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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第142回・ゴルフで学ぶ行動経済学

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第142回・ゴルフで学ぶ行動経済学

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

海外のあるスポーツジャーナリストが、プロゴルファーの「パット」について研究しました。その研究結果によると、同じくらいの長さのパットの場合、「パーパット」と「バーディーパット」ではどちらの方が入る確率が高かったでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

今回のクイズはゴルフのルールを知らない人にはよく分からないものだと思いますので、まずは簡単に説明しておきましょう。

ゴルフというスポーツにはホールごとに規定の打数があります。例えば「パー4」のホールであれば、4打で終えることがスコアを数えるうえで1つの基準となります。4打で終えればパー。1打少ない3打だとバーディー、2打少ないとイーグル。逆に1打多い5打だとボギー……というような呼び方をします。

パーパットというのは、そのパットを入れたらパーで終えられるということで、バーディーパットを決められれば規定よりも1打少なく終えられます。つまりスコアが1つ良くなるわけですね。

こうしたルールも踏まえて、答えを考えてみてください。

それでは解説します!

ゴルフのパットですから、いずれにしてもなかなか緊張する場面でのプレーであるのは想像がつきますよね。

その研究によると、パーパットの場合は「確実に入れにいく」ため、入る確率が高くなるそうです。一方で、バーディーパットの場合は「これを外してもパーパットがある」と考えて気が緩むため、入る確率が少し下がるのだとか。

人間の心理はなかなか面白いなあと思うわけですが、これが一体何のエピソードかというと、「行動経済学」の話なのです。

このパットにおける現象は、スポーツ的には「余裕のあるバーディーパットに比べ、緊張するパーパットの方が成功率は高い」という説明になるわけですが、行動経済学的には別の説明ができます。

それは「人間は損をすることをすごく嫌がる」ということです。「得をすることについてはそれほど貪欲ではない」と言い換えてもよいでしょう。

例えば「買い物をすると500ポイントもらえる」というシーンがあったとします。その場合、実は多くの人はポイントがもらえることをそれほど気にはしておらず、「ポイントをもらえるから買おう」とはなりにくいといわれます。

ところが不思議なもので、持っていると思っていた500ポイントが失効して使えないと、ものすごく損をした気分になり、落ち込むのです。ポイントをもらわなかったことと結果的には全く同じことなのに、です。

損をするのは真剣に回避するのに、得をすることには無頓着。これは、行動経済学においては「人間の間違った行動」だと証明されています。そういう理に適わないことを、同じ人間がするということです。

ゴルフの話に戻すと、そもそもスコアのことを考えれば、むしろバーディーをちゃんと取ってスコアを減らさないといけないわけですよね。にもかかわらず、バーディーパットの時は集中力が下がっていて、パーパットの時は集中できている。そしてそれが統計上にも表れているということで、やっぱり間違っているといわざると得ません。

「得をしますよ」よりも「損をしますよ」

最近はこうした行動経済学がいろいろなところで注目されており、ビジネスでも活用されています。よくあるのが値段の付け方で、300円だと高いと思っても、同じ商品が298円だと安く感じるのは、まさに行動心理学を活用したうまい商売のやり方です。

ですから、間違ってはいるとはいえ「損はしたくないが、得をする事には無頓着」という行動経済学のエッセンスをプロモーションなどにうまく活用することは、皆さんのビジネスにおいても非常に重要です。

例えば、何かを値引き販売する場合に、ただ「30%引き」とやるよりも、「50個の数量限定で25%引き」とやった方が、実は売れると考えられます。

割引率は低いにもかかわらず、「50個限定」の部分に反応するあまり、「後で来た時になくなっていたら損をするので、今買っておかないと」という心理が働くからです。

他にも、コンビニエンスストアなどでペットボトルのドリンクにおまけが付いていたりしますよね。ああいったキャンペーンをする場合は、「おまけを付けないもの」も一緒に並べておくのだそうです。

これは、棚の奥の方の商品におまけが付いていないのが見えると、「あと少しでおまけが終わってしまう」と思って買い急ぐからです。「どうせ買うならおまけがあるものを(ないものを買って損したくない)」という心理をうまく突いているわけですね。

行動経済学を参考に集客のためのアイデアを考えてみよう

今回は行動経済学についてのお話でした。「得をしたくないわけではないが、どこかで無頓着になっている」というのは、皆さんの普段の行動を振り返ってみても思い当たるところがあるのではないでしょうか?

商品を売ろうとしたり、お客さんをたくさん集めようと思ったりした時には、どうしても「得」を打ち出す内容で考えてしまいがちです。しかし実際は「損をしたくない」という気持ちにフォーカスを当てた方が、効果が出やすい場合も多いのです。

ぜひ皆さんも今回紹介したような行動経済学をうまく活用して、プロモーションや集客のためのキャンペーンなどを考えてみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「パーパット」でした。ちなみに、東京都の「Go To Eat」食事券が1月25日に使用期限を迎えましたが、私も少しも残さないようにと必死で使い切りました。すでに元は十分にとっていたにも関わらず、「損をしたくない」というエネルギーはすごいものがあるなあと、自分のことながら思ってしまいました(笑)


PROFILE
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経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

構成:志村 江

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