企業に一定期間在籍していると、従業員の権利で利用できる福利厚生の中に「早期退職制度」と呼ばれるものがあります。しかし、自社で早期退職制度を設けられていたとしても、なぜ設置されているのか、利用するとどうなるのかなど、わからない方は多いのではないでしょうか。早期退職制度とはどのような制度なのか、メリットやデメリットを紹介します。また、あわせて利用する際の注意点も解説します。
早期退職制度とは
早期退職制度とは、企業を定年よりも早く退職できる制度で「早期退職優遇制度」とも呼ばれています。
設置されている目的は主に、従業員の選択肢を広げるためや、組織の人員の循環を促すためです。様々なキャリアアップや就職を支援することを目的としている制度であるため、設置には福利厚生の意味合いが強いです。早期退職制度の利用者には、退職金を割り増しで支払ったり、再就職の支援をしたりなどの優遇措置が取られるケースも少なくありません。
利用するには「◯◯歳以上」や「勤続年数◯◯年以上」など、条件が設定されていることがほとんどです。そのため、早期退職制度の利用者は一定期間企業に勤めているベテラン層が対象であるといえます。
また、早期退職制度の利用は自らの意思で決められるため、原則「自己都合退職」の扱いになります。
早期退職制度と似ている制度で「希望退職制度」や「選択定年制」があり、混同してしまっている方も少なくないでしょう。希望退職制度や選択定年制の内容や目的が早期退職制度とどのように異なるのか、紹介します。
希望退職制度とは
希望退職制度とは、従業員の将来性を考えることを目的とした早期退職制度とは違い、企業が将来の経営リスクに備えて、時期を限定して早期退職希望者を募る制度です。そのため、希望退職制度では、早期退職制度と同じように割り増しで退職金をもらえたり、再就職の支援をしてもらえたりする優遇措置が用意されているケースが一般的です。また、希望退職制度を利用しての退職であれば「会社都合での退職」扱いとなるため、失業保険の給付が早めに受けられます。
早期退職制度は利用に期限がないものの、希望退職制度は時限的に応募を募る制度です。利用を希望しているのであれば、募集を見逃してしまわないようにしましょう。
選択定年制とは
選択定年制とは、従業員が定年退職の前に自らの意思で退職の年齢を決められる制度です。しかし、退職する年齢として選択できるのは60歳から65歳の間と定められているため、早期退職制度や希望退職制度ほど早い退職はできません。
近年、多くの企業で平均退職年齢が上昇し、組織の人員の循環が滞ってしまっていることがあります。人員の循環不足という課題を解消するために、大手企業を中心に導入されていることが多い制度です。
早期退職制度のメリットとは
わざわざ早期退職をしなくても普通に会社を辞められるのに、なぜ早期退職制度を選択する人がいるのでしょうか。早期退職制度を活用するメリットを3つ紹介します。
1. 退職金が割り増しでもらえるケースがある
早期退職制度を活用すると、普通に退職した場合よりも割り増しで退職金をもらえるケースがあります。通常の退職金と合わせて別途支払われる退職金が「割増退職金」です。企業によって異なるものの、早期退職制度だけでなく希望退職制度や選択定年制度でも支給されます。
厚生労働省による『就労条件総合調査(平成30年)』によると、定年退職による退職給付と早期退職による退職給付では343万円もの差がありました。しかし、勤続年数やどの時期に退職するのかによって割増退職金の額は変動するため、いくら支給されるのかは企業に確認しましょう。
2. 再就職支援を受けられるケースがある
早期退職をすると、再就職を支援してくれる制度を活用できるケースがあります。退職前に企業が人材会社と契約すると再就職にかかる金額を負担してくれるので、無料で再就職の支援をしてもらえます。
早期退職制度をして自ら早く退職をしても、次の就職先が見つからないと「元の雇用先に戻りたい」とトラブルに発展する人も中にはいます。企業が早期退職をした元従業員とトラブルにならないためにも、再就職の支援を導入するケースが多いです。再就職支援制度がある企業に勤めているのであれば、無料で支援してもらえるのでぜひ活用してみましょう。
3. 自由な時間が作れる
何か挑戦してみたいことや、やってみたいことがある方は、早期退職制度を活用すれば早めに自由な時間が手に入ります。退職後やりたいことがある方は、少しでも若いうちから始められるのはメリットといえるかもしれません。他にも、長年頑張ってきた自分の身体を癒やすためにリフレッシュする時間に使ってみても良いでしょう。
