個人で事業を始めたり、会社員が副業として給与以外の収入を得たりした場合、確定申告が必要になるケースがあります。
確定申告は「個人事業主が行うもの」というイメージがあるかもしれません。しかし、実際には、会社員でも確定申告が必要なケースがあります。
今回は「どのようなときに確定申告が必要となるのか」、また「個人事業主の確定申告で必要なものは何か」を確認していきましょう。
確定申告とは
そもそも「確定申告とは何か」をおさらいしていきましょう。
確定申告は、一定以上の所得のある人が納めるべき所得税の額を確定するための手続きです。もう少し簡単に説明すると「儲け(所得)」に対してかかる税金(所得税)を、自分で計算・精算する手続きのことを確定申告と呼んでいます。私たちが何かしらの仕事をして手にした「儲け」を、税法では「所得」と呼び、「儲け」た内容に応じて「給与所得」「事業所得」「退職所得」など10種類に分類されます。
法律で、所得が出たら税金を納めることが義務付けられており、1年間で得た「所得」を集計し、納税額を計算して自ら申告・納税することが確定申告です。
また、このように納税者が自分で納める税金を申告・納税することを「申告納税方式」と呼んでいます。
確定申告が必要な人
では、確定申告が必要な人とはどのような人でしょうか。ここでは、確定申告が必要な人を「個人事業主(会社員以外)」と「会社員(副業をしている場合も含む)」に分けて解説します。
現在どこかの企業に属している会社員の方も、ここで解説するポイントに当てはまる場合は確定申告が必要です。また、いずれ副業を本業にして個人事業主となる場合を想定し、確定申告が必要になった場合の参考にしてみてください。
一般的には、給与所得以外の事業所得が「20万円以上」あると確定申告が必要になります。
所得とは、収入(売り上げ)から経費を差し引いた金額です。
所得(課税所得)=収入(売り上げ)-費用(家賃、仕入れ、光熱費、広告宣伝費などの経費)
個人事業主や副業をしている会社員などは、年1回、前年度の収入と経費を報告し、所得及び所得税額を計算して税務署への申告が必要です。
税務署は土日祝が休みのため、その年によって多少異なりますが、確定申告の期間は通常収入を得た翌年の2月16日から3月15日の間です。この期間に、前年の1月1日から12月31日までの1年間の収支を確定申告書として提出します。
所得税の計算は、上記で算出した所得に対して一定の税率を掛けて計算します。なお、所得税は課税所得が多いほど税率が高くなる累進課税です。
次の条件に当てはまる方は、確定申告が必要です。
【個人事業主(会社員以外)】
・事業所得、不動産所得(土地やアパートを貸し出して得た所得)などの合計から、所得控除を引いても、残額がある場合
・公的年金受給者で、公的年金にかかる雑所得から所得税を引いても、残額がある場合。
【会社員(副業をしている場合も含む)】
・主な給与(「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している人に支払う給与、つまり年末調整を提出している会社から受け取っている給与)で「年末調整」ができなかった場合。
・給与収入が2,000万円を超える場合。
・給与を2ヵ所以上から受け取っており、主な給与収入において「年末調整」をしていて、なおかつ「従たる給与(主な給与の支払者とは別に、給与の支払者が支払う給与)」の収入合計が20万円を超える場合。
・副業による事業所得や不動産所得、譲渡所得(不動産や株などを売却して得た取得)などの所得合計が20万円を超える場合(合算できない所得もあるので注意)。
・同族会社の役員などで給与のほかに、会社から地代家賃や貸付利息などを受け取っている場合(所得金額が20万円以下でも申告が必要なので要注意)。 など
「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」(国税庁)
確定申告が不要な人
【個人事業主(会社員以外)】
・個人事業主やフリーランスの方が得た事業所得、不動産所得などの合計が所得控除額以下の場合。
・収入金額が400万円以下の公的年金受給者で、公的年金などにかかる雑所得以外の所得が20万円以下の場合。
【会社員(副業をしている場合も含む)】
・1ヵ所の給与所得のみで、かつ「年末調整」が完結した場合
・2ヵ所以上から給与所得があり、主な給与所得で「年末調整」をしており、なおかつ副業である「従たる給与所得」の収入金額の合計が20万円以下の場合。
・副業による事業所得や不動産所得、譲渡所得など、その他の所得合計が20万円以下の場合。
なお、個人事業主の確定申告には、青色申告2種類(「最高55万円もしくは最高65万円控除を受けられるもの」、「最高10万円控除を受けられるもの」)と白色申告があります。
青色申告とは
青色申告をしようとする場合には、その年の3月15日までに税務署に「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」(開業届)と「青色申告承認申請書」の提出が必要です。その年の1月16日以降に開業した場合には、開業日から2ヵ月以内に「青色申告承認申請書」を提出します。
