズを買ってもらえるのです。これは4月に番組が始まるのでは確かに間に合いませんよね。

もう1つの事例が、「週刊少年ジャンプ/集英社」はどんな大ヒット漫画でも最終回に表紙を飾ることはない、という話です。唯一の例外が『こちら葛飾区亀有公園前派出所/秋本治』ですが、『Naruto/岸本斉史』も『ドラゴンボール/鳥山明』も、もちろん『鬼滅の刃/吾峠呼世晴』だって、最終回が掲載される号では表紙にはなりませんでした。

それは、「最終回ならもう来週からは買わなくていいかな」と思う人を極力増やさないための工夫だといわれています。普通なら大々的に最終回をアピールして売り上げにつなげようと考えてしまうところですが、それによって次週から読者が減ってしまってはマズいわけですから、実はよく考えられた工夫なのかもしれません。

一度集めたお客さんを離脱させない工夫を考えよう

商売をするうえでは、集客が非常に大事なのはいうまでもありませんが、一度つかまえたお客さんをリピートさせて途切れないようにする工夫も、また同じくらい力を入れなくてはいけないことです。

いろんな方法が考えられると思いますので、ぜひあなたの商売にぴったりな仕掛けや工夫を考えてみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「エンディングを見せずに次の作品を流す」でした。私も経験者ですが、ついつい見続けてしまってあっという間に休みが終わってしまうなんてことはよくありますので、お気を付けて。有意義な年末年始をお過ごしください。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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