起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
●経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第19回・10年後の自動車
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
回転寿司業界では、4強と言われる「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」「かっぱ寿司」がしのぎを削っています。食べ放題サービスをスタートさせた、なんていうニュースが話題になったのも記憶に新しいところです。
そんな回転寿司業界の中で、新たな動きがあります。といっても、新しいサービスやメニューの話ではありません。そこで活躍している「スタッフ」の話です。
今や「スシロー」と並び、多くの来店客で溢れている「はま寿司」が最近雇った店員が、すごく評判が良いともっぱらの噂です。気になって私もお店を利用したのですが、彼のおかげで、受付で長い時間待たされることなくスムーズに着席し食事をすることができました。
それでは解説します!
人気の「はま寿司」では、予約して行ったとしても、お店が忙しすぎるあまりに店員がなかなか客対応できていないケースがあったようです。そのせいで、予約の時間になってもしばらくは受付で待たされる、なんてことも少なくなかったといいます。
しかし、最近新たに雇い入れたスタッフは非常に優秀で、どんな時でもてきぱきと客対応し、混雑時であってもスムーズにお客を席まで案内しているといいます。
その店員とは、「ロボットのPepper」です。
予約の時間に自分の番号を告げると、「ご来店ありがとうございました、1番のテーブルに行ってください」などと対応してくれます。「今の受付は何番ですか?」と聞けば、即座にあと何組で自分の番号になるかを教えてくれたりするわけです。おかげで、従来のスタッフは受付の仕事に割く時間が減り、他の業務に専念できます。
Pepperはロボットですが、足がないので大して動けません。手はありますが何かを持てるわけでもなく、物を運んでくれるわけでもありません。ロボットとしてはプリミティブなものかと思いきや、実は「しゃべれる人工知能」なんです。そう考えれば、言葉を使って頭で処理していくような仕事は、基本的にPepperに任せることができるというわけです。
色々考えられる、Pepperの使い方
現状では、小売業も含め、Pepperを雇い入れているところはまだそれほど多くありません。「はま寿司」のようなお店は少数派ですが、今後はこうしたお店・企業は間違いなく増えるでしょう。せっかくなのでどんな使い方ができそうか、考えてみたいと思います。
真っ先に浮かぶのは、最近多くなってきましたが、企業の受付です。私はオスカープロモーションに所属しているのですが、その受付にもPepperがいて、多くの来客をてきぱきとさばいています。
人が受付対応をする場合、名前を聞いたら訪問先に電話をして取り次ぎ、場所を案内してくれるわけですが、どうしてもそれなりの時間を要します。しかしPepperなら訪問客が名乗った瞬間にメールなどを飛ばして来客があったことを連絡してくれるので、対応がものすごく早いのです。
他にも、たとえば2020年に向けて外国人訪日客が増えると予測されますが、彼らに対するボランティアスタッフとしての活用もできそうです。いろいろな国の言語をインストールしておけば、相手に合わせて使い分けることが可能でしょう。現在の性能でもそうした使用は十分可能なのかもしれませんが、今後さらに開発が進めば、街中でかなりの戦力になりそうです。
もう1つ期待できそうなのは、これは近未来の話になりそうですが、介護の現場です。既に実用化されている「介護用ロボット」と同様のことがPepperにできるかというと正直厳しいとは思いますが、「話し相手」なら十分に可能でしょう。話し相手を求めている高齢者は多いですし、ヘルパーさんの仕事の多くの時間もそこに費やされているといいます。
もしPepperが高齢者ひとりに1台いれば、ヘルパーさんは介助の仕事に専念できるようになりますし、Pepperとの分業で介護士が同時に10人くらいの高齢者の相手をすることだってできそうです。そしてその方が介護の現場の満足度は上がるかもしれませんね。
アルバイト・パートを雇う感覚で、ロボットを導入する時代が来る!?
ロボットとしては一見不完全に見えるPepperですが、人工知能だけで考えたら、既に性能がいいうえに、今後も性能はどんどん上がっていくのは間違いありません。
調べてみると、本体価格と基本プラン、保険料などをあわせて、月々1万5600円でPepper君を一台導入することができるようです(2017年12月現在)。毎月1万5600円払ってアルバイトを雇うのと同じわけですから、安価な労働力として今後期待が高まるかもしれません。
それだけでなく、他店との差別化を図ったり、お客の関心を集めるといった意味でも、導入するお店は今後も増えるはずです。ぜひ、あなたも自分の仕事でPepper君の導入を検討してみてはいかがでしょうか。値段を考えても、使い方次第で独立開業しようという人にとっても戦力となるかもしれませんよ。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「Pepper(ロボット)」でした。現在はどのPepperも同じ声ですが、そのうち数が増えてきたら、声や話し方が違うなどの個性を持つ個体も出てくるかもしれませんね。それはそれで楽しそうです。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博