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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第108回・需要を作れる

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

コロナ禍で大打撃を受けている旅行業界ですが、昨年の5月に星野リゾートの星野社長が、経営への危機感から「倒産確率」を発表して社員への引き締めをはかったことが話題となりました。結果として倒産するどころか経営は好調に推移したのですが、宿泊者数が盛り返した理由が大きく2つあったといわれています。1つは国の施策である「Go to キャンペーン」で、もう1つは同社が「新たな需要」を生み出せたことでした。さて、それはどのような需要でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

苦戦を強いられる旅行業界の中でも、総合リゾート運営会社である星野リゾートは、新規開業を続けるなど業績が好調だといいます。

その1つの要因となっているのが、今回のテーマである「需要創造」です。

要は、今まであまり利用してもらえていなかった人たちをうまく取り込むことに成功し、それが業績回復に大きく寄与したのです。

それでは解説します!

星野社長が新たに作り出した需要とは、どのようなものでしょうか。それはまさに「コロナの時期だからこそ」のもので、多くの人が「確かにこれならアリだな」と思うような需要でした。

ヒントを出すと、東京都知事の小池百合子氏や感染症の専門家の方々がしきりに「コロナ禍ではこれはしないでください」と言っていたことがいくつかありますが、それを思い浮かべてもらうと答えに近づけると思います。

そう、実は、星野社長は「県をまたいだ移動をしない(遠出をしない)」というところから、「地元の人」をうまく取り入れようと考えました。近場への旅行、つまり「マイクロツーリズム」です。

国内旅行というと、何となくですが県をまたいで遠くに出かけるイメージがありませんか? でもそれがダメなのであれば、「県内(地元)の人に利用してもらえばいい」と考えたわけですね。

例えば、神奈川県の人なら箱根に、静岡県の人なら熱海に、山梨県の人なら八ヶ岳に、栃木県の人なら日光・鬼怒川に…ということになるでしょう。遠方や海外への旅行に比べて、近場で安全に楽しめて、かつルールは守っているということで、マイクロツーリズムは多くの人に受け入れられたわけです。

まさに、家にいるようにいわれどこにも行けずに発散できない人たちが、それでも羽を伸ばしたい時に、近場のいいホテルに泊まって贅沢に遊んでみる楽しみは、新しいニーズとしてリピートにもつながったということでしょう。

「ビジネスホテルでリモートワーク」も需要創造の1つの事例

「需要創造」は、まさに現在のコロナ禍のように環境が変わってしまってどうしようもない時や、売り上げが伸び悩んだりした時に、必要な打ち手となります。

そして、星野リゾートのマイクロツーリズムの発想は、まさにその成功例だということですね。

同様の事例としては、都内の高級ホテルが「ケーキバイキング」に力を入れているようですが、これもまさしく需要創造といえるものでした。レストランがお客を取り込む方法は「ランチ」か「ディナー」かの二択になりがちなところに、午後のひと時をゆっくり楽しみたいというニーズに合わせて仕掛けたケーキバイキングは、場所の高級感もともなってうまくハマったわけです。

また、最近のファストフード店はどこもやっていますが、最初にマクドナルドが始めたのが「朝食メニュー」でした。お店は朝から開いているので朝に食べに来る人はもちろんいましたが、同社のマーケティングで「朝にハンバーガーを食べに来た人は、その日はもう来店しない」という分析をしていたそうです。

そうであれば、これはアメリカ本社の立案だとは思いますが、「朝だけ特別なメニューにしておけば、それ以外の時間もまた利用してくれるはず」と考えたわけです。そして、それはその通りになったのです。

このように、飲食の世界では需要創造の取り組みは比較的多いといわれます。

その他だと、最近であればビジネスホテルがコロナ禍で「リモートワークのプラン」をつくって部屋を貸し出し、利用者を増やしていますよね。カラオケボックスも同様の取り組みをしていましたが、これらもまさしく需要創造ですね。

知恵を絞って「需要創造」し、苦境を乗り切ろう

コロナ禍が長引く中、あらゆる業界が苦戦を強いられています。その時に黙ってことが過ぎるのを待つのではなく、場合によっては知恵を絞って新しい施策を考えなければ、生き残れない可能性も出てきます。

そこで有用なのが「需要創造」であり、今回は「さすがは星野リゾート!」というお話でした。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「地元の人の旅行(マイクロツーリズム)」でした。ちなみに、このマイクロツーリズムですが、実は北海道では以前から根付いていたと言われています。単純に面積が広いからで、北海道の観光需要の半分近くは北海道民によるものだという話もあるくらいです。ぜひ皆さんも、地域の魅力発見につながるマイクロツーリズムを検討してみてくださいね。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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