日本における、中小企業経営者の年齢分布のピークが20年間でどれだけスライドしたかご存知ですか?
中小企業庁の発表によると、1995年には経営者年齢のピークが47歳であったのに対して、2015年には66歳となっており、20年間で大きく高齢化へとスライドしたことがよくわかります。
高年齢の経営者が増えて顕在化してきたのが中小企業経営者の事業承継問題です。
中小企業の存続にも大きな影響を与える事業承継について、近年税制上の優遇措置が創設されましたが、節税ありきで事業承継対策をすると家族のもめごとに発展しかねません。
今回は後継者へと上手にバトンタッチするための事業承継対策を解説します。
参照:中小企業庁「2017年版中小企業白書 概要」
本当の意味での事業承継対策(※後継者問題と相続税)
節税が主目的になってしまうと事業承継はうまくいきません。
事業承継のみならず、相続対策の主な柱としては下記の3つが挙げられます。
1.納税資金対策
2.分割対策
3.節税対策
どれも大切ですがこの順番で考える必要があります。
1.納税資金対策
まずは相続が発生したと仮定して相続税を納めることができるのかを確認しておかなければなりません。
相続税を納めるに足る資金があるかどうかで、その後に検討すべきこと(納税資金の準備や納税猶予の検討)がまったく変わってきます。
2.分割対策
相続税の概算を把握したら、次に決めるべきは“誰が”“何を”相続するかです。
分け方が決まれば、会社の後継者を親族から選ぶのか親族外にするのか、それとも会社を売却するのかなど、その後の流れが決まります。
3.節税対策
相続税の計算構造上、相続財産全体で計算した相続税を財産の取得割合で案分し、それぞれの相続人が支払うべき相続税が決定します。
節税対策が先行すると事業承継がうまくいかない理由がここにあります。
事業承継の全体像が見えないうちに節税を検討してしまうと、もめごとのタネを生んで家族関係にも大きく影響します。
一般的に中小企業の株式の相続税評価額(相続税を計算するために一定のルールに基づいて計算した価額)は会社の業績が良ければ良いほど高額になります。
経営者の子どもが後継者になる場合には、必然的に会社の株式を相続する流れになりますが、そうなると会社の株式を相続する子どもとそれ以外の子どもとの間に不公平感が生まれてしまいます。
それが火種となって家族のもめごとに発展するケースは非常に多いです。
節税を先行してしまうと、目線が後継者のみにいってしまいます。
相続人が一人であれば問題ありませんが、そうではない場合には節税対策は不公平感の生じにくい財産の分け方が決まった後におこなうべきです。
大事なのは後継者を決めること
後継者を決めることは簡単にはいきません。
経営者と後継者候補のお互いの意思が必要となりますが、それでも後継者を決めないと財産の分け方が決まらないので節税のしようがありません。
これは親族内後継者でも親族外後継者でも同じことが言えます。
後継者の意思確認と現経営者の引退についてスケジュールを立てなければなりません。
また、このときに後継者がいない場合は、会社をM&Aで買ってもらうのか会社の清算を検討するのか、という次のステップに進みます。
事業承継税制の特例に適用するか確認する
納税資金の確認をして財産の分け方が決まり、後継者が決まった段階で事業承継税制の特例に適用するか確認しましょう。
会社に関する要件としては「中小企業者に該当するか否か」が重要です。
事業承継税制は適用できる会社の事業や規模が要件として定められています。
後継者に関する要件としては、
「会社の代表権の有無」
「保有する議決権の割合」
「会社の役員であること」
などの細かい要件を満たす必要があります。
事業承継税制はあくまで納税猶予(本来納める必要がある税金を猶予するもの)であって免除ではないので、その猶予してもらう税金に見合った担保が必要です。
また、納税猶予を継続するためには、事業承継に関する計画書を策定し都道府県知事の認定を受け、事業承継後も雇用を維持するなどの努力が求められます。
納税猶予が打ち切りになった場合のことも想定しておきたいところです。
もし認定が取り消されてしまうと本来納めるべき税金にプラスして猶予してもらっていた期間に応じて利子税(税金に対する利子)が課されてしまいます。
事業承継に悩んだ場合の相談先
事業承継は細かい要件などがあり一筋縄ではいきません。
まずは会社をよく知っていて信頼できる顧問税理士に相談しましょう。
顧問税理士での対応が難しい場合には、事業承継に詳しい税理士を紹介してもらうか、事業承継ネットワーク事業に取り組んでいる商工会議所などや地元の支援機関(商工会議所などが運営する「事業引継ぎ支援センター」や「よろず支援拠点」)の活用も検討してみましょう。
まとめ
事業承継は「経営者自身のこと」「会社のこと」「家族のこと」を並行して考える必要があります。
基本的に事業承継は初めての方しかいないので不慣れなことや不安なこともあるでしょう。
節税ありきで事業承継を考えるともめごとに発展してしまう可能性が高まります。
上手に次世代へのバトンタッチをするためには、経営者の気持ちもくみ取ってくれる事業のパートナー(税理士など)にまずは相談してみましょう。
税理士 ジンノユーイチ
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