中小企業の社長が突然亡くなってしまうケースが多くみられます。
残された遺族としては会社をどうするかも決めなければなりませんが、会社の借金にも注意が必要です。
会社は銀行から借り入れをしていることがあります。
この場合、社長はその借り入れの連帯保証をしている場合が多いです。
この連帯保証とは何か、どうすればよいかを考えていきます。
連帯保証債務とは
連帯保証債務とは何のことでしょうか。
簡単にいえば「借りた人(主債務者。今回でいえば会社)と同じ責任を負うこと」です。
“保証”という語感から「お金を借りた人の補佐」といったイメージをもつかもしれませんが、“連帯保証”とは「連帯して借金を返す」の意味です。
したがって、主債務者を飛び越えていきなり請求されることもあり、主債務者に十分な資力があっても、連帯保証人が請求されたら支払わなければなりません。
連帯保証債務も相続される?
このように重い責任を伴う連帯保証債務ですが、連帯保証人が亡くなった場合、連帯保証債務も相続の対象になるのでしょうか。
相続では、プラスの財産もマイナスの財産も関係なく全ての財産が受け継がれます。連帯保証債務も例外ではなく、相続の対象になります。
そして、各相続人は自分の相続割合に応じて責任を負うことになるのです。
例えば、もともと1,000万円の連帯保証をしていたとします。
妻のみで子がいない場合、妻は1,000万円全額の連帯保証債務を相続します。
妻に加えて子が2人いる場合には、妻2分の1(500万円)・子4分の1ずつ(250万円ずつ)の割合で連帯保証債務を相続することになります。
連帯保証債務の存在を知らずに相続した場合
このような連帯保証債務があることがあらかじめわかっていた場合、対処方法があります。
例えば、相続放棄という手段です。
相続放棄をすれば、相続人ではなかったことになるため、連帯保証債務も相続しないことになります。
ただ、(多くの場合)会社の株式などの財産も相続できないことになるので注意が必要です。
会社の事業継続を考えているのであれば、少なくとも後継者は相続放棄をしない、当該後継者が新しく連帯保証人になる、相続人以外の会社後継者や債権者との間で交渉するなどの対応も検討しなければなりません。
相続放棄は原則として3カ月の熟慮期間しかないため、会社の財産状況・取引先の状況・返済の目途などを把握し、決断する必要があります。
また、前社長の財産を勝手に使ってしまうと相続放棄できなくなってしまう場合があるので、相続放棄をするかしないか決まるまでは遺産に手を付けない、といった方策もあわせて検討しなければなりません。
他方、連帯保証債務を知らなかった場合はどうすればよいのでしょうか。
まずは、連帯保証債務を知った時点で、同じように相続放棄をするかどうか検討します。
相続放棄をしないと判断すれば特に問題はありません。
問題は“相続放棄をしたほうがよい”と考えた場合です。
そのとき、
1.すでに相続財産を使用してしまった
2.熟慮期間が経過してしまった
のケースに当てはまる場合は、注意しなければなりません。
前社長の財産を使ってしまったようなときにも相続放棄ができるか
単純承認事由の点です。
単純承認事由とは、遺産を使ってしまった場合などには相続放棄ができなくなるという事由を指します。
ただし、遺産を使ったら絶対に相続放棄できないというわけではありません。
遺産を使った額はどの程度か、連帯保証債務の額はどの程度かなどを考慮して判断されます。
一般的には、遺族としてよくある出費(葬式代など)であれば相続放棄が認められやすいといえるでしょう。
熟慮期間が経過したとすると相続放棄が可能か
熟慮期間の点です。
熟慮期間を過ぎてしまっても、相続人が前社長には連帯保証債務がないと考えるに至った事情があれば相続放棄をすることができます。
これは、前社長との生前の関係や会社との関わりの度合いなどによって判断されていくのです。
例えば、前社長とは疎遠だった、前社長が会社の経営には一切タッチさせない人だった、などの事情があれば、熟慮期間を「連帯保証債務を知ったとき」から3カ月と考えることが可能です。
ただ、相続人が後継者となっている場合には、前社長とある程度密接であり経営にも多少触れていたケースが多いと考えられるため、実際には熟慮期間を過ぎてしまうと相続放棄をするのは難しいでしょう。
なお、いずれにせよ3カ月という縛りは残るため、発覚後すぐに行動を開始しなければなりません。
以上のように、連帯保証債務を知らなかった場合(しかもその人が後継者となっている場合)は、相続放棄が認められにくいことが予想できるため、資金調達を考えるなどして事業継続をしていくことになるでしょう。
おわりに
連帯保証債務は重い責任を負うのですが、事業継続という異なった視点も必要になるため、特に後から判明した場合などには慎重でかつスピーディーな検討が必要となります。
すぐに弁護士などに相談すると良いでしょう。
弁護士 神尾尊礼
得意分野は生活全般や企業活動全般で、退職相談を受けることも多い。
「敷居は低く満足度は高く」がモットー。