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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第115回・スーパーにある自動販売機

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第115回・スーパーにある自動販売機

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

スーパーの入り口に「飲み物の自動販売機」が置かれているのをよく見かけると思います。店内では安く販売している商品もその自動販売機ではほぼ定価で売っているわけですが、なぜ、わざわざ入り口にそんな自動販売機を設置しているのでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

自動販売機の普及台数を調べてみると、ここ数年はわずかながら減少を続けているようです。とはいえ、コロナ禍の影響で対面販売が見直されたり、新たなニーズとして冷凍食品の自販機が開発されたり、レトロな自動販売機が人気スポットになるなど、まだまだビジネスチャンスはありそうです。

以前この連載でも「社長のおごり自動販売機」を取り上げたことがありましたよね。

さて、今回はそんな自動販売機に関する素朴な疑問をクイズにしてみました。

それでは解説します!

スーパーの入り口や駐輪場、駐車場といった場所に、飲料の自動販売機が設置されているのを見かけることが多いと思います。

お店の中で買えば同じものが安く買えるのですから、わざわざ外に置かれている自動販売機で買わなくても…と思ってしまいそうですが、実は自動販売機を置いているのには理由があるのです。

それは、単純に「よく売れるから」なんだそうです。

普通に考えたら、お店の中で買った方が安いならそっちで買えばいいと思いますよね。しかし、買い物を済ませて店外に出てきて「喉が渇いたな」と思った時に、わざわざもう一回荷物を抱えて店内に戻り、レジまで行って買うのは大変です。それに時間もかかります。だったら、目の前の自動販売機で買ってしまえばいいわけです。

「タイムイズマネー」という人は意外と多く、まさにそうした人にとってはありがたい自動販売機なわけですね。コンビニがこれだけ街中にあっていろいろと便利になっている時代なのに、いまだに飲料の自動販売機をあちこちで見かけるのは、「より早く手に取りたい」「今すぐ飲みたい」という人が多いことを表しています。

それこそコンビニに入る感覚で自動販売機を利用する人はかなり多いといわれ、レジまで行ってお金を払ったりしなくていいので、自動販売機の方が楽だと考える人はたくさんいるのです。つまり「高かろうが便利だったらいい」というニーズは間違いなくあるということですね。

では、飲料つながりでもう1つ小さなクイズを出してみましょう。

実は、コカ・コーラは「コンビニで売っている商品」と「スーパーで売っている商品」とではペットボトルのサイズを微妙に変えているのですが、それはなぜだと思いますか?

原価が4倍違うのに値段が同じだったら、本当はおかしい

答えに行く前に今回のポイントをお伝えすると、飲料の世界はすでに「コト消費」に入っているといわれています。

なぜペットボトルのサイズが違うのかというと、これは日本コカ・コーラが発表しているのですが、「コンビニとスーパーとでは客層が違う」という独自のマーケティングに基づいているのだそうです。

コンビニで買う人は「職場」で飲む場合が多く、そういう人は何度も買いに行くわけではないため、一口飲んだら蓋をして、また飲んで、を繰り返し、従来の定番のサイズである500mlくらいがちょうどいいとのこと。

一方で、スーパーで買う人は「自宅」で飲む場合が多く、飲みきりやすい小さめの350mlや、冷蔵庫で冷やしながら何回もコップに分けて飲めるお得なサイズの1.5ℓがいいのだとか。ただ、500mlに慣れている人から350mlに対して「小さすぎる、ステルス値上げだ」とクレームがあったそうで、それならと同じ価格帯で700mlをラインナップに加えたのだそうです。

これはコンビニで飲料水を買う場合と似ています。500mlのペットボトルが100円くらいで売っている横に、同じブランドの2ℓの水がほぼ同じ値段で売っていたりしませんか?分量が4倍違うのに、値段がほぼ一緒というのは普通に考えたらおかしいのですが、実際にはそうなっています。

これらの話から見えてくるのは、すでにメーカーは、量に合わせて「原価がいくらだからいくらで売る」という売り方をしていないということなんです。

例えば、仕事で外出した際、喉が渇いたのでコンビニで水を買おうと思った時に、「同じ値段なら2ℓの方がお得だな」と大きなペットボトルを買ってカバンに入れて持ち運びますか?おそらくやらないですよね。喉を潤すための量があれば十分であり、持ち運びも考えて小さいペットボトルを選ぶでしょう。

つまり、飲料に関しては間違いなく「モノ消費」ではなく「コト消費」の世界に入っています。その「コト」に合わせてサイズが違っていいし、「コト」の価値によって価格を決めればいい。「原価にいくら上乗せして…」というような売り方をするものではなくなっている、というわけですね。

人々は何に価値を置いて消費活動をするのか?

先ほど紹介した日本コカ・コーラのマーケティングの話については、個人的にはちょっとクエスチョンが付く部分はあるのですが、とはいえスーパーの入り口の自動販売機で160円の飲料が売れている実態を考えれば、そういうことなのかなあ…と思ったりもしました。

確かに自分自身の行動を振り返っても、「コト消費」をしているなあと思うところはたくさんあるわけです。あらためて、人々の消費行動について考えるのは面白いなあと感じています。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「よく売れるから」でした。自動販売機の台数自体は減少傾向にあるようですが、コロナによって「人と人が接触しない販売方法」として見直された部分が間違いなくあるので、今後新たな面白いビジネスが生まれるかもしれませんね。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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