業務中にケガや病気になった際に、その治療費や給付が保障される、労災保険。
しばしば耳にする制度ですが、それは会社員のみが使える制度。
残念ながら独立・起業、フリーランスの人は利用しづらい制度だったのですが、2021年に労災の「特別加入制度」が拡大され、さまざまな業界で働くフリーランスも保障の対象となりました。
今回、やさしいお金の専門家・横川楓さんにお話を伺ったのは、そんな労災の「特別加入制度」について。
労災の基本的な仕組みから、フリーランスが加入できる「特別加入制度」について、メリットや注意点などを伺いました。
横川楓さん
やさしいお金の専門家・金融教育活動家
一般社団法人日本金融教育推進協会 代表理事
明治大学法学部卒、その後同大学院へ進学。
24歳で経営学修士(MBA)を取得。
実家は会計事務所を経営。
同年代の友人たちのお金に対する意識と、将来の資産形成、所得格差、年金問題、増税など、これからの日本を担う世代に振りかかるさまざまなお金の問題との乖離に疑問を持ち、お金の知識の啓蒙活動を開始。
ファイナンシャルプランナー(AFP)や、SDGs検定、マネーマネジメント検定等の資格を取得し、2022年1月に一般社団法人日本金融教育推進協会を設立。
同法人の代表理事を務める。
横川さんのインタビュー記事はこちらから!
「収入=給与」に縛られない。経済評論家・横川楓さんに聞く、独立・起業に必要な2つの条件
庵(いおり)
イラストレーター
都内に住む27歳のフリーランスイラストレーター。
学生時代から絵を描くことが好きで、数年前から副業としてイラストレーターの仕事を受けるようになった。
近年は副業での収入が本業の稼ぎより多くなったことから、独立を決意する。
会社員だけじゃなく、フリーランスも労災加入が認められた? 労災保険の基礎

さて、今回のテーマは労災保険(以下、労災)について。
庵ちゃんは、労災ってなんだか知ってる?

よく「労災」って言われる制度ですよね?仕事中にケガとか病気とかしたらお金がもらえるっていう……。でも労災の対象って、会社員だけなんじゃないんですか?

そう、でも最近は労災に加入できるフリーランスの人も増えてきているんだ。
まずは労災の基礎について学んでいこう。
労災というのは、通勤中や仕事中に、ケガや障害、死亡などがあった場合に、治療費や休業期間の給付金、障害が残った場合の給付金や死亡した場合に遺族へ給付を行うという制度のこと。
参考:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/pamphlet_faq.html

会社員なら会社が加入しているんだけど、残念ながらフリーランスは原則対象外。
一部例外で、個人タクシーや配送業者など、一定の条件を満たす人は労災保険加入が認められていたんだ。
これを労災の「特別加入制度」というんだけど、今は上記以外の職業の人も「特別加入制度」の適用内になってきているよ。
フリーランス必見! 労災の「特別加入制度」を解説

新しい「特別加入制度」について、詳しく教えてください!

2021年に新しく「特別加入制度」に適用されたのが、ITフリーランスや、自転車を使用して貨物運送事業を行う者、芸能関係作業従事者、アニメーション制作事業者、柔道整復などの職業のフリーランサーなんだ。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu_r3.4.1_00001.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/kanyu_r3.4.1.html

業界も職種もかなり幅広いんですね……!

そうだね。
例えば「ITフリーランス」と一口に言っても、システムエンジニアやプログラマーから、プロジェクトマネージャー、デザイナー、Webディレクターなど包括される仕事の内容は本当に幅広いんだ。
芸能関係作業従事者も同様に、俳優や歌手だけでなく、マネージャーや照明、美術、メイク、衣装といった裏方の仕事も「特別加入制度」に含まれているよ。
フリーランスの人は、自分の仕事が「特別加入制度」に含まれているかどうか、確認してみよう。

フリーランスの人が労災の「特別加入制度」に入る場合、どのような手続きが必要なのでしょうか?

実は労災は、普通の保険と違って、個人で加入することができなくて…。。
自分が働いている業界の中で入ることができる団体の団体員になることで、初めて労災に加入することができるんだ。

会社員は自動的に労災に加入するのに対して、フリーランスは自分で加入しなければならないんですね。

加えて、会社員だと保険料は会社が負担してくれるんだけど、フリーランスの労災の場合は、保険料を自分で支払わなきゃいけないんだよね。
労災の「特別加入制度」でフリーランスの人も労災に加入できるとはいえど、この点に関しては会社員の人と大きく異なるポイントだから、注意が必要だよ。
そして保険料や団体の入会金や会費などは、団体によっても金額が異なってくるから、事前にリサーチしておこう。
これは民間の医療保険のように、各団体の資料を取り寄せて、自分に合った団体やプラン、オプションを選ぶといいと思うよ!
医療保険と労災の「特別加入制度」の比較。しかし注意点も?

自分で団体を見つけて、手続きをしなければいけないという煩雑さはありますが、やはり労災の「特別加入制度」は活用するべきでしょうか?

そうだね。
フリーランスの人は、自分がケガや病気をした時の保障が全くないと言っても過言ではないから、この労災の「特別加入制度」は魅力的な制度なんじゃないかな。
例えば、一般的な医療保険は「入院」や「手術」をしないと保険金がおりなかったりするんだけど、労災の「特別加入制度」なら「入院」や「手術」はもちろん、ケガや病気をした時の治療代から請求できる。
きちんと保障の対象となっていれば、身体的なケガや病気はもちろん、うつ病といったメンタル的な病気も対象となる可能性もある。
まぁもちろん“労災”である以上「業務中に起こってしまったケガや病気」には、限定されてしまうんだけどね。

逆に注意点はありますか?

さっきも言った通り、加入する団体は自分で選んで、自分で労災に加入をしなければいけないから、その点は注意が必要かな。
あとは大前提だけど、全てのフリーランサーに労災の「特別加入制度」の加入が認められているわけじゃないから、そこも注意だね。
まずは自分の業界について調べてみて、その上でどんな団体があるのかについても調べてみる。
医療保険と同じく、よく比較検討をした上で、自分に合った団体に加入してみることをおすすめするよ。

横川先生、本日もありがとうございました!
構成・文・撮影=内藤 祐介
イラスト=ram