起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第103回・DXのキホン
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
新型コロナウイルスの影響で、あらゆる業態の多くのお店が閉店せざるを得ない状況に追い込まれています。そのせいで、繁華街を中心に街並みも大きく変わり始めています。
それとは別の話で、ある業態のお店が2022年7月頃から続々とシャッターを閉めていくだろうといわれています。これはコロナとは関係なく、「時代の流れ」というべきものかもしれません。
街でよく見かける、みなさんも使ったことがあると思われるお店です。さて、何だと思いますか?
それでは解説します!
ノーヒントだと難しいかもしれないので、1つヒントを出しましょう。
東京都心部では、主に新宿や新橋に多いお店です。もちろんターミナル駅である渋谷や池袋、東京などの駅でもよく見かけます。地方都市でも、新幹線や特急が停まるような駅の駅前や、多くの人でにぎわう繁華街ではよく見かけるお店です。
分かりましたか?正解は「金券ショップ」です。
ではもう1つクイズを出しますね。その理由はなぜでしょうか?
今回のポイントは、すでに「2022年7月」とスケジュールが決まっていることです。実は、JRの新幹線の回数券が販売終了するのです。
JR東日本は自由席タイプの回数券を今年3月、指定席タイプの回数券を6月末に、すでに販売終了しています。さらにJR東海も東海道新幹線の主要区間の回数券を2022年3月いっぱいで販売終了する予定です。
回数券の有効期限は3カ月ですから、2022年6月末までにすべての新幹線回数券が金券ショップから消えることになります。金券ショップにおける新幹線回数券の売り上げは3割から5割ほどを占めているといわれますから、間違いなく大打撃です。
考えてみると、デジタルトランスフォーメーション(DX)が進むことで、電車の切符や回数券は電子化されてスマホで使える便利なものに置き換わっています。金券ショップのその他の主力商品である映画チケットや株主優待券なども、今後は間違いなく電子化され、転売されにくいものに変わっていくでしょう。
つまり、新幹線回数券が販売できなくなったからといって他の商品に切り替えようとしても、長続きする可能性は限りなく低いのです。
となると、来年の7月頃から街に並ぶ金券ショップの多くが存続の危機に立たされるだろうと予測できるわけです。
携帯ショップも、銀行も、オフィスも
私のようなコンサルタントは、「未来がどう変わるか」ばかりに注目していますので、こうした世の中の動きには敏感です。それでいうと、なくなっていくお店は金券ショップに限りません。
例えば、街中でたくさん見かける携帯ショップも、ゆくゆくは消えていくと考えられます。すでに「ahamo」などで取り入れられていますが、オンラインで便利に機種変更や各種の手続きをすることができるようになっています。今後は、今ほど店舗数は必要なくなるでしょう。
他にも、パソコンやスマホで簡単に振り込みや残高照会ができるようになることで、銀行のATMも減っていくでしょう。それにともなって支店の統廃合なども進んでおり、銀行の窓口そのものも数を減らすと思われます。
昨今の新型コロナウイルスによる影響の流れでいえば、オフィスは縮小傾向にありますよね。今後オフィスビルなども減っていくでしょう。
そんなふうに1つずつ考えていくと、今当たり前にある店舗やスペースがどんどんなくなっていき、最後は全部なくなってしまうのではないかと思えてならないのです。
出店場所を考える際は、まずは未来予測を
このように未来予測をしてみると、最終的に都心の駅前や繁華街には一体何が残るのでしょうか。間違いなくいえるのは、今回取り上げたようなお店から順番にシャッターが下りていき、姿を消していく…そんな未来がやってくるだろうということです。
未来を予測するのは簡単なことではありませんが、出店場所などを考える際は、その地域の先々のことまでしっかり考えたうえで検討しないと、なかなかビジネスは成り立ちにくくなっています。ぜひみなさんもいろいろな情報に触れながら、未来予測をしてみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「金券ショップ」でした。東京に住んでいる人なら分かると思いますが、新橋駅前のビルや新宿駅西口などの金券ショップが立ち並ぶエリアは、来年の7月以降はどんな景色になるのでしょうか。注目してみてください。
構成:志村 江