起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第52回・スマホ決済がなぜ必要か
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
IoTという言葉が広がり始めた頃は、あらゆるモノがインターネットに繋がると、いろんなことが変わり生活が便利になるといわれていたものです。今、身の周りを見回すと、携帯電話やスピーカー、テレビなど、インターネットに繋がったことで進化しているものがないわけではありません。
ただ、あらゆるものにタグがついたりして、リアルで起こることが全てウェブ上で情報管理されるような世界がやってくることを想像していた人はたくさんいたと思います。時間の流れを考えれば今頃はそうなっていてもいいはずなのに、実際はそこまでは実現されていません。
実は、IoTに関していうと、1つ「ミッシングパーツ」があるためにそうした環境が実現できていないといわれています。それが整わないと、想像していたような話が論理的に実現しないのです。
では一体何が足りないのか。それを考えるのが今回のクイズのポイントです。
それでは解説します!
最近よく、「5G」というキーワードを耳にしませんか?「第5世代移動通信システム」のことで、要は最新の通信システム環境のことです。実はIoTにとってのミッシングパーツとは「通信インフラ」なんです。
今の4Gでは設備的にできることが限られていて、コストもかかりすぎるため、モノをインターネットにつなげるには不十分なことが多いといわれています。しかし、4Gから5Gへと世代が進めば、当然今よりも通信速度は速くなり、それによってできることが格段に増えるわけです。
1つの基地局で繋げられる端末数が劇的に増えるので、局地的に大人数が端末を使用しても通信が止まることがなくなるといわれています。また、通信の遅延もなくなるため、「外科医がロボットを遠隔操作して治療する」みたいなことも、ほぼリアルタイムで行えるようになるのです。
この5G、日本では2020年に実用化されることになっています。来年には環境が整うわけですから、想像していたIoTの世界は2020年に入れば少しずつ実現し始めるかもしれません。そう、何事も「タイミング」があるというわけですね。IoTに関しては、2020年が1つの大きな分岐点になりそうです。
ちなみに、アメリカと韓国は2019年、つまり今年から5Gが一足早く実用化される予定なんだとか。日本よりも1年早いのです。
それは裏を返すと、今年のアメリカと韓国の動きを見ておくことで、「5Gを使ってIoTでどんなことができるのか」について先回りでいろんな情報収集ができるということです。ビジネスのヒントを見つけることだって、十分に可能でしょう。
早すぎても、遅すぎても、ダメ
今回のポイントは、何事もタイミングが重要だということです。
ビジネスチャンスを掴むうえでは、変化が「どこ」に起こるのかを嗅ぎ分ける力はもちろん大切です。しかし、その変化が「いつ」起こるのかを見極めることも、同じくらい大事なのです。
たとえば、介護ビジネスが出始めた時もいろいろな企業が参入し投資を始めましたが、早すぎて失敗した人が非常に多かったといいます。
逆に法改正が行われた後のいいタイミングで参入したり、先人たちの失敗を糧に試行錯誤した人などは、うまくいったケースが多かったようです。だからといって慎重になりすぎると、遅すぎておいしいところは持っていかれてしまいます。
未来の話でいえば、TPPもタイミングが重要です。関税の関係で安く仕入れられる商材が増えるといわれ、特に飲食業の未来はTPPで大きく変わると考えられます。
現状はアメリカの動きに振り回されていたりして、いっときに比べれば情報も注目度も下降気味です。しかし、政治の動きをきちんと追っておけば、どのタイミングでどの商材を扱えば恩恵が受けられるのかは、間違いなく見えてくるはずです。
タイミングが計れれば、動きの予測がしやすくなる
介護ビジネスの話をしましたが、「これから高齢化社会がやってくる」というのはほとんどの人が分かっていることでしたよね。それに向けて何かできないかを多くの人が考えるのは当然だからこそ、タイミングがものをいったというわけでもあります。
新聞でもニュースでもいいですが、世の中の動きを見ておくことはやはり重要なのです。タイミングさえ計れれば、事前に予測したり、作戦を練ることだってできますよね。
起業はもちろんですが、新しいビジネスを始めたり、投資したりする場合も、カギを握るのはタイミングのとり方です。ぜひ頭に入れておいてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは、「通信インフラが整っていないから」でした。ちなみに、いろんな商品にタグがついて情報管理できる社会ができるには、もう少しタグの単価が下がらないと厳しいかもしれませんね。では、それは何がどうなれば実現するのでしょうか? それを考えてみるのも、1つのトレーニングになりそうですね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博