2018年10月からスタートした「税理士が教えるお金と起業」シリーズ。
中でも反響が大きかったのが<起業に必要な3つの知識編>でした。
正しい知識を身に着ければ、お金がなくても起業は可能、という内容をお届けしました。
お金がなくても起業できる? 起業に必要な3つの知識【税理士が教えるお金と起業①】
コロナによって2018年当時とは、起業を取り巻く環境に大きな変化がありました。
ビジネスの対面から非対面、テレワーク、実店舗からECサイトの急増。
制度面では、かつてない補助金バブルとも呼べる中小企業支援策の予算増。
いわゆる“コロナ融資”では実質無利息等々。
私も税理士・中小企業診断士として顧問先と関わる中で、コロナ禍でも小資本からスタートし、数年で年商数億円規模まで急成長した企業を実際に見てきました。
2023年こそは起業したいと思っている方、必見です!
起業時にお金がなくても実際に成功した企業は多くあります。
実際どのようにスタート期を乗り越えたのか。
2023年、起業するうえで知っておくべきお金と起業の知識をお伝えします。
創業時は知恵とアイデアで、スモールビジネスから始める!
「お金がないと起業ができない」と思いこむ罠?
前編では、起業のマインドセットからお話します。
今回の記事をお届けする主な目的は、
②知識を学んだらすぐ行動に移せるように、具体的なアクションプランをお伝えすること
こちらの2つです。
こちらをお届けするそもそもの前提として、
2「お金がある程度貯めてからでないと起業できない不安」にはまる罠
上記の2つの罠にはまっている方が多くいるということをお伝えします。
この罠にはまってしまっている方が良く口にするの、
・ある程度お金が貯まってから起業しよう!
・初期に〇〇円ないとスタートできない!
というような声です。
この2つの罠にはまってしまう最大の原因は、
最初から完璧な形での起業を想像してしまうからだと考えられます。
その他の要因としても、
・起業に本当に必要な金額を洗い出せていないのか。
・初期に必要なお金を自分の貯金ですべてまかなおうとしていないか。
・お金がなくても売上を生み出せる戦略を知らないのか
等々考えられます。
1番多いと感じるのは、起業に対して不安があり、特に軌道にのるまでの資金の目途がつかないと怖くて仕方ないというような方です。
特に会社員として勤めている方は、勤め先の会社がある程度成長した段階にいると、どうしてもそのような形でないと起業はできないと思いこむ可能性があります。
オフィスがしっかりあって、営業の人も、人事の人も、総務の人もいて、ホームページもしっかりあって等など。十分な準備ができてから起業を始めようとする気持ちもよくわかります。
しかし最初からそういった人や環境、設備がある会社などありません。
まずは「お金がなくても起業するための必要な正しい知識」を身につけ、実際にお金がなくても成功した企業を見てイメージできるようになるのが近道です。
最初は狭いアパート1室で、資本金1円からスタートして、大企業となった会社も数多く存在します。
その企業がなぜ成功できたかを研究・分析することが大切になってきます。
資金サイクルの大事な鉄則!
商売は血液の循環の如く、常にお金がまわり続けることが必要です。
特に起業時に拡大を早めるためには、資金サイクル(入金から出金のお金の流れ)が大事になってきます。
最初にこのお話をするのは、この鉄則を守っていれば「他者から資金を集める方法」ですらいらなくなる可能性があるからです!
