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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第81回・ニンテンドースイッチをいくらで売るか

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

「ニンテンドースイッチ」の品薄状態が続いています。さて、今、仮にあなたが販売者としてニンテンドースイッチの在庫を100個持っているとします。それを全部ネットで売りさばくとしたら、いくらで値付けをするのが正しいと思いますか?ちなみに、メーカー希望小売価格は税込32978円(税込)です。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

品薄状態が続く、ニンテンドースイッチ。ここ最近は、任天堂のオフィシャルショップを始め、色々なお店で抽選販売が行われていますが、なかなか当たらずにやきもきしている人も多いのではないでしょうか。

今回は、前回に続きお金の話です。そのニンテンドースイッチを今、実際にネットで販売するとしたら「いくらで売るのが正しいのか」という視点から、市場経済について学んでみましょう。

それでは解説します!

販売する側としては、値段の付け方は自由です。しかし、高過ぎても売れませんし、安過ぎればもうかりません。仕入れ値にもよりますが、当たり前の話ですよね。

今回のポイントは、どういう視点で値段をつけていけばいいのか、ということです。

その時に参考にできるのが、その商品が多く流通している場所を確認すること。ニンテンドースイッチの場合、今は実際の店舗で販売されてはいませんので、ネット上の価格が参考になります。

1つが、「ヤフーオークション」です。実際にサイト上で検索してみるとたくさんの出品がありますが、ここで注目すべきは売れている価格の平均値ではなく「最頻値」です。つまり、新品、送料無料、即決といった同じ条件でざっとみた時に、出品されている数がもっとも多い価格に注目することです。

できればもう1つ、フリマアプリの「メルカリ」でも価格をチェックしてみましょう。こちらも同じく最頻値を調べます。

すると、どちらも最頻値は同じ金額であることがわかりました。これを書いている2020年7月22日時点での最頻値は「4万円」。これが今回の答えとなります。

これがアダムスミスのいうところの「神の見えざる手」です。市場経済は自然とバランスを取っていくという意味で使われる言葉ですが、今現在、販売するのに正しい価格はというと、これが答えになるわけです。

1個3万6000円で仕入れた場合はいくらもうかるのか?

同じく、品薄状態が続いてほとんど手に入らなかった「マスク」ですが、最も手に入りにくかった3月から4月頃は、50枚入りのものが1箱5000円程度で販売されることもありました。マスクがどうしても必要な人であれば、その値段であっても買うわけで、あの時はそれが正しい価格だったわけですね。

マスクを高値で転売することが問題となり法律で規制されましたが、この規制は、本来は医療関係者に回るはずのマスクが他だと高く売れるからと転売する人が増えた結果であり、正しい選択ではあるものの、特殊事情です。マーケットメカニズム的には、値段を上げて販売することは問題ないのです。

そのマスクも、今や1箱50枚入りで1000円を切るくらいまで値下がりしています。それでも、コロナショックの前に比べればまだまだプレミア価格。そして、売れずに在庫を抱えて困っている業者がたくさんいます。

今回はニンテンドースイッチの例を出しましたが、商売をしていると、「○○を売りませんか?」みたいな声がかかることは意外とよくあります。実際にやってみると、思ったよりも手間がかかったり、市況が変わって売れなくなったりして、もうけるどころか在庫を抱えてしまったり損をしてしまうケースはありがちです。

その時に、オークションサイトなどの最頻値を参考にしてシミュレーションしてみることで、やるかやらないかの判断ができ、結果としてリスクを回避できるかもしれません。

試しに、今回のニンテンドースイッチの件をシミュレーションしてみましょう。

仮に1個3万6000円で100個仕入れられるとします。最頻値である4万円で出品するとして、1個あたり送料が1800円かかると考えると、1個売れば3万8200円の売り上げとなります。仕入れ値を引けば、1個あたりの利益は2200円。100個全部が売れたら22万円のもうけとなります。

もしかしたらすぐに生産が追いつき、いくつかは売れずに不良在庫になるかもしれません。売れたとしても、値下げ対応などで利幅が小さくなったり、最悪の場合は損をする可能性も考えられます。

さて、あなたならこの「22万円」という利益のためにリスクを取りますか?

手間やリスクも考えて決断を

商売においては損得だけが全てではありませんが、ある程度のシミュレーションをして、そのうえでリスクや手間なども加味したうえで判断していければ、大きな失敗を防ぐことはできるはずです。

ネットでものを販売するのが当たり前になっているからこそ、「今、余っているものをなんとかしたい」という話はこれからもいっぱい出てくるはずです。1つのポイントとして、ヤフオクとメルカリ(などのフリマアプリ)で最頻値をチェックして、落札相場から「いくらで売れるのか」を把握する術は、1つの賢い方法だと思います。頭に入れておいてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「4万円」でした。品薄で買えないからこそ欲しくなるというのも消費者心理だけに、「いつ売るのか」も商売をするうえでは重要なポイントですよね。そういった話についても、いずれまた取り上げたいと思います。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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