新型コロナウイルスの感染拡大やAIの急速な進化など、最近では事前に予測できない社会変化が多く発生しています。この状況を表すキーワードとして「VUCA」という言葉が最近よく使われています。
今後独立開業をしていく際には、この「VUCA」の特性を把握したうえで事業運営していくことが求められます。
では「VUCA」とは何なのか、今後どう対応していく必要があるのか、ご紹介していきましょう。
「VUCA」のルーツは軍事造語
「VUCA」とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語です。
もともとは、冷戦終結によって従来の核兵器ありきの戦略から不透明な戦略へと変わった1990年代の状態を表す軍事造語でした。その後2010年代に入り、変化が激しく不確実な社会情勢を指して、「VUCA」という言葉が転用されるようになりました。現在では、これまでの常識が大きく変わる「ニューノーマル時代」の到来を象徴する言葉としても使われています。
「VUCA]に含まれる言葉の意味は、以下になります。
【V】Volatility(変動性)
VUCAの「V」はVolatilityで、「変動性」という意味です。
IT技術が急速に発展している今の時代は、顧客ニーズの変動が顕著です。たとえば、2013年頃に一世を風靡したソーシャルゲーム業界が、今ではピーク時と比べ売上高が半減しています。新しいビジネスモデルを作り出しても、環境の変動によってわずか数年で衰退してしまうのが現状で、市場は以前よりも短期間で大きく変動し、予測不能な状態になっています。
【U】Uncertainty(不確実性)
VUCAの「U」はUncertaintyで、「不確実性」という意味です。
今やビジネスにおいて、「確実なもの」「安定しているもの」はありません。時代の変化はもちろん、政治経済や市場の変化は目まぐるしく、日々グローバル化も進んでいます。また今年でいうと感染拡大した新型コロナウイルスが日本経済にどのような影響を与えるのか、渦中では予測不可能です。突発的な疫病や、激化していく台風や地震などの災害、少子高齢化・過疎化などの不確実な要因が、現代には複数存在します。そして不確実性が大きい状況では、売上計画などビジネス上の見通しを立てるのが難しくなります。
【C】Complexity(複雑性)
VUCAの「C」はComplexityで、「複雑性」という意味です。
急速なビジネスのグローバル化が進んだことで、今日さまざまな分野で国境を越えるイノベーションが起こっています。そのような状況でビジネスを成功させるためには、世界の「複雑性」を十分に理解しておくことが必要です。特に日本と海外ではビジネスの習慣やルール、基本的な価値観などが異なる場合が多く、また新しいビジネスやルールが次々に生まれるため、法律面を含めた環境整備が追いついていないというのが現状です。
たとえばタクシーの配車アプリであるUberのように、本国であるアメリカと日本で異なった仕組みで運営されていたり、全世界的に広がっているキャッシュレス化も、日本では店舗側がコスト負担の問題や現金信仰という独自の文化観によってなかなか広がらないという、世界各国とは異なる結果が生じていたりします。
現在では新しいサービスが登場するたびに、複雑性にどのように対処するか、という課題が生まれています。
【A】Ambiguity(曖昧性)
VUCAの「A」はAmbiguityで、「曖昧性」という意味です。
現在、ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化しているため、少し先のこともどうなるか予測が難しく、問題に対する絶対的な解決策が見つからない曖昧な状況になっています。
たとえばベンチャーキャピタル(投資会社)のように、投資先企業の精査をしても今後の環境変化が見立てきれず、曖昧な状況の中で投資するかどうかという経営の意思決定が求められるケースも増えています。
このような曖昧な案件に対しては、少しの変化も逃さず素早く最新情報を捉えて意思決定し、対応していくことが求められます。
「VUCA」の時代に求められる3つのポイント
「VUCA」の時代が進むと、変化(Volatility)が激しいため先が見通しづらく(Uncertainty)、複雑(Complexity)で曖昧(Ambiguity)な世の中になっていきます。そのため、従来のように準備に長い時間をかけていては、市場構造やユーザーの興味は移り変わってしまいます。
そのような「VUCA」の時代に対応したビジネスを展開していくためには、事業として以下の3つのポイントが必要になります。
① ビジョンを明確に持つ
「VUCA」の時代は将来の社会環境がどのように変化するか予測しづらく、かつその変化のスピードも速くなっています。企業がその変化に柔軟に対応するためには、今後何を目指していくか、自社のビジョン、経営方針を明確に持つことが求められます。
この自社のビジョン・経営方針が明確でないと、社会変化に対応するたびに自社の経営戦略のベクトルが変わることになりかねず、事業を継続的に運営していくことが困難になってしまいます。
自社のビジョン・経営方針を明確にしておけば、ビジョン実現のためにとるべき行動や経営判断が明確になり、環境変化に振り回されたりその場しのぎの判断をしたりすることを回避できます。
② 素早く情報収集し予測・検証する
「VUCA」の時代では、自社のビジネス環境が急速に変化していきますが、どのような変化が起こっているのかを把握しなければ、その後の対応もできません。
そのため、自社のビジョン・経営方針を明確にしたうえで、できる限りの情報を素早く集め、変化の状況を正確に把握することが必要です。
情報を集める際は、用途によって情報ソースを使い分け短期間で収集します。インターネットのニュースサイトやアプリは、時事ニュースなど広く浅い情報を集めるのに有効です。一方、自社ビジネスに直結する深く狭い専門的な情報は、専門的なサイトやSNS上の専門家のアカウントをフォローすることで入手します。執筆した書籍や実際に現場の人間に会って生きた情報を得るなど、情報ソースをバランスよく配分しましょう。
そして集めた情報から現状を打開するアイデアを生み出し、仮説を素早く立て、即実行して検証することが大切です。「VUCA」の時代では、石橋を叩くようにアイデアを検証している間にも、どんどん状況が変化していきます。小さいアイデアから試し、結果を検証しながらアイデアを大きくしていきましょう。失敗を恐れず、動きながら考えることが「VUCA」時代では求められます。
③ 結果が出るまでやりきる
情報を収集して分析検討し将来を予測したとしても、その予測が正しいかどうかは誰にも判断できません。情報収集をある程度実施してビジネスに関する予測をした後は、予測が当たるかどうか一喜一憂するのではなく「やりきる力」が必要です。選択の大枠となる部分を決めたら、結果が出るまでは強い意志を持って決めたことに集中し、やりきりましょう。
変化が激しい「VUCA」の時代には、ビジョンに基づいて選択した対応策を、まわりの変化に振り回されずに一貫してやりきることが求められます。「柔軟に対応しているつもりだったが、実は状況に流されているだけだった」という事態を避けるためにも、判断した後は一定期間その選択に集中してやりきりましょう。
意思決定のスピードを上げ、「VUCA」に素早く対応を
ここまで、今後の「VUCA」の時代にどう対応していく必要があるか、ご紹介してきました。
環境変化の先行きが見通しづらい中、事業を継続的に成長させていくためには、企業としての意思決定のスピードをどう上げていくかが重要になります。そのためには、先ほどもご説明したように、自社のビジョン・経営方針を明確にしたうえで情報収集と仮説検証を素早く行うことが求められます。そして意思決定したら、結果が出るまでやりきることです。
企業の意思決定スピードを高めることで、今後の「VUCA」の時代に対応していきましょう。