それでは、創業時から守りたい鉄則についてお伝えします。
売上は、前払いでもらう。
経費は、なるべく後払いにする。
この話をどこかで聞いた事がある人も多いと思いますが、それほどに大切な鉄則です。
売上が順調に増加していくと、それに対応して経費も増えていきます。そして、売上が先に入金されればその経費の支払を売上の入金からまかなうことが可能となります。
そうすることで、事業の成長速度がぐっと早くなります。
逆に、売上の入金が後、経費の出金が先の会社の場合、売上が増えるほど先に払わないといけない経費が増加してしまいます。
その結果、その経費をまかなう資金を売上の入金以外の方法によって調達する必要があります(運転資金ともよばれます)。
多くの会社はそこで銀行からの融資を検討します。
増加する経費による支出だけでなく、法人税や所得税、消費税の税金は基本的に利益が大きくなればなるほど、納税額は増えていきます。
そして売上の入金タイミングが遅かったとしても、基本的には支払いを待ってはくれません。
黒字倒産とよく言われるように、倒産した会社の約半数は黒字という事実という統計もあります。
黒字でもお金の循環がうまくいかなければ会社は倒産してしまうということです。
黒字倒産とは:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-net21
東京商工リサーチ:2020年「倒産企業の財務データ分析」調査
起業してすぐは信用がないため、なかなか良い条件で取引することは難しい可能性もあります。
しかし、それは実は思い込みであることが多いです。
実際に交渉してみることが大事です。
それでも、難しい場合はさまざまな工夫が必要になってきます。
例えば、前払いにして頂いたお客様には割引をすることや、特別なサービスをするなど同業他社の事例を調べて真似てみることも大事です。
※一部筆者が内容を改変しています。
脱サラし、都内近郊でパン屋を創業したAさん。
お店の目玉商品である高級食パンは人気を博し、連日お店の前には行列ができるほどでした。
早くも2店舗目を出店したいと思ったAさん。
しかし、一般的なパン屋さんと一緒でお客さんが来店頂いたときに売上分のお金を頂き、材料や機材の仕入は売上が上がる前に支払いが発生します。
そこで、Aさんはパンの10回分の優先前売りチケットの販売を導入することにし、瞬く間に完売しました。
この前売りチケットで得た売上をもとに新たに2店舗目を展開し、同じ要領でお店はあっという間に1年で5店舗増えました。
アイデアで融資・出資を募る
起業する際にまず最初に考える、ビジネスモデル。
ビジネスモデルが固まったら、そのために必要な資金を洗い出しをするという流れになります。
その中で特に資金計画は大事になってきます。
まず事業に必要な資金を「設備資金」「運転資金」に区分して洗い出しを行うとよいでしょう。
※実際に金融機関から融資を受ける際もこの分類により、資金の使途を計画書に記載することが求められます。
運転資金・・・事業を運営するために必要な、継続的に発生する資金のことをいいます。具体的には、商品の仕入や、給料、外注費、広告宣伝費(ホームページ作成後の運営コスト)、月々の地代家賃、消耗品費などです。
そして、このビジネスモデルにおけるアイデアが優れており、実現できる可能性が高く、それを適切に伝えることができればあらゆる資金調達の可能性がでてきます。
極端な話、自己資金(自分で準備したお金や財産等)がなくても、すべて融資で必要資金をまかなうことができたケースや、出資によって全額必要資金をまかなうケースもあります。
具体的な手法は後編で解説しますが、例えばこんな資金調達方法があります!
・金融機関からの融資
・ベンチャーキャピタルからの出資
・ファクタリング
・創業補助金
・クラウドファンディングによる資金調達
・知人・友人・他社からの出資
・メディアに露出し、投資家から出資を受ける。
金融機関からの融資のような王道の資金調達方法から、中にはYoutubeで行われている企画番組に出演し、事業計画をプレゼンテーションし有名起業家から出資を受けるという、変わった資金調達方法が存在します。
さらに驚くことに、初期資金をほぼ0円で始めるケースも存在します。
いかに小資本でスタートするかという視点も大事になってきます。
※一部筆者が内容を改変しています。
都内に飲食店を創業した会社。
お店のコンセプトとして、経営者同志の良質なビジネスの出会いの場を提供したいと考えていた社長のBさん。
ハイクラスの経営者が好みそうな高級で落ち着いた雰囲気の内装の物件を居抜きで探していました。
ちょうどそのような条件にピッタリのお店が見つかりました。
そこのオーナーに聞いてみるとコロナで業績が下がってお店をもう締めようと思っているとのことでした。Bさんが新規開業を考えていることを話してみると、そのオーナーは「原状回復でどうせ多額のお金がかかるから、タダでそのままBさんへ譲るよ」と言ったそうです。
これで「設備資金」をほとんどかけずにスタートできました。
そしてBさんがさらに凄いのは、その後の展開です。
一般的な飲食店では、お客様が来店したときにお会計をすることが多いと思います。
Bさんのお店ではオープン当初から、月額制の会員システムを導入しました。
月額会員料金として1社10万円。
完全会員制の飲食店として、実際に来店したお客様には原価で飲食物を提供するモデルにより、お得感を演出するとともに来店頻度を増やす仕組みを構築しました。
会費として毎月前払いで頂けることから、食材も現金で割り引いて仕入れることができました。
また、毎月安定的なキャッシュ・フローが見込めることから、当初より一流店のシェフを雇う事ができました。
このようなアイデアにより、あっという間に年商1億円を突破しました。
リサーチ&テストマーケティング
起業する時も、起業したあとも必ず抑えておきたい視点があります。
それは、いかに初期投資を抑え、少ない資金で事業を成長できるかという視点です。
つまりしっかり投資の費用対効果をはかりましょうということです。
そのためにはリサーチが欠かせません。
しかし、この費用対効果を検証しないままやみくもに起業してしまう方が本当に多いです。
例えば、起業時に良くある質問をご紹介します。
「オフィスはどこに構えるべきですか?」「自宅でもよいですか?」「オフィスの規模はどれくらいが良いですか?」といった内容の質問です。
もちろん業種・業態によって様々なため一概に答えることはできないのですが、顧客が来店しないようなビジネスであれば自宅開業や、レンタルオフィスで十分といったケースも多いです。
コロナ禍では、ECサイトを使う企業や商談はWebで行う企業が増えてきたかと思います。
そうすると本当に店舗を構える必要があるのか、来店ではなくこちらから出向くビジネスの方が良いのか。
他にも、優秀な人材を採用することが事業拡大に重要であり、1か所に人が集まって仕事をすることが効率的である場合には、一等地で駅近くの物件を選ぶ工夫が必要となります。
※本当に優秀な人材を採用するために一等地であることが重要か等、検討する必要はあるかと思います。
立地選びには関連してテスト・マーケティングという考え方も重要です。
テスト・マーケティング:開発された新製品を本格的に販売する以前に、限られた地域で少数に対して販売するということ
経営学の本にも良く登場するのでおなじみの方が多いと思います。
しかし、起業時に実践ができてる方はなかなか少ない印象があります。
テストマーケティングをすることで、大きく失敗するリスクを抑えることができます。
ただし、あくまで私の経験則ですが、このリサーチやテストマーケティングは起業経験がある方やその分野に勘のある方でないと難しいかもしれません。
なのでもし不安な方は、先輩起業家や、リサーチやマーケティングの専門家を頼りにするのもアリですね!
