最近会社員やフリーランス、税理士業界を賑わしている、いわゆる「副業300万円問題」。
2022年8月1日国税庁より「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募が実施されました。
改正案の内容は、「主たる収入ではない副業収入が年間300万円以下のものは原則として所得区分を「雑所得」とする衝撃の内容でした。
令和4年度以降の確定申告から適用予定とのこと、つまり次の確定申告から影響がありそうです。
副業収入があるサラリーマンはどのような影響を受けるのか?
フリーランスの方は影響があるのか?
副業している人全員が実質増税になるのか?
税理士の視点から、わかりやすくポイントを絞って解説していきます!
実質増税ってどういうこと?
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000239211
まずは改正案をざっくり読んでみよう
こちらが実際に公表された改正案です。
ここでは「新分野の経済活動にかかる所得」や「副業に係る所得」の所得区分について記載されていることが何となくわかるかと思います。
ではなぜ所得区分が議論になっているのでしょうか?
所得区分によって税金の計算方法等が異なるため、納める税金の額が変わる可能性があるからです。
※日本の所得税は、「給与所得」、「退職所得」、「不動産所得」、「配当所得」、「雑所得」のように10種類に所得をわけて税金を計算します。
例えば「退職所得」は、退職したときに受け取る退職金等が該当しますが、老後の生活の糧となるよう、税金の負担が他の所得に比べて低くなるような設計がなされています。
このような趣旨から10種類にわざわざ分けて計算するのです。
今回の改正案では、給与所得があり、なおかつ副業で収入を得ている方等が、副業による経済活動について「事業所得」「雑所得」いずれとして申告するかの所得区分の取り扱いについて記載されています。
今回の改正案を読み解くには、「事業所得」と「雑所得」の違いを探る。ということに整理できます。
副業が「雑所得」になると、なぜ増税になる?
それでは「事業所得」と「雑所得」の違いをみていきましょう。
「事業所得」には各種税制の優遇があり。
「雑所得」には優遇が全くなし。
その結果、今まで副業による経済活動を「事業所得」で申告していた方が、今後「雑所得」として申告すると税制優遇等が利用できないことから、実質増税になってしまうというわけです。
補足すると、「事業所得」として申告していたけれど、下記のような税制優遇等を利用していない場合は、「雑所得」として申告した場合でも税金の金額が変わりません。
「事業所得」と「雑所得」で税額が異なる要因となるものを表にまとめてみました。
影響を受ける人・受けない人
副業が「雑所得」扱いになると「事業所得」として申告していたときに比べて増税になる可能性があるとお伝えしました。
今まで副業がある納税者の方は、事業所得として申告した方が税金面で有利になるため、副業は何となく「事業所得」との区分で申告していた方も多かったことでしょう。
課税当局も、提出された申告書だけを見ただけでは事業所得か雑所得か判断することが難しく、実際税務調査に入ったとしても担当官によっては判断がわかれるということがあるようでした。
そこで「事業所得」と「雑所得」の区分を明確化することが本改正案の狙いと考えられます。
これまで「事業所得」と「雑所得」はどのように区分していた?
所得税法等の法律には「事業所得」とは何かということの明確な定義が置かれていません。
そこで過去の裁判例等によって、継続的に行う「事業」といえるか、社会通念(社会一般に通用している常識または見解)にしたがって判断する必要があります。
例えば、会社員の方が副業として経済活動(フリマアプリで商品を転売していた場合)が、事業所得となるかについてどのように判断されるのでしょうか。
イメージ図を見てみましょう。
図のように事業所得に該当するかは、取引に費やした精神的、肉体的労力の程度や、その者の職業、社会的地位、相当程度の期間継続して安定した収益が得られる可能性があるか等、個々の事実により総合的に検討して社会通念に照らして判断されます。
やっかいなのが、同じフリマアプリにより商品を販売して利益を得ている人がいても、雑所得になる場合や、事業所得となる場合もあり、一律に判断しづらいという問題があります。
そのため納税者側では、事業所得として申告するか、雑所得として申告するか迷う方も多かったでしょう。
事業所得と雑所得の所得区分の判断基準ついて、詳しく知りたい方はこちらの国税庁のホームページに載っている研究が大変参考になります。
改正案による事業所得と雑所得の区分判定方法は?
