起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第131回・お得なキャンペーンの裏側
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
中古自動車の業界で日本の「旧車」がブームになっています。少し前までは買取価格もタダ同然で、動くものであっても十数万程度で買い取ってもらえるのがやっとでした。
それが思わぬ形でブームとなり、値段が急激に高騰しています。ものによっては買取価格が300万円とか500万円程度に設定されていて、業者向けに行われるオートオークションでは数千万円で取り引きされた車もあるそうです。いかに需要が高いかが分かりますよね。
ちなみに旧車とは、数十年前に生産された自動車のことです。特に値上がりしているのが、トヨタの「スープラ」や日産の「スカイライン」といった名車です。「懐かしい!」と思った方も多いのではないでしょうか。
それでは解説します!
旧車を何百万円も出して購入する人は一体誰なのか。これだけの大金をポンと出すのは日本人ではなくて、実はアメリカ人なのです。
それには2つ理由があります。
1つ目が、映画「ワイルド・スピード」シリーズの大ヒットです。この映画には90年代の日本のスポーツ仕様の一般車がたくさん出てくるのですが、映画の人気が高まるにつれ、登場する自動車にも注目が集まるようになりました。「有名なキャラクターが乗っているあの車に自分も乗りたい」という人が続出し、90年代の日本車をほしがるアメリカ人が増えているのです。
2つ目は知らない人にはちょっと難しい話なのですが、アメリカには「25年ルール」というものがあります。これは何かというと、アメリカは交通規制があり、右ハンドルの車を公道で運転してはいけないことになっています。
しかし例外があって、発売から25年を過ぎた車は「クラシックカー」の扱いとなり、運転や販売が自由に行えるようになるのです。つまり90年台の日本車の多くが、最近になってようやく自由に販売できるようになったのです。
25年を過ぎた車でちゃんと動く車は、当然ながらたくさんあるわけではなく、アメリカ国内だけでもブームを賄うには足りません。結果、日本のものが高値で買い取られるようになり、争奪戦が繰り広げられている…というわけですね。
レストアの事業化に力を入れ始めたディーラーも
昔から、一定数は旧車を長く愛用する人がいます。女優の伊藤かずえさんがずっと愛用しているシーマをレストア(修理)したことが話題になったりしましたが、まさにああいう方々の時代が来たのかもしれません。
国内でも、「昔ほしかったのにお金がなくて買えなかった」という理由から、レストアした旧車を数百万円出して買う人たちは少なくありません。まさに私がその世代のど真ん中なので、気持ちはよく分かります。
そうしたニーズを受けてなのか、最近はメーカーやディーラーが本格的に旧車のレストアを事業化し始めています。彼らは当然、新車を売る方に力を入れますし、直せる人がいないとか部品が調達できないなどの理由から、古い車の修理にはそれほど力を入れてなかったそうです。事業化が進むということは、それだけ需要が増えているということなのでしょう。
エンジニアの中には、「古いものを復活させたい」というチャレンジ精神を持つ人も多いかもしれません。事業化することで会社として技術力が上がりますし、きちんと使えるように直すことで、利用者から信頼を得ることにもつながるはずです。
今後、電気自動車が当たり前に普及すれば、いつの日かガソリン自動車の新発売は禁止となるでしょう。一方で、ガソリン自動車を根強く求める声はそう簡単にはなくならないでしょうから、中古価格は上がっていくのかもしれません。そして、その時にはレストアできる技術力も貴重なものになっているのでしょうね。
いつの時代もある「ビンテージ人気」
「ビンテージ」への需要は、どのジャンルにおいても一定数あるものです。とはいえ、ここまで「お宝」になるものはそんなにないのが現実です。
今回のように、ビンテージに「海外」や「映画」といったもとが掛け合わさったことで、思わぬ人気や価格の高騰が起こることもあるんだな…と気づかされ、非常に面白い事例だなあと感じました。
「こんなこともあるんだな」と頭に入れておくと、ひょっとしたらお宝ビジネスは面白いことが起こるかもしれませんね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「(映画『ワイルド・スピード』好きの)アメリカ人」でした。ちなみに、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に出てくる「デロリアン」を自作したいという人たちによって旧車がブームになったこともありました。映画の力、恐るべし、なのかもしれません。
構成:志村 江