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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第67回・高く積み上がったゴミ

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第67回・高く積み上がったゴミ

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

私の仕事場のマンションでは、設置されたゴミ置き場の中にゴミを捨てるのがルールでした。しかし、1年ほど前からゴミがゴミ置き場の前に山積みにされるようになってしまったのです。しかも、中には分別されていないゴミもたくさん混ざっています。さて、どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

※今回のクイズは「推理もの」です。この後、何でそうなったのかを順序立てて話していきますので、答えを考えながら読み進めてみてください。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

今回の戦略思考を鍛えるためのクイズの舞台は、私が仕事場として使っている都内のマンションのゴミ捨て場です。

本来は施錠されたゴミ置き場の中に、ゴミを分別して捨てるのが当たり前でした。しかし、ある時期から、ゴミ置き場の扉の前にゴミが山積みにされるようになってしまったのです。しかも、紙ゴミと空き缶がスーパーの袋の中に一緒に捨てられているような有様です。

その状況を見かねた管理組合は、ゴミ収集日の前日にアルバイトを雇うようになりました。ちゃんと回収してもらえるよう、彼らにゴミの分別作業をさせるわけです。

つまり、マンション側からしたらコストが増えてしまっているわけですね。何が原因で、こんなことになってしまったのでしょうか。そしてどのタイミングで手を打てば、こんなことにならなかったのでしょうか。

それでは解説します!

ゴミがうず高く積まれるようになる少し前に、予兆があったのです。それは何か。マンションに出入りする外国人が増えてきたのです。

彼らは、やたらと大きなトランクを持ってやって来ます。そして何日かするといなくなり、新しい外国人がまたやってきます。そう、勘が良い人は分かったと思います。民泊です。

ただし、うちのマンションは管理組合が民泊を認めていません。管理組合の了承がなければ国に届けることができないため、この部屋は違法民泊を行っているということになります。様子を伺ってみると、どうやら2部屋ほどが民泊に使われているようです。

その部屋を利用する外国人たちは、どうやら部屋の出入りでは鍵を使っていません。鍵がなくても部屋に出入りする方法があるようです。となると、部屋の出入りはできたとしても、鍵を持っていないのでゴミ置き場の扉を開けることはできません。

ですから、ゴミを扉の前にポンと捨てて、チェックアウトしていくわけです。

最初は、気がついた人がゴミ置き場の中に移したりしていました。しかし、民泊を利用する外国人の多くは、日本のゴミの分別のルールなど知りません。燃えるゴミも、燃えないゴミも、ビンも缶もごちゃごちゃです。それをわざわざ分別する人もいなくなり、そのまま回収もされずに放置されるようになりました。

そうやってゴミが扉の前に当たり前にあるようになると、その方が楽なので住民たちも扉の前に置くようになっていきました。そして、気がついたら無法地帯に。ゴミが山積みとなり、分別する人をわざわざ雇わなくてはいけないような事態にまでなったのです。

些細なことを放置し続けた結果、取り返しのつかないことに

さて、このゴミ置き場のエピソードですが、実は典型的な「割れ窓理論」の話なんです。

アメリカの心理学者が提唱し、ニューヨークのジュリアーニ市長が実践したことで有名になった理論なので、ご存じの人もいるでしょう。

「割れ窓理論」とは、窓ガラスが割れたままの部屋があると、その建物は十分に管理されていないと思われ、ゴミが不法に捨てられたり、人が勝手に住みついたりするようになり、結果として犯罪が生まれやすくなってその地域の治安が悪くなる、という理論です。この話から、「割れ窓のような小さな不正を正すことで、犯罪の抑制や治安の悪化を防ぐことができる」という意味で使われます。

今回のゴミ捨て場の話は、まさにこの理論が当てはまります。些細な「割れ窓」をそのまま放置し続けたことで、結果的には取り返しのつかない大ごとになってしまったのです。

最初にゴミ捨て場の前にゴミが捨て始められた時に、対処の仕方があったはずです。あるいは、マンションでの民泊は違法だと伝えてやめさせることもできたはずです。なのに、見て見ぬ振りをしてしまった。それにより、問題がどんどん大きくなってしまったのです。

こうした話はよくあります。とあるメーカーの一例を紹介すると、そのメーカーは品質の高さが売りでしたが、あるお店から営業を受けたのを機に、初めて「プライベートブランド」に着手したのです。

それまではクオリティ重視だったところに、「いかにコストを下げて価格を下げるか」というものづくりが入り込み、しかもそれを同じラインでやり続けてしまった。

気がつくと、皆がコストを下げることばかり考えるようになり、その他の商品についても品質が急激に下がってしまったのだそうです。「割れ窓」はばかにできないのです。

あなたの会社に「割れ窓」はない?

こうした「割れ窓理論」の話は、普通に商売をしている人にとっても、他人事ではありません。それどころか大いに参考にできるはずです。

たとえば従業員のちょっとした不正を見逃したり、ちょっとしたミスを放置し続けた結果、気がついた時は問題が大きくなって対処できなくなる…なんてことは十分に起こり得ます。

一度、皆さんの会社やお店の中に「割れ窓」がないか、点検してみてはどうでしょうか。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「早い段階で割れ窓をふさがなかったから」でした。ちなみに、ニューヨーク州の市長だったジュリアーニ氏は、地下鉄の落書きを消すことで、犯罪が減り街の治安を良くしたのだそうです。世界中で「割れ窓理論」がビジネスに活用されていますので、気になる方は調べてみてくださいね。


PROFILE
プロフィール写真

経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(PHPビジネス新書)、『令和を君はどう生きるか』(悟空出版)。

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