冒頭にある改正案の中には、
と、書かれています。
前半部分はこれまでと同様です。
つまり、前述のとおり社会通念に照らして事業といえるかどうかで「事業所得」となるか「雑所得」となるか判断するということでした。
それでは今回の改正案はどこが変わったのでしょうか。
社会通念に照らして事業(所得)と言えるか曖昧な基準であったところ、明確な300万円という数字上の形式基準が増えました。
副業収入金額が300万円以下でも反証できれば「事業所得」
イメージ図を用意してみました。
具体例を見ると理解が深まるかと思いますので、いくつかのケースを見てみましょう。
【ケース①】サラリーマンとして給与年間300万円、副業100万円
・副業収入が300万円を超えない
⇒副業による所得区分は「雑所得」になると考えられます。
※反証することにより「事業所得」になる可能性もあります。
【ケース②】サラリーマンとして給与年間300万円、副業400万円
・副業収入が300万円を超える
⇒副業収入が300万円を超えるため、「事業所得」になると考えられます。
⇒また副業の方が給与より高いため主たる所得と言うことができ、「事業所得」になると考えることもできるかと思います。
【ケース③】サラリーマンとして給与年間300万円、副業400万円(副業の内容がほぼほったらかしでできるアフィリエイトによる)
・副業収入が300万円を超える
⇒ケース②と上記2つは一緒です。しかし、社会通念上事業と言えるか怪しい所があるかと思います。したがって、「雑所得」になる可能性があります。
【ケース④】フリーランスとして収入200万円
⇒他に所得がなく、フリーランスで生計を立てているならばそれが本業であると考えられます。したがって、300万円の基準を用いることなく「事業所得」になると考えられます。
【ケース➄】2020年以前はサラリーマンとして給与年間500万円、副業400万円を5年以上継続していた。しかし、2021年はコロナの影響によりサラリーマンとして給与年間500万円、副業200万円に減少した場合。
・副業収入が300万円を超えない
⇒2020年以前は副業が300万円を超えていましたが、2021年は副業が300万円を超えていません。そのため、2021年の副業による所得区分は「雑所得」とも思えそうです。
ただし、5年以上継続して400万円の副業収入があり、社会通念上事業と言える可能性があります。また、今回たまたまコロナ禍の影響で一時的に営業を自粛していた等、反証することで「事業所得」になる可能性があると考えられます。
今回のまとめ
今回の改正案は一見すると「年間の副業収入が300万円以下であると、副業は雑所得区分となり増税になりますよ」というように捉えがちです。
しかし、さきほどのケースのように、年間の副業収入が300万円以下であっても実質増税の影響を受ける人、そうでない人、影響の少ない人がいます。
それは課税当局が単に副業をしている方を一律増税しようというのが目的ではないと考えられます。適正で公平な課税をするというのが本改正の目的の一つであると考えられます。
例えば、副業が事業と言える規模で行ってないにもかかわらず、「事業所得」として申告し、副業の赤字部分を給与等の他の所得と損益通算して納税額を減らすといった問題に対処するためです。
改正案の内容を正確に理解することは難しいかと思います。
また解釈の余地もあります(本稿も一部、私の解釈が入っておりますので、ご留意下さい)。
現段階では、案の段階ですので、原案が修正される可能性もあります。
(実際に、原案に対して多くの意見が集められました。)
副業をしている方、これから始める方は悲観することなく、今後の改正の動きに注視していきましょう!
文=齋藤 雄史
編集=内藤 祐介
齋藤雄史さん
税理士/公認会計士
宮城県仙台市出身。
高校卒業後、進学資金を貯めるため、新聞販売店に勤務。その後、地元の簿記専門学校に進学、東日本大震災同年の2011年公認会計士試験合格。
合格後、新日本有限責任監査法人福島事務所勤務。
法律の世界に魅せられロースクールに進学し、同時期に板橋区にて会計事務所を開業。
ITやクラウド対応を武器に顧客開拓に成功し、20代〜30代をはじめとする多くの起業家から厚い信頼を得ている。
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