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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第59回・6000人の芸人を抱えられた理由

経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第59回・6000人の芸人を抱えられた理由

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

吉本興業と所属芸人の間に契約書が結ばれていなかったことが問題視されてニュースになっていますが、契約書を結ばないことのメリットも当然あると考えられます。私の考えでは3つあるのですが、さて皆さんは何だと思いますか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

ここ最近、テレビでもインターネットでも吉本興業と所属芸人にまつわるニュース一色ですよね。ただその議論の内容がいろんな方向に展開するあまりに、落とし所がよくわからなくなっているような気がします。

今回、その中で取り上げてみたいのが「契約書」の話です。

吉本興業が所属芸人との間に契約書を結んでいなかったことが叩かれており、「だからこういう事態になった」というような話をする向きもあります。

確かにビジネスにおいては契約書を結ぶのが主流なのかもしれませんし、最近は特にこういった書類を重視する傾向があります。しかし、フラットに見ると契約書があることのデメリット、つまり「契約書がないメリット」というのも当然あるわけです。

せっかくなので、吉本のケースを参考に、契約についてちょっと考えてみたいと思います。

それでは解説します!

契約書を結ばないメリットについて考える前に、大前提となる話をしておく必要があります。

それは「契約書がなくても契約は成立する」ということです。一言で言うと「口約束」となるわけですが、「口約束は契約だ」というルールが日本に限らず世界中で認められているのです。

なぜなら「口約束だから破っていい」ということになってしまうと、世の中が成り立たなくなるからです。そのため、口約束は法律用語で「口頭契約」と呼ばれ、守らなくてはいけないものだときちんと決められているわけですね。

この前提を踏まえて、契約書を結ばないメリットを考えていきましょう。

1つ目が「手間」の問題です。契約書の文面を作成し、それに収入印紙を貼って印紙税を払い、手続きのために書面をやり取りして…という作業を考えたら、口頭契約は圧倒的に手間がかかりません。

「大事なことなのに何を言っているんだ」と思う人がいるかもしれませんが、実際問題として普段私たちが契約書をやり取りする場面を考えると、自分の時間も相手の時間も、もちろん会社の時間だって相当この作業に取られているわけですよね。効率化が進む社会においてこの視点は結構大事だと思うのです。

吉本興業が芸人と契約書を結ぶ方向に変えるかもしれない、という報道もありますが、所属する約6000人と契約手続きをするならば、そこにかかる手間は相当なものでしょう。お金に換算しても、ものすごい金額になるはずです。じゃあそのお金はどこから出るのかというと、芸人さんのギャラからです。間違っても、岡本社長のポケットマネーから出る訳ではありません。

つまり、ゆるく口頭契約で済ませられれば、お互いにコストが下げられるというわけなんです。

契約書の縛りは年々キツくなる!

2つ目のメリットは、「縛り」についてです。契約書がない方が縛られることが少なくなるという話です。

契約書というものは、更新のたびに内容を見直したり、その時々のいろいろな要因を踏まえて追記されたりすることが当然のようにありますが、間違いなく言えるのは「縛りは年々キツくなる」ということです。

これは契約書の法則ともいうべきもので、いろんな条件がついてキツくなることはあっても、逆に緩くなることはまず起こり得ません。吉本興業のケースだと、法律のプロである弁護士がついている会社側が契約書を作成するわけですから、会社側に有利な内容が盛り込まれていくのは目に見えています。結果、結ぶ側からしたら縛りがキツくなっていくわけです。

もし契約書がなければ、何か問題が起こるたびに協議すればいいだけになります。普段からいろいろな縛りを受けなくてすむ、というわけですね。

3つ目は、「エコシステム」の観点の話です。まさに今の吉本興業がそうであるように、コストがかからずに縛りも少ないとなれば、より多くの芸人さんを抱えることができるようになります。

そもそも、会社がコストを減らそうとするのは当然の話です。契約書を結ぶことでいろいろなコストや手間がかかるのであれば、「そもそも6000人も芸人を抱える必要がないよね」という話になるわけです。口頭契約ですんでいたからこそ、6000人も抱えることができていたわけで、エコシステムとしては非常によくできている仕組みだったのです。

今ある仕組みの良さについて考えることも大事

契約書は、ビジネスでは欠かせないものです。皆さんの事業においても様々な場面で必要となることは多いでしょう。

しかし、「世論で叩かれているから」と鵜呑みにするだけでなく、逆に今ある仕組みの良さが何なのかについてもちゃんと考えておかないと、最終的には自由度のない、縛られた経営を余儀なくされてしまうような、間違った契約システムを作り上げられる可能性だってある訳です。

これを題材に、一度立ち止まって考えてみることも、実は大事なことかもしれません。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「コストが下がる、縛りが緩くなる、たくさんの人を抱えられる」でした。この3つ以外にもあるかもしれませんが、ビジネスの観点からいうとこれらは非常に大事な視点です。ちなみに私は企業のコンプライアンスについて学校で授業を持っていて、今回の吉本興業の話はまさにネタの宝庫でした。他の話についても、機会があれば別で取り上げてみたいと思います。


PROFILE
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経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(PHPビジネス新書)、『令和を君はどう生きるか』(悟空出版)。

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