毎年、6月になると送られてくる、住民税決定通知書。社会人として働いている人にとっては、見慣れて久しい書類ではないでしょうか。
しかしそんな住民税も、会社員と個人事業主では支払い方を始め、大きく捉え方が異なります。
今回、やさしいお金の専門家・横川楓先生に伺ったテーマは、フリーランスが知っておくべき住民税について。
時には「収入ゼロ」でも、支払わなければならない住民税。意外と知らない住民税のルールについて伺いました!
横川楓さん
やさしいお金の専門家・金融教育活動家
一般社団法人日本金融教育推進協会 代表理事
明治大学法学部卒、その後同大学院へ進学。
24歳で経営学修士(MBA)を取得。
実家は会計事務所を経営。
同年代の友人たちのお金に対する意識と、将来の資産形成、所得格差、年金問題、増税など、これからの日本を担う世代に振りかかるさまざまなお金の問題との乖離に疑問を持ち、お金の知識の啓蒙活動を開始。
ファイナンシャルプランナー(AFP)や、SDGs検定、マネーマネジメント検定等の資格を取得し、2022年1月に一般社団法人日本金融教育推進協会を設立。
同法人の代表理事を務める。
横川さんのインタビュー記事はこちらから!
「収入=給与」に縛られない。経済評論家・横川楓さんに聞く、独立・起業に必要な2つの条件
庵(いおり)
イラストレーター
都内に住む27歳のフリーランスイラストレーター。
学生時代から絵を描くことが好きで、数年前から副業としてイラストレーターの仕事を受けるようになった。
近年は副業での収入が本業の稼ぎより多くなったことから、満を辞して独立を決意する。
6月になると届くアノ通知! 住民税ってそもそも何?

早いものでもう6月ですね。6月といえば、毎年この時期に届くアノ通知が、我が家にもやってきました……。

6月に届く通知と言えば……住民税決定通知書だね(笑)。
庵ちゃんのような個人事業主は自宅に郵送、会社員の人は会社から渡されることが多いんじゃないかな。

そういえば今まであまり考えたことなかったんですけど、住民税ってなんなんですかね?

住民税というのは、地方税の一種。
都道府県が徴収する、道府県民税(東京都は都民税)と、市区町村が徴収する市区町村民税を合わせたものを、住民税って言うんだ。
要するに、自分が住んでる県や街に対して納める税金ってことだね。

納税金額はどうやって決めてるんですか?

基本的に個人住民税の場合は、課税所得額の10%に相当する金額を納付することになっているよ。
ただし住んでいる自治体によって、微妙に税金の算出方法は違うんだ。基本的には、自分の収入によって納税金額が変化することは同じだから、全国どこに住んでいてもそんなに納税金額は変わらないよ。

北海道は極端に高くて、沖縄は極端に安い、なんてこともないってことですね。ところで「個人」住民税があるってことは、法人住民税もあるってことですか?

そうだよ。意外と知らない人もいるんだけど、実は法人にも住民税は存在するんだ。
法人も法律で認められた「1つの人格」。拠点を置く場所に「住んでいる」という認識になるからね。
法人成りをすれば住民税を払わなくていい、というわけでは決してないから、注意が必要だよ(笑)。
フリーランスの洗礼? 住民税「3カ月に1回納付」の罠!

個人事業主が住民税について、知っておくべきことって何かありますか?

これはもう庵ちゃんはよく知っていると思うけど、個人事業主は住民税を自分で支払わないといけないんだ。

そ、そうなんですよね……。

そして支払うタイミングは通常、年4回に分けて納付する(6月末、8月末、10月末、翌年1月末)。
会社員の場合は、毎月の給与から天引きされる。だから自分で納める必要はないし、加えて個人事業主よりも、1回あたりの納税額は低い。
例えば年間12万円を納付するなら、会社員なら毎月1万円ずつだけど、個人事業主なら1回の納付で3万円納付しなければいけないんだよね。

そ、そうなんですよ! 会社員の感覚でいると、びっくりするんですよね!

納税する額は同じでも、まとめて支払うとなるとちょっと割高に感じてしまうよね。ちゃんと住民税支払い用に、お金には余裕を持っておきましょう。

会社員でありながら、個人事業主としてもお仕事をしている人が最近増えている気がします。この場合はどうなのでしょうか?

本業が会社員の場合は、基本的に会社が事業の分の住民税もまとめて給与から天引きしてくれるよ。

よく個人事業主として収入を得て、所得が増えると、それに応じて住民税が増えるから、会社に副業がバレてしまうなんて話を聞いたことがあります。

確かに、住民税は収入の金額によって前後するので、会社員の給与収入に対して、住民税が異様に高ければ、そこで副業に気づかれてしまうということは考えられるね。
でも今はふるさと納税などもあるし、住民税の納付額が個人によって異なるというケースはそう珍しいものでもないよ。
それに確定申告の時に手続きをしておけば、事業収入と給与収入の住民税の支払いを分けることもできるんだ。
この場合はもちろん、事業収入分を自分で納付しなければならないけどね。
そもそもだけど、会社員で副業をするなら余計なトラブルを防ぐためにも、きちんと会社に申告しておくことをおすすめするよ。
「収入ゼロ」でも税金を納めなければならない?

他に何か知っておくべきことはありますか?

会社員から独立して個人事業主になる時、その年分の住民税を一括で支払うこともある(天引きされる)という話は、知っておいた方がいいかもしれないね。
住民税は、前年の課税所得額によって計算されるから、年の途中で住民税の納付金額が変わることはないんだ。
だけど年の途中、例えば12月に退職するとなると、翌年5月までの住民税切り替えの時期まで、6カ月あるということになる。
つまり、通常なら12分割されて給与から引いてもらっていた住民税が、退職月に残りの6カ月分をまとめて納付することになってしまうから、注意が必要なんだよ。

そういえば私も独立した時に、退職月の給与の手取りが、いつもより少なかったような……。

住民税が引かれたことによって、手取りの金額が変わったんだと思う。ちなみに給与から天引きにしてもらうか、自分で納付するかは、会社に申告すれば選ぶことができるよ。
退職の時に、きちんと会社に相談しよう。
加えて注意が必要なのは、住民税は前年の課税所得額によって計算されるということ。
これは独立した初年度も例外じゃない。
つまり、独立して収入が安定していなかったとしても、独立する前の会社員時代の課税所得額(前年の収入)によって住民税が計算されて、その額を納付しなければならないんだ。
プロスポーツ選手が引退した後、仕事がなくても、ものすごい額の税金を納めなければならないという話があるけれど、住民税もその理由の1つだったりするんだよ。
会社を辞める前から、税金を払えるだけの蓄えは残しておいた方が安心だね。

やっぱり、独立・起業には準備が本当に必要不可欠なんですね……。横川先生、今日もありがとうございました!
構成・文・撮影=内藤 祐介
イラスト=ram