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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第155回・オフィスの空調は何度がベストか

独立ノウハウ・お役立ち

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

アメリカのファンドが日本のある企業に投資をしようと検討していた際に、実際にあったエピソードです。ファンドの担当者が、社内の空調を何度に設定しているかを確認したところ、会社の担当者は「政府が奨励している28℃です」と答えました。するとファンド側は「うちが出資する時の条件として、その温度は変えてもらう」と要望を突きつけたそうですが、さて、一体何度にするといったのでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

毎日暑い日が続きますね。これは日本に限った話ではなく、先日は国連の事務総長が「地球温暖化は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と話したことが話題となりました。

冷房を入れないと命の危険に関わる一方で、一部のオフィスビルでは、受付などの共用スペースはあまり冷やさないところも多くなっているようです。これはおそらくコスト面の問題や、地球環境に配慮したecoの観点からではないでしょうか。

それでは解説します!

さて、今回のテーマはオフィスの空調を何度にするかという話ですが、先にお伝えしておくと、大事なのは「何度であるか」ではありません。

先に答えをお伝えすると、ファンドの担当者は「21℃にしなさい」といったそうです。

その人がいうには、シリコンバレーの多くの企業がオフィスの温度をそのくらいに設定しているとのこと。投資をするかもしれない企業のビジネスにおける生産性を第一に考えた場合、もっとも質の高いアウトプットを出せるのが21℃だと判断し、それを要求したわけですね。

日本の場合、環境省が地球温暖化対策のために「冷房時の室温は28℃に」と呼びかけをしています。もちろんそれはとても大事なことですが、「だからといってどこも一律で同じでいいわけがない」というのがファンドの担当者の意見なのでしょう。

確かに働く環境や仕事内容によって違ってくるのは当然であり、例えば工場と倉庫と店舗における最適な温度はバラバラでしょう。そして実際に、夏場でもたくさんのお客さんを集めないといけないショッピングモールなどは、28℃どころか、もっともっと涼しくしていますよね。

つまり、生産性や働く環境づくりを大事にするのであれば、ただ一律に従うのではなく、最適化できる方法を考えないといけないということです。

そして、従業員の頭の使い方次第で業績が大きく変わる企業などでは、「温度を一律28℃に設定しているなら投資しない」と考えるファンドも実際にあるんだ、ということですね。

地方に移転したことで採用しやすくなった企業

職場の生産性について考える場合、大事なのは室内の温度だけではありませんよね。

よくあるのが、「集中タイム」をもうけている会社です。例えば「この2時間は会話もなし、電話もとらない」などと決めて、目の前の仕事に全員が集中するような時間をつくるわけですね。話すときは話す、でもどこかで集中する時間をつくる、というように、時間的な部分でメリハリをつけられるようにするのは一つの解決策かもしれません。

最近だと、新型コロナウイルスの影響でオンラインでの商談が増えたことから、クライアントと会話がしやすい1人部屋のような空間を社内につくる会社が増えました。また、オフィス内の騒音が聞こえにくくなるようにサウンドマスキングなどの防音対策を行う企業もあるようです。

あと、ちょっと面白い話では、地ビールを造っている会社が東京から山梨に移転したところ、採用がしやすくなったという事例があります。地元での雇用が増えたからではなく、例えば外国人などが「ここで働きたい」とわざわざ応募してくるのだとか。

この話の何がポイントなのかというと、「日本の山梨という自然にあふれた環境でビールを作りたい」と思う人が増えたということです。

クラフトビールを造りたいと思うような人は、都心での生活ではないライフスタイルを求めることが多く、それが一致した瞬間に採用がすごく楽になった…というわけですね。これも1つの、企業の生産性向上の事例といえるでしょう。

自社の従業員が最も力を発揮できる条件とは?

生産性について考えることは、従業員がどうすれば働きやすいかを考えるということです。

確かに、政府の呼びかけを守ることやコストの問題を重視することは大事ではありますが、だからといってただ一律で決めてしまうのは、働く人たちのことを第一に考えた場合には、ちょっと違うのかもしれませんね。

最低賃金全国一律制など、賃金や手当についてもわかりやすい取り決めや指標があるのは事実です。ただ、「うちの会社の場合はどういう条件だと人材が一番力を発揮してくれるのだろうか」と考え、そのために工夫するところにこそ、企業が成長するための大事な視点があることは忘れないようにしたいですよね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「21℃」でした。ちなみに、オフィス近くにどんなコンビニエンスストアやコーヒーショップがあるかも、実は生産性に関わる部分だったりしますよね。他のチェーンを求めて少し遠くまで足を運ぶとしたら、それだけ時間を奪われることになるからです。なかなか従業員全員が全てに満足できる環境をつくるのは難しいとは思いますが、経営者はいろんなことに目を向けて、戦略的に考えなくてはいけないということですね。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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