起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第157回・富裕層はアレにお金を使っている
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
先日沖縄で開催されたバスケットボールのW杯は、日本チームがパリ五輪の出場を決めたこともあり、大いに盛り上がりました。時を同じくして、映画『スラムダンク』も大ヒット。今、にわかにバスケットボールがプロスポーツの中で注目される存在になっています。
プロ野球、Jリーグに次ぐ3つ目の存在になる可能性のある有力コンテンツとして、期待が高まっているのです。
バスケットボールが実際にそのような存在になるためには、一体何が必要なのか。それを考えるカギが、今回のBリーグの改革案の中に見てとれます。今回は、それについて考えてみましょう。
それでは解説します!
ほとんどのアマチュアスポーツは「勝つこと」が重要であり、ある意味でアスリートファーストな状況をいかにつくるかが大事だと考えられていました。バスケットボールも以前はそうだった一方、その後に長いこといろんな“いざこざ”があり、抜本的な改革が必要だといわれ続けた歴史がありました。
具体的ないざこざの内容についてはここでは省略しますが、いい選手を育て、強いチームを作り、代表選手が国際大会でも活躍できる環境を整えるために、これまでに何度も立て直しが行われてきました。今回発表された改革案も、その流れにあるのです。
その改革のロジックを説明していく前提として、プロスポーツの収入について整理してみます。究極的には4つしかありません。
1つ目が入場料収入。2つ目がスタジアムでの飲食やグッズ販売の売り上げによる収入。3つ目がスポンサー収入。そして4つ目が放映権収入です。
プロ野球やJリーグは別格で、その下のランクのスポーツでは入場料収入が十分に得られないことから、どうしてもスポンサー収入に頼って活動していくことになります。いってみれば、それがマイナースポーツの平均像です。
そこからさらに発展させていくために何が必要なのかを考えたのが、バスケットボールでした。本当の意味で企業がスポンサーになる流れができるためには、広告効果がきちんとあり、企業が出資した金額以上のリターンを得られる環境をつくることが必要です。
プロ野球などを見てもわかりますが、実際に球団を持つというのはものすごい影響力があります。今年18年ぶりに優勝した阪神タイガースの例を見てもよくわかりますよね。日本中でものすごいことが起こっています。
冷静に考えれば、そのチームを応援するファンが多ければ多いほど、スポンサーへの広告効果は大きなものになりますよね。そう考えると、これは「鶏が先か、卵が先か」という話でもありますが、「チームが強いとファンが増え、ファンが増えると観客が増える」という流れがいいのか。「観客が先に増えて、ファンが増えればチームが盛り上がり、スターが生まれ、収益基盤ができ、補強ができるようになるとチームが強くなる」のがいいのか、という話になってきます。
発展させるためにはどっちが早道なのかを考えた結果、「まずはファンの人数を増やそう」と後者の考え方でやることを決めたのが、今回のバスケットボールリーグのロジックだというわけですね。
プロ野球にもJリーグにも同じような歴史があった
一見すると実力主義ではなさそうですから、スポーツらしくないなあという印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、こうした考え方は決してマイナーなものではなく、実はプロ野球もJリーグもすでに取り入れていることなのです。
サッカーの場合、1993年にJリーグができた時には、参入チームの判断においてスタジアムの収容規模はとても重要視されたそうです。強いチームであっても、小さな競技場でやっているところはJリーグに入れなかったというのです。
プロ野球も同様で、比較的最近に新規参入した楽天やソフトバンク(当時はダイエー)は、大きなフランチャイズのスタジアムを作るところからスタートしています。最近だと、北海道日本ハムファイターズがエスコンフィールドという新しい球場を作って話題になりましたが、「大きなスタジアムにたくさんの人を集める」ところから、最近のパ・リーグ人気が始まっているといって良いでしょう。
バスケットボールにおいても、大きなアリーナを作ることがこれまでも1つの転換期になってきたそうです。以前はバスケットボールの試合は体育館で行うことが多かったため、土足厳禁でシューズの履き替えが必要となり、飲食も不可で、観戦席も決して居心地がいいものでありませんでした。専用のアリーナができたおかげで観戦を楽しむ環境が整い、人が集まりやすくなったことから、「まずはアリーナを作ろう」という状況ができ始めたのです。
まさに先日のW杯が開かれた「沖縄アリーナ」がわかりやすい例で、今回のW杯があれほど盛り上がったのは、たくさんの人が集まれる場所がちゃんとあったことが大きかったわけですね。
そうやって人が集まれば、12億円の売り上げは後からついてきます。経営努力でスポンサーを集めることができれば、ちゃんとBプレミアに認定しますよ、ということなのです。
商品力があれば、客は集まるのか?
今回この話を取り上げたのは、実は経営にもつながる話だからです。
例えば「商品力がいいから人が集まる」ところから始めるのか、「とにかく客を集めて商売を続けていけば自然といい商品が作れるようになる」のか、どちらも選択肢としてはあると思います。
そんな中で後者の考え方に力を入れたバスケットボールリーグのやり方は、皆さんの事業においても何か参考になることがあるかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「観客が増えることでファンが増え、経営基盤が整えばチームを強くすることができるから」でした。ちなみに、2026年からのBプレミアは最大18チームでスタートし、その後は4段階で参入審査を進めながら少しずつチーム数を増やしていくそうです。最初の段階で審査基準まで整えられないところは、少しずつ整えながら参入を目指していくことになるわけですね。
構成:志村 江