起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第113回・新しい自動販売機
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
今回は自動車ディーラーの人から実際に聞いた話から、クイズを出題してみました。
新車を購入する場合、カーナビも一緒に買う人は多いでしょう。購入したカーナビは、自動車メーカーか購入したディーラーが取り付けてから納車されるのが通常です。
しかし、先日行ったディーラーでは、売れ残っていると思われるカーナビの箱が店内に積み上がっていました。あまり見かけない光景で気になったため聞いてみたところ、ちょっと困った事態が起こっているのだそうです。
それでは解説します!
新型コロナウイルスの影響で、いろいろなサプライチェーンが狂ってしまいました。その原因の1つが「半導体不足」です。半導体が足りないため、あちこちでものが作れなくなっています。それは自動車だけでなく、カーナビも同様です。
半導体不足によって自動車の製造が追いつかず、納車が遅れてしまっています。一方、その自動車に搭載するためのカーナビも半導体不足で生産が追いついていないため、予定通り納品ができてない状況だそうです。
そうなると、先に自動車が届いた場合は「カーナビは届き次第、後から取り付ける」という約束で購入者と話をしているのだとか。
そういうわけで、ディーラーには届いたたくさんのカーナビの在庫があったというわけですね。これが1つ目の答えです。
さて、ここで新たな問題が出てきました。カーナビが無事にメーカーから届いたので自動車の購入者に連絡をすると、「やっぱりカーナビはつけなくていい」と言われることが増えているのだそうです。
それはなぜか。実は、最近のほとんどの自動車はUSBケーブルなどでスマホをつなげることができ、スマホの画面を自動車内の液晶モニターに映すことができる機能があるのだとか。
つまり、自分のスマホの地図アプリをカーナビのように便利に使えることから、「カーナビがなくても問題ない」と考えた人がたくさんいたということです。
その背景には、ディーラーが納車の際に、「カーナビが届くまでは、この機能を使えばカーナビのかわりになりますよ」と説明したことで、「何だ、こんな便利な機能があるんじゃないか!」と多くの人が気づいたわけです。
言い換えれば、実はカーナビがいらなくなるような機能が、当たり前に実装されていたわけです。そして、それが思わぬ形で判明した…というわけですね。
知らなかっただけで、使ってみたら便利だった!
今回の話が一体何の話かというと、実はデジタルトランスフォーメーション(DX)の本質につながる話なのです。
1つ目のポイントは、DXによっていろいろと新しいことができるようになっていますが、そのカギとなっているのが「スマホ」だということです。
多くの人がスマホを持っているので、「スマホを使えばこんな便利なことができる」という文脈でDXが広まっています。実際、スマホ1つあればウェブ会議に参加することだってできますし、スマホのアプリを使えばお店のスタンプやポイントだって簡単に貯められます。
つまり、DXが進んでいくにつれて「スマホがあるから今まで当たり前のように買っていたものも買わなくても良くなる(使っていたものを使わなくて良くなる)」という変化が起こり始めているわけですね。
2つ目のポイントは、自動車に搭載されていたスマホ画面を表示させる機能のように、すでに便利なものがあったにもかかわらず、「使ってみないと良さがわからないため普及していないものがあった」ということです。
これもウェブ会議が分かりやすい例で、新型コロナウイルスの影響がなければ、みんなここまで「Zoom」を使わなかったかもしれません。最初はどちらかというと「使わざるを得なかったので使ってみた」はずが、便利だったのでみんなが積極的に使い始めるようになりました。以前からあったものなのに、その便利さに多くの人は気づいてなかったわけですね。
DXを進めるためのヒントがある!?
というわけで、今回は半導体不足から起こった1つのエピソードを紹介しました。
よく考えると、この話は「DXが進められていない」とお嘆きの会社にとっては、1つ含蓄のある話なのかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「半導体不足」と「カーナビのかわりに使える便利な機能が実はあったから」でした。ちなみに、私がディーラーで見たカーナビは1台6万9000円でしたが、その値段なら新しいスマホが一台買えるなあ……と思ってしまいました(笑)
構成:志村 江