セカンドキャリアで活躍を目指すなら、自分磨きに時間をかけるのも良いでしょう。今まで培ったスキルを活用しながらより実践的な学びの機会を持つと起業や独立という手段も拓けるかもしれません。
早期退職制度のデメリットとは
早期退職制度にはメリットもありますが、もちろんデメリットもあります。早期退職制度のメリットばかりに気を取られてしまうと、思いがけないトラップにハマってしまうこともあるので注意しましょう。早期退職制度を活用するデメリットを4つ解説します。
1.再就職先がなかなか決まらないこともある
早期退職制度を活用して早く会社を辞めても、なかなか次の就職先が決まらないことがあります。再就職の難易度は個人のスキルや経験によって異なります。それ以上に、年齢が上がるにつれて就職の難易度は高くなるのが一般的です。
少子高齢化の影響で人手不足の企業が増えてきているのは事実です。しかし「簡単に就職できる」と思っていると、なかなか就職先が決まらないこともあるので、注意しましょう。
2.収入が減る恐れがある
早期退職制度を活用して転職を成功させたとしても、再就職先で収入が下がるケースは少なくありません。
退職前は勤続年数や実績など、積み上げてきたものを評価してもらえて給料に反映されます。しかし、新しい職場ではどれだけスキルがあっても一からスタートすることになります。そのため、転職先でも年収が下がらないような再就職をしたり、ライフプランの組み立てをしたりしましょう。
3.年金の支給額が下がることがある
早期退職をしてしまうと、場合によっては将来的に年金の支給額が下がってしまう可能性があります。
老後退職金を受け取る年金には「老齢厚生年金」「老齢基礎年金」の2つがあります。老齢厚生年金の場合、年金の支給開始までの平均給与や加入月数によって金額が異なります。
4.「自己都合による退職」扱いとなるため、失業保険の給付が遅い
自分の意志で「早期退職制度の活用によって退職すること」は、会社都合ではなく自己都合による退職と見なされます。そのため、失業保険の給付も認定日から給付制限+待期期間の「3か月7日間(令和2年10月1日以降の離職で、5年間のうち2回までの場合は2か月7日間)」は、失業保険の給付が受けられません。
早期退職制度を利用する注意点3つ
早期退職制度は、使い方次第では将来の時間を有効に使える福利厚生です。しかし、利用するにはいくつか注意点を確認しておく必要があります。早期退職制度を利用するうえで気をつけておくべき注意点を3つ紹介します。
退職金の支給額や受け取り方の確認をしておく
早期退職制度を利用した場合、通常よりも多くの退職金が受け取ることができる可能性があります。いくら支給されるのかは、会社とよく話し合っておきましょう。
また、退職金の受け取り方はさまざまです。3つの方法を紹介します。
・全額を一時金で受け取る
・全額を年金で受け取る
・一時金+年金で受け取る
一時金は「退職所得」、年金は「雑所得」として、それぞれ課税されます。
貯蓄があるか確認する
いくら退職金がもらえるとはいえ、会社の経営がうまくいっていないと、思っていたほど退職金がもらえない可能性があります。もらえなかったときのためにも「生活を続けられるだけの貯蓄があるのか」事前にきちんと確認しておきましょう。
もちろん、再就職を考えている方もいるでしょう。しかし「再就職がいつできるか見通しが立っておらず、貯蓄もない状態」で早期退職してしまうのはリスクがあります。万が一のことを意識して退職を決めてください。
キャリアプランを明確にしておく
早期退職後に時間ができたら、再就職するのか何か別のことをするのか、ライフプランを決めておきましょう。
特に再就職するのであれば、どのようなキャリアを積み上げていきたいのか明確にしておくことをおすすめします。今まで積み上げてきたものがあったとしても、新しい就職先では関係なくなります。
早期退職制度を利用して、自分のやりたいことに踏み出してみましょう
早期退職制度は、個人のワークライフバランスをより実現させるために設置された福利厚生のひとつです。早く退職できるほか、割り増しで退職金をもらえるので、退職後に何かやりたいことがある方は検討してみてはいかがでしょうか。
特に、起業してみたい、新しい事業に挑戦してみたい、という方は早めの挑戦がおすすめです。そんな方は、早期退職制度を活用して次のステップに進むための時間を確保してみてはいかがでしょうか。
ちはる