始める事業はどのステージ?
ビジネスモデルを考える時に大事になってくる要素の一つですが、
始める事業の商品やサービスが市場においてどのステージにあるか、というのを意識する方は少ないかと思います。
このステージによって、初期に必要な資金が大きく変わってきます。
ここで教科書的なお話となりますが、経営学に「プロダクト・ライフサイクル」と呼ばれる考え方があります。
製品やサービスが市場に投入されてから終焉するまで、4つサイクルに体系づけて整理されます。
そして、それぞれのステージによって広告費の掛け方等、戦略の立て方が変わってきます。
導入期⇒成長期⇒成熟期⇒衰退期
導入期では、市場を投入する段階なので、需要も小さく売上も大きくありません。
製品やサービスは認知されるまでに必要な広告費や販売促進費がとてもかかる傾向にあります。
そのため、導入期にかかる商品やサービスを起業当初扱うのは難易度が高いものとなります。
タピオカ専門屋を例にとると、数年前に女子高校生の間でブームが広がり、のちにその他の世代に一気に浸透していった時期がありました。
女子高校生の間でのブーム期はまさに導入期とも言うことができます。
世間一般ではそこまで商品が認知されていないので、お店を新規出店しても集客をするためにかかる広告費や販売促進費が膨大にかかっていたことでしょう。
TVや雑誌でタピオカ専門店が次々に取り上げられ、世間の人の認知が上がっていった時期は成長期と言えるでしょう。
その頃に新規出店したお店はタピオカを扱っているというだけで、広告費をほとんどかけずに行列ができるという現象が各地で起きていました。
そして成熟期に入った頃にはライバルも増え、タピオカを扱っているだけではライバルと区別されず、価格を下げてライバルと競争したりします。
新規で出店する場合は、タピオカが出店されていない地域を探して広告をしたり、ライバルにはタピオカミルクティー専門に特化するなど、工夫とお金が必要になります。
このように4つステージのどこに属しているかによって、かかる広告費等で大きな差がでてきます。
起業を検討している時でも、プロダクト・ライフサイクルの考え方を知っていれば初期にお金がかかりにくい商品を狙って起業する、といった戦略を取ることができます。
そうすることで起業初期に必要な資金を抑えることができます。
まとめ
前編では、起業時にかかる初期費用を抑えるために必要な知識を中心にお伝えしました。
<起業をする上でのマインドセット>
1「お金がないと起業ができない」と思いこんでる罠
2「お金がある程度貯めてからでないと起業できない不安」にはまる罠
こちらの罠にはまっていないかチェックしましょう!
<資金サイクルの大事な鉄則>
売上は、前払いでもらう。
経費は、なるべく後払いにする。
こちらは本当に大切ですので是非工夫をしてみましょう!
<リサーチ・テストマーケティング>
投資の費用対効果を見極めて、初期に必要な資金額を算出しましょう。
リサーチすることで初期にかける費用を減らすことができます。
テスト・マーケティングを取り入れることで最初は少ない資本でも事業は始められます。
<市場のステージを意識する>
市場のステージによってかかる費用や利益がまったく変わって行くことをお伝えしました。
この考え方を意識すると初期にかかる広告費用等を抑えた戦略が立てられます。
後編では、「アイデアで融資・出資を募る」でもお伝えした資金の調達方法についてさらに深堀してお届けします!
文=齋藤 雄史
編集=内藤 祐介
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。
高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。
合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。
ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代〜30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。
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