起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第47回・鳥貴族の値上げが失敗した理由
いきなりですが、クイズです!
映画を観た人は、分かるかもしれませんね。そんなにマニアックなことではありませんので、どこに感動したのかを思い出してみてください。まだ観ていない人は、QUEENの楽曲を思い浮かべながら、いろいろと考えてみてくださいね。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
2018年の後半から、映画界は『ボヘミアン・ラプソディ』の話題一色ですよね。私も劇場で観てすごく感動しました。QUEENの熱狂的なファンだったわけではないのですが、まさに世代であり、どの曲も聴き慣れたものばかり。QUEENが大好きな人だけでなく、たくさんいる私のような人が観に行き、感動してQUEENの音楽を再評価する流れができているようです。
同時に、リアルタイムでQUEENを知らない世代の人たちが話を聞きつけて映画館に足を運び、その魅力にはまってしまうという現象も起きています。まさに世代を超えて愛される、素晴らしい音楽だったことが証明されているわけですね。
国内だけでも興行収入116億円を突破し(2019年2月18日現在)、世界興行収入でも1000億円に迫る勢いだとか。この記事の掲載後に発表されるアカデミー賞にも複数ノミネートされていますので、受賞することになればさらに客足は伸びるかもしれませんね。
それでは解説します!
映画のクライマックスが、「ライブ・エイド」での演奏シーンです。「Bohemian Rhapsody」「Radio Ga Ga」「Hammer To Fall」「We Are The Champions」の4曲が演奏され、映画の感動はピークを迎えます。
素晴らしい役者たちによるリアルな演奏シーン、楽曲の美しさだけでも十分に感動的なのですが、実はここで盛り上がるための非常にズルい(褒め言葉です)シナリオが隠されています。
映画を観た方は分かると思いますが、ライブシーンに至るまでの主人公(フレディ・マーキュリー)を取り巻くトラブルとそれによる苦悩や葛藤の数々が、この4曲の歌詞とつながっているのです。曲を聴くだけで色々な思いが蘇る、そんな仕掛けがさらに感動を増幅させるわけですね。
そんなわけで、世界的にQUEENリバイバルの真っ最中ですが、こうした往年のアーティストを下地にしたビジネスは、世の中に非常にたくさんあります。
例えば、歌謡喫茶のような、昔の音楽ばかりをかけるお店が繁華街にあったりしますよね。80年代のヒット曲とか、昔のアイドルの曲を聴きながらお酒を飲んだり、若き日の思い出を語り合ったり、それこそカラオケを楽しんだりできるお店は、40代や50代の人たちで賑わっています。
カラオケでも、最近は「あの頃」といった検索機能が人気です。曲名や歌手名ではなく、「自分が○歳の頃に流行った曲」といった感じで音楽を探せる機能で、これが非常に場を盛り上げるのに役立っているといいます。
誰しもが持つ「語り合いたい思い出」にビジネスチャンスを見出そう!
他にも、世界中にお店がある「ハードロックカフェ」などもそうですよね。店内に世界的なミュージシャンが実際に使用した楽器などが飾られていたりして、まさに特別な空間。ロック好きはそれだけで何杯もお酒が飲めるのです。
「あの頃」「あの時代」という共通言語から始まる、語り合いたい思い出や体験は誰しもが持っていて、それだけで会話が盛り上がるというわけです。当然、そこにはビジネスチャンスもあるでしょう。
こうした「あの頃ビジネス」が盛り上がった結果、1つの行き着く場所となっているのが、「Amazon Echo」です。
「Amazon Echo」はAmazonから発売されているスマートスピーカー。Amazonが提供している「Prime Music」や「Music Unlimited」といった聴き放題サービスを利用して、昔の曲が定額でたっぷり聴くことができます。
スマートスピーカーですから、音楽の好みを学習し、利用者が好きそうな懐かしい曲を紹介してくれたりする機能もあります。そうやって集まった情報によってどんどんパーソナライズされ、自分だけの「懐かしい」セットリストが完成していくのです。
ただ、非常によくできたサービスだと感じるのは、実は全曲が無料で聴けるわけではなかったりする点です。「久しぶりにあの曲も聴きたいな」と思って調べてみたら、実は数曲だけ有料になっていたりするわけですね。それを勢いで買わせてしまう“うまさ”があり、非常によくできたビジネスだなあと、思わず感心してしまいます。
SNSでつながった世代が支える「あの頃ビジネス」
今後、高齢化社会が進めば、「昔親しんだ懐かしいものを再び手に入れたい」という需要は増えていくと思われます。その点で、「あの頃ビジネス」というのは非常にチャンスを秘めた分野だと思います。
中でも注目したいのが、SNSでつながっているこれからの世代です。自分自身はそれほど興味がないことであっても、今回のQUEENのリバイバルのように、周囲の盛り上がりに影響を受け、ついつい一緒に輪に入ってしまうようなことが大いにあり得るからです。
今の高齢者にはまだまだビジネスチャンスが薄かったとしても、すでにYouTubeやLINEなどで日々色々な情報とつながっている人たちこそ、実は新しいリバイバルビジネスの対象になりやすいことを、映画『ボヘミアン・ラプソディ』は教えてくれたような気がします。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは、「主人公の苦悩や葛藤の数々が最後に歌われる音楽の歌詞と連動している」でした。ちなみに、実際の「ライブ・エイド」では6曲が演奏され、映画ではそのうちの4曲が演奏されています。しかし、実は6曲全曲が撮影されているとの情報もあるので、もしかしたらそのうち完全版が見られるかもしれませんね。これもまた、いい商売になりそうです(笑)
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博