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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第80回・ニューノーマルと適正価格

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方   第80回・ニューノーマルと適正価格

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

ウィズコロナの時代の「新しい標準」として、「ニューノーマル」という言葉を耳にする機会が増えました。座席と座席の間隔を広くとるなどして密な接触を避けるための取り組みも、その1つといわれます。さてここで問題です。仮にニューノーマルに合わせて東海道新幹線「のぞみ」のAからE席のうちのB席とD席を空席にして運転することになったとして、東京・京都間の片道料金の適正価格は大体いくらになるでしょうか?直感でお答えください。なお、現在の普通車指定席の片道料金は1万3850円です。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

最近、よく耳にするようなった言葉の1つに「ニューノーマル」というものがあります。元々は、経済危機などが起こりそれまでの常識が大きく変わってしまったような時に使われてきた言葉です。
今回の新型コロナウイルスの流行においては、「コロナ前と同じ生活は難しい」ということから、新たな標準としてニューノーマルが注目されています。
まさに新型コロナウイルスは、経済に大きな打撃を与え、私たちの生活そのものを根底からくつがえしました。ウィズコロナの時代を生きる私たちにとっては、まさに「ニューノーマル」ともいうべき、新しい生活習慣に合わせた「新たな基準」が必要です。

それでは解説します!

最近、客同士の間隔をとるためにいくつかの座席を座れないようにしている飲食店が増えています。まさにこれがニューノーマルの1つで、店内に密な空間ができないようにお店側が泣く泣く座席数を減らしているのです。

映画館や劇場などでも、営業再開後はいくつか座席の間隔を空けて座るなどして、人と人が近くならないようにしているケースが目立ちます。座れない席が多い分、コロナ前に比べるとキャパシティそのものが大きく減っていることは一目瞭然です。

人が集まるところではこのような動きが見られるようになっていますが、では、今やすっかりたくさんの人が利用するようになった「電車」はどうでしょうか。実際のところまだそのような動きはなく、混雑時にはコロナ前のように満席になっています。

仮に、「ニューノーマルだから」と東海道新幹線の「のぞみ」の座席を1つ空けて運転するとしましょう。AからEまで5席あるうちの2席が使用できなくなるわけですから、実際の稼働は5分の3となりますよね。

さて、この場合の適正運賃はいくらになるのでしょうか。通常は片道1万3850円の東京・京都間の場合を計算すると、「2万3083円」となります(※1万3850円×5/3という計算式です)。

この料金を見てどう思われますか? おそらく「高い」と感じた人が多いのではないでしょうか。実際、同じ区間のグリーン車の片道運賃が1万9040円ですから、それよりもだいぶ高いわけです。

「ニューノーマル」という新しい標準は確かに必要なものでしょう。しかし、新しい標準だからとこの値段がニューノーマルになってしまうと、標準そのものが高くなってしまうということでもあるのです。

では「800円のランチ」の適正価格は?

話を飲食店に戻します。多くの飲食店では、座席に×マークや張り紙をするなどして座れないようにし、間隔を空けることを余儀なくされているわけですが、その場合の適正価格を同様に考えてみましょう。

ランチを800円で提供しているお店の場合、仮に座席数を同じく5分の3に減らすとしたら、800円のランチの適正価格は「1333円」になります。

どうでしょうか? やっぱり高いですよね。相場を考えると、いくらニューノーマルだからといっても急にそんな値上げができるわけがありません。だからお店もやらないわけです。

「ランチが800円」というのは1つの相場でしょう。相場というのは緻密な経済計算から算出された結果の数字であり、そこにきちんとした合理性があります。それを「ニューノーマルだから」といって簡単に変えることは難しいのです。

それなのに、席の間隔を空けるためにキャパシティそのものが減っているわけで、どう考えても経済性が合うわけがありませんよね。

今回お伝えしたいのは、「ニューノーマル」という風潮に対する1つの問題提起です。

多くの人がニューノーマルを言い出して、実際にそういう空気にもなっているわけですが、ビジネスは収益を上げるためにやっているわけです。それを考えれば、ニューノーマルというのが必ずしも正しい答えではない、ともいえます。

ソーシャルディスタンスを意識して席の間隔をとることは確かに大事なことではありますが、それを真に受けてやっていても、利益はどう考えても上がりません。ではどうするか。「自分なりの答え」を早く見つけていくことしかないのです。

自分の身は、自分で守らなくてはいけない

以前、この連載でも「安全ですよアピール」について取り上げました。お客様の目の前で除菌したり、座席の間隔をあからさまに空けることで、「安心してお客様が利用できるお店にしていこう」という話です。

ただ、これはコロナショックからのリハビリ期間だからこそ重要なことだったのです。リハビリ期間が終わり、「先」を考えていかなければいけなくなった今、律儀にそれを続けていても、利益が上がらないどころか先も見えないでしょう。

ニューノーマルはこれからの時代においては確かに大事なものです。しかし、その通りにするだけが答えではありません。自分の身を自分で守るためにも、「自分なりの答え」を考えてみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「約2万3000円」でした。ちなみに、アメリカのQBハウスが、コロナショックを機に15%の値上げをしたそうです。まさしく採算を考えてのものですが、これも値上げ可能範囲としてはギリギリらしく、適正価格には届いていません。それでも、1つこのような動きがあったことで、他にも同じ選択をする企業が出てくるかもしれません。注視したいと思います。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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