青色申告は、簿記に基づく会計記録をつけ、所定の帳票の提出が必要です。最高55万円(e-Taxで申告すれば最高65万円)の控除を請ける場合には複式簿記で記帳を、最高10万円控除の場合には、単式簿記による記帳を行い、正しく申告をすることで各種節税優遇制度を利用できます。
手間はかかりますが、白色申告に比べてさまざまなメリットがありますので確認していきましょう。
・最高55万円(もしくは65万円)または最高10万円の所得控除を受けることができる
・事業に従事する家族の給与(専従者給与)全額を費用にできる
・家事関連費(自宅事務所の家賃、光熱費の一部)を費用にできる
・純損失(赤字)の3年繰り越しができる
簡単に例を示します。
収入(売り上げ)800万円で、仕入れや広告費などの費用(経費)が300万円の場合、売り上げから費用を引いた事業所得は、500万円になります。
青色申告では、実際に支出した経費に加えて、配偶者や15歳以上の親族などが事業に従事する場合には、その親族に対して支払った給与を全額費用にすることが可能です(青色事業専従者)。ただし、あらかじめ税務署に届け出が必要になります。
下記の例では家族の給与を240万円/年とします。
家事関連費は、自宅を事務所としている場合に、家賃や光熱費のうち、事業で使っている分の費用です。
例えば、自宅兼事務所の家賃10万円/月、光熱費2万円/月で、事業として利用している割合が50%の場合は事業用スペースの面積などで家事と事業の経費を按分し、毎月、家賃5万円、光熱費1万円とし、年間72万円を事業の経費とすることができます。
最高65万円控除を受ける場合
収入800万円-費用300万円-専従者給与240万円-家事関連費72万円-青色申告控除65万円=事業所得123万円
最高10万円控除の場合
収入800万円-費用300万円-専従者給与240万円-家事関連費72万円-青色申告控除10万円=事業所得178万円
実際の所得税の計算には、さらに基礎控除や社会保険料を控除した課税所得に税率を掛けて算出します。
白色申告とは
次に、白色申告についてです。開業届や青色申告承認申請書を税務署に提出していない場合は、白色申告となります。
白色申告は、税制上のメリットがない代わりに、帳簿作成が簡単といわれている申告方法です。
しかし、2014年の法改正により、収入に関わらず白色申告の記帳や書類保存が義務化されました。そのため、どちらの申告方法を選んでも以前ほど手間の差はなくなったといえます。ですから「楽そうだから」という理由で白色申告を選択するメリットは以前に比べると少なくなりました。
白色申告も青色申告も手間はかからないとはいえ、青色申告と比べると白色申告の方が、経理業務や申告方法がシンプルです。白色申告では「簡易簿記(単式簿記)」と呼ばれる記帳方法が認められていて、青色申告で用いられる「複式簿記」と比べると複雑さが軽減されます。簡易簿記は、例えるとお小遣い帳のような形式で、会計知識のない人でも簡単に作成ができます。
何をメリットと感じるかは人それぞれですが、全体的なメリット・デメリットを考えれば、青色申告の方が金銭的なメリットは大きいといえます。
白色申告の場合は、専従者(ともに働く親族等)給与の上限が86万円(配偶者の場合)となり、家事関連費は費用になりません。
青色申告で用いた例ですが、収入(売り上げ)800万円で、仕入れや広告費などの費用(経費)が300万円、自宅兼事務所の家賃10万円/月、光熱費2万円/月、家族の給与を240万円/年で、事業として利用している割合が50%の場合に白色申告をした場合は以下となります。
収入800万円-費用300万円-専従者給与86万円=事業所得414万円
白色申告に比べて青色申告では、専従者給与、家事関連費、青色申告控除の分、事業所得が少なくなり、所得税や住民税を下げることができます。最高65万円控除を受ける場合の事業所得が123万円なので、大きな違いとなることが分かります。
「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」(国税庁)
「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」(国税庁)
個人事業主は開業届を提出すべきか?
結論からいうと、青色申告で確定申告をしたい方は、開業届の提出が必須です。白色申告で確定申告をしたい人は、開業届を提出する必要はありません。
個人事業主の方の中には、開業届を提出していない方もいるかと思います。
もともと給与所得者で、事業を副業から始めて少しずつ拡大していきたというような場合は、開業日の特定は難しいでしょう。気づいたときには、開業届の提出期限を過ぎている場合もあるかもしれません。
開業届を出さなかったからといって、税務上のペナルティはありません。しかし、青色申告の承認を受けようとする場合の手続き「青色申告承認申請書」の提出時には、開業届の記載が必須です。また、屋号による銀行口座の開設時にも、開業届の控えが必要となります。青色申告で確定申告をしたい人は、忘れずに開業届を提出するようにしてください。
当然のことですが、開業届を出さなかったからといって、確定申告をしなくても良いというわけではありません。開業届の提出をする・しないに関わらず、事業所得を含めた所得は、きちんと確定申告してください。必要な確定申告をしなければペナルティが当然あります。
開業届の提出が遅れたら、青色申告は受けられない?
