起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第155回・オフィスの空調は何度がベストか
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
今年の8月26日に新たな路面電車「宇都宮ライトレール」が開業しました。
正確にいうと、路面電車を進化させたLRT(Light Rail Transit)と呼ばれるもので、すでに海外では新しい公共交通手段の1つとして導入が進み始めているそうです。
国内では、2006年にJR富山港線が富山ライトレールに転換された例はありましたが、新設となると75年ぶりとのこと。新たな輸送手段として、数々の自治体が注目しているようです。
それでは解説します!
宇都宮ライトレールが新設された背景にあるのは、渋滞の解消です。ライトレールが走る宇都宮駅の東側には工業団地があるのですが、鉄道空白地帯であるため車以外の移動手段がなく、特に通勤時間帯は車でごった返すのだとか。
鉄道が通っていない場所における輸送手段として真っ先に浮かぶのは公共のバスですが、この宇都宮のケースではバスではなく、ライトレールが選ばれています。
それはすごく単純な話で、道が混んでいるため、バスもその渋滞に飲まれてしまうからです。当然ながらすでにバスも走っており、そのバスも渋滞に巻き込まれているため、役目をうまく果たせていません。そこで新たな手段として導入されたのが、既存の道路を活用した路面電車での人の輸送だったというわけですね。
考え方としては、ライトレールである程度目的地に近いところまで行き、行った先の駅が新たなバスターミナルになっているため、そこから枝葉に広がるバスなどの手段を活用して目的地に向かうのです。
つまり、ライトレールを使えば渋滞に巻き込まれることなく移動でき、遠くであってもスムーズに移動できます。それによって車を使う人が減れば、渋滞の解消にもなるというわけですね。
よく考えてみたら、東京などの大都市ではこのライトレールのような役割を、網目のように張り巡らされた地下鉄や私鉄が果たしていることがわかると思います。ターミナル駅から地下鉄などで移動し、下車した駅を起点に車やバスなどで移動する。宇都宮のケースはそれと全く一緒の構造です。
なぜ東京で都電がなくなっていったのかも、これでよく分かりますよね。
30年以上前、名古屋市は別の方法で渋滞解消を実現していた
宇都宮とよく似たケースに対して、全く別の解答を出したのが名古屋市の例です。
朝と夕方の渋滞を解消するために名古屋市が何をやったのかというと、道路にバス専用レーンを作ったのです。
1985年に始まった「中央走行方式基幹バスレーン」というシステムがそれです。
平日の7時から9時と17時から19時はバスしか走ってはいけないレーンを作ることで、バスは渋滞をよそにすいすいと進むようになり、「それだったらバスで通勤しよう」という人が増えたのだそうです。自家用車で通勤する人が減ったことで、宇都宮と同じく渋滞が解消されたわけですね。
名古屋市の場合は、当時すでに私鉄や地下鉄が通っていました。ただ、街が急速に発展したことから、路線拡大が追いつかなかったそうです。
しかも名古屋市の交通局は経営が厳しかったらしく、「お金をかけずにできる工夫」として、バス専用レーンというアイデアに辿り着いたのだといわれています。
何かが滞った時のとっておきの解決策とは?
今回の話を少し広げて考えてみると、何かが渋滞してしまっている状態というのは非常によくある話ですよね。例えば物流などが分かりやすいですが、会議のアジェンダでもそう。検討することが多すぎて、なかなか会議が先に進まない…なんてことはよくあるでしょう。
そういう時の解決策として有効なのが、ライトレールやバス専用レーンのような「特急レーン」を作ってあげることかもしれません。例えば会議のアジェンダが滞ってしまった時は、特に重要なプロジェクトを社長直轄プロジェクトとし、その案件だけは一気に社長に議題が届くようにする、といった解決策が考えられます。
何かが滞ってしまい困った時には、宇都宮ライトレールの話を思い出し、似たような解決策がないか考えてみるのは一つの方法かもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「道が渋滞しているのでバスも渋滞してしまい解決にならないから」でした。ちなみに、ライトレールは既存の道路にレールを敷けるため工事費用を抑えることができ、コスト面でも注目が集まっているようです。バリアフリーで誰でも利用しやすいことから、今後はいろんな場所での導入が増えていくかもしれません。ぜひ注目してみてくださいね。
構成:志村 江