起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
●経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第10回・スマホの次に来るもの
いきなりですが、クイズです!
ビアガーデンの醍醐味とはどのようなことでしょうか。それをイメージしながら、当時の時代背景も含めて考えてみてくださいね。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
夏の暑さが昔とは明らかに変わってきています。その原因と言われるのが、地球全体の温暖化、そして都心のヒートアイランド現象です。
夏場に気温が30度を超えることは当たり前になりましたし、最高気温ランキングといったものを見てみても、ここ数年で日本のあらゆる場所で40度以上を記録することが増えているようです。
そんな中、熱中症死も増えています。熱中症で亡くなる方は20年ほど前までは年間で200人未満でしたが、今では毎年1000人を超えており、5倍以上となっています。
そして、熱中症死の大半が室内で起こっていると言います。部屋の温度管理が非常に大事な時代になっているというわけですね。
これは、言い換えれば「涼しさが生活必需品になった」ということでもあります。
それでは解説します!
ビアガーデンといえば夏の風物詩です。よく思い浮かべる「ビルの屋上にあるビアガーデン」は、1964年の東京オリンピックの頃が全盛期と言われており、1950年代の後半くらいから人気を博したようです。
当時はまだクーラーが普及していませんでした。夏の暑い日に、扇風機だけの暑苦しい室内ではなく、外の風にあたって涼みながらお酒や食事を楽しみたいということで、ビアガーデンが人気になったと言われています。
今やクーラーが普及していますから、ビアガーデンに涼しさを求めることは減ったかもしれません。ビアガーデンがどこか昭和のにおいがするのも、そのせいかもしれませんね。
さて、最近の高級マンションのショールームを見学してみると、クーラーが設置されていない場合が増えているといいます。そのかわりに「空調機器」が設置されていて、家全体がそれ1つで全てコントロールできるというのが、最新式だというのです。
「新三種の神器」と呼ばれてクーラーが普及したのが1960年代後半ですが、今やその次の段階に入ってきたといえそうです。これは暑さが変わってきている話と無関係ではなく、「365日が快適に過ごせる」という住宅事情が、実は隠れたヒット商品になっているんだということでしょう。
温暖化と高齢化が進むと、どんなビジネスが必要とされるか?
高齢化社会が進み、一戸建てを売却してマンションに移り住む高齢者世代が増えています。そんな彼らが口を揃えて言うのが、「冬のお風呂場は寒すぎる、夏は室内が暑すぎる」という話です。
クーラーが室内全体に均等にきいていることや、冬は床暖房が入ったり、お風呂場が暖められるといったことの大切さが求められているわけですね。
高齢化社会が進めば、こうしたニーズはますます広がっていくでしょう。温暖化が進めばなおさら、室内の快適さが生活必需品となり、今まで以上に重要なものとなってくるに違いありません。
今回の話で重要なのは、そういった変化、つまり夏の暑さは当たり前なのではなく、既に限界まできていることを理解し、さらにそこからビジネスチャンスを見つけることができるか、ということです。
温暖化が進み、高齢化によって暑さに耐えられない世代が増えていく中で、今後求められるビジネスにどのようなものがありそうか、想像してみてください。
分かりやすいところでは、たとえばリフォームのビジネスかもしれませんし、中古マンション販売の仕事かもしれません。いろいろな可能性が考えられそうですよね。
どこにビジネスチャンスが落ちているかはわからない!
まだまだ8月。夏の暑さはもう少し続きそうです。夏は暑いものですが、それが当たり前だと決めつけず、「そんなところにもビジネスチャンスのヒントがあるのではないか?」と考える習慣をつけること。それが、経営者に必要な「着眼点」を鍛える方法ではないかと思います。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「クーラーが普及していなかったから」でした。最近の「ビアガーデン」は涼しさより、空間の演出に凝ったり、食事のバリエーションやプランの充実などによって、多くの人たちの心を掴んでいるようです。その年ごとの流行もあるようですから、人気のお店をチェックしてみるのも、ビジネスチャンスを見つけるための参考になるかもしれませんね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博