開業届は、原則、開業を開始した日から1ヵ月以内に所轄の税務署に提出することとなっています。開業届については、先述した通り提出しなくても罰則はありませんし、提出期限を過ぎてしまっても罰則はありません。
しかし、開業届が出ていなければ確定申告で青色申告ができないなどのデメリットがありますので、提出をしていない場合は速やかに提出するようにしましょう。
先述した通り、青色申告をしたい場合には、開業届のほかに「青色申告承認申請書」の提出が必要です。
開業した年から青色申告をしたい場合は、開業日から2ヵ月以内に青色申告承認申請書を提出してください。原則として、開業日から2ヵ月を過ぎると、開業1年目には確定申告で青色申告ができません。
また、白色申告から青色申告に変更する場合は、青色申告をしようとする年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出しなければいけません。原則として、3月15日を過ぎると、青色申告ができるのはその翌年からになってしまいます。
例えば、2023年3月15日までに青色申告承認申請書を提出していなければ、2023年度の確定申告は白色申告になります。2023年3月16日以降に青色申告承認申請書を提出した場合は、2024年から青色申告が可能です。2023年1月16日以降に事業を開始した場合は、2ヵ月以内に提出すると、初年度から青色申告できます。
いろいろと書きましたが、要は青色申告をしたいのであれば「開業届を出すタイミングで青色申告承認申請書を提出するというのが一番」ということです。特に、個人事業主はその方が提出漏れを防ぐことができるでしょう。
また、開業届を出すと、税務署から確定申告の案内や新規事業者向けの記帳指導などを受けられるようになります。
個人事業主の青色申告の申請方法
個人事業主が青色申告の承認を得て、確定申告をするときの流れを簡単に説明します。
青色申告の提出書類
青色申告(最高10万円控除を受ける場合)をするためには、次の3つの書類を提出します。
・青色申告決算書
・確定申告書(原則、第一表、第二表)
・添付資料
*最高55万円(e-Taxで申告すれば最高65万円)の控除を目指すなら、さらに貸借対照表・損益計算書の添付が必要です。
なお、後ほど他の変更点にも触れますが、2023年に提出する令和4年度分の確定申告からは、確定申告書Aの書式が廃止され、AとBの区別がなくなり書式は1本化されました。
青色申告をする年分の純損失については、翌年以降、3年間の所得の金額から繰越控除を受けることが可能です。この場合、申告書第四表が必要になります。
青色申告の提出書類の書き方
【青色申告決算書】
青色申告決算書は、全部で4ページになります。書き方は、基本的には会計帳簿からの転記です。
1ページ目・4ページ目
各勘定科目の最終残高を1ページ目の「損益計算書」及び、4ページ目の「貸借対照表」に転記します。
2ページ目、3ページ目
損益計算書の内訳として次のような項目を転記します。
・給与賃金、青色専従者給与、貸倒引当金
・各月の売上高や仕入れ高
・青色申告特別控除額の計算
・税理士・弁護士などの報酬・料金内訳 など
【確定申告書(第一表、第二表)】
確定申告書を書くためには、資料集めが必要です。
たとえ1ヵ月であっても、給与がある場合には源泉徴収票が必要です。このほか、支払調書、所得控除関係資料など、事業だけでなく個人として支払いをしたものを含めて収集しておきましょう。
事業の収入金額や所得金額は、青色申告決算書から転記します。
【添付資料】
添付資料は、先ほども触れた通り税額控除や所得控除の内容により異なりますが、次のような資料がある場合は添付します。
・源泉徴収票
・社会保険料控除証明書
・小規模企業共済名地掛金控除証明書
・生命保険控除証明書
・寄附金控除証明書 など
添付書類は「原本でなければならない」ほか、各種添付書類が添付されていないと控除が受けられないので注意しましょう。
また、添付資料は年々簡略化されています。確定申告の際にどんな添付資料が必要か、最新の情報を確認するようにすると良いでしょう。
2022年(令和4年分)からの青色申告の変更点
2022年(令和4年分)からの青色申告には、いくつか変更点があります。主な変更点は次の通りです。
・確定申告や決算書類などへ押印義務がなくなる
・確定申告区分欄の追加
・ふるさと納税の確定申告手続き簡素化
・保育の女性などの非課税措置
・住宅ローン控除の期間延長及び要件緩和 など
このような確定申告における変更点は、国税庁の公式サイトやパンフレットなどでアナウンスされます。確定申告を行う前に、自分の申告に関係する変更点があるかを確認して、不明な部分は早めに解決しておきましょう。
まとめ
確定申告の時期が近づくと、憂鬱になるという個人事業主の方も多いかもしれません。しかし、こればかりは避けて通れない道です。
今回お伝えした通り、青色申告と白色申告という選択肢はあるものの、いずれにせよ確定申告は必要です。
手書きでの確定申告も可能ですが、月の仕訳が十数件を超えるようであれば、確定申告ソフトの利用も検討してみてください。
そのほか、国税庁の確定申告書など作成コーナーというサイトやスマートフォンでの確定申告なども可能です。
文章だけですと、複雑そうに感じるかもしれませんが、確定申告は一度経験することで流れが分かるようになります。今回の記事を参考にしていただきつつ、どうしても分からない部分や不安な点は、税理士や税務署の窓口で相談しながらチャレンジしてみましょう。
西川ちづる