起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第164回・お店を救った救世主
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
その年の日本の世相を反映し象徴する食が「今年の一皿(R)」として毎年発表されるのをご存知の方も多いと思います。
2023年に選ばれたのは「ご馳走おにぎり」で、その名前の通り、おいしそうな具材がふんだんに乗せられているかなり贅沢な一品です。
新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことで人流が回復し、外食をする人やインバウンドが増えた影響が大きかったようです。おにぎりの特徴である「豊富な具材から選べる楽しみ」がより一層多くの人に受け、さらには「握りたて」を味わえるお店が増えたことから、ご馳走へと進化したのだとか。
そうした具沢山のおにぎりを出すお店が増えたこともあり、おにぎりの消費支出額は増加傾向だといわれ、海外でも日本の伝統的な食文化として注目を集めているそうです。
それでは解説します!
そんな昨今のおにぎりブームの火付け役ともいえる「ご馳走おにぎり」ですが、テレビなどで紹介されている人気のお店の商品を見ると、かなり具沢山で見た目のインパクトも強く、それゆえに値段も普通のおにぎりと比べると高いものが多くなっています。
ご馳走なので当然といえば当然ですが、どうやら実は「ご馳走を食べたい人だけが買っているわけではない」という話もあります。
ではどんなニーズが隠れているのかというと、いわゆる「映え」です。
ご馳走おにぎりは、さけや梅、昆布やいくらといった定番だけでなく、ローストビーフや卵黄の醤油漬けみたいなユニークな具材が、見栄え良く豪快に盛り付けられたものが多くなっています。
天むすのように大きな海老の天ぷらがそそり立っているものがあるなど、美味しそうなだけでなく見栄えのインパクトも強く、SNSに投稿しても非常に「映える」わけですね。
東京・虎ノ門にある「TARO TOKYO ONIGIRI」というお店に至っては、最初から映えを意識しており、SNS映えする黄金比として「ご飯が85:具材15」の割合で作っていると話しているくらいです。具材の量は通常の3から5倍だそうで、ご飯に入りきらない分はご飯の上に盛ってあり、豪快かつ華やかな見た目に惹きつけられてしまいます。
強烈なインパクトを与えた「具材まみれ」シリーズ
こういう話は野暮だということは承知の上でいうと、おいしさだけを考えたら、そこまでの量の具材は必要ないですよね。はっきりいって、やりすぎに見えるものも多いです。
ですが、映えるからたくさんの人に注目され、人気となっている。それは紛れもない事実でしょう。
映えるためには見た目のインパクトは重要であり、商品としてそっちに振り切っているのではないかと思わせるものもあります。
例えば、最近注目されたのがカップヌードルです。謎肉と呼ばれる具材が大量に入った「カップヌードル 謎肉まみれ」や、イカが大量に入っている「シーフードヌードル イカまみれ」、エビが大量に入った「カップヌードル エビまみれ」といった商品は、やりすぎに近い強烈なインパクトで話題となりました。
この商品が面白いのは、テレビCMでは「でも普通の方がうまい」と自ら言ってしまっていることでしょう。明らかに確信犯で、「映え」を逆手にとっているような感じが痛快です。
やりすぎという点では、カルビーの「ポテトチップス コンソメパンチ」が、コンソメ風味を通常の3.5倍にした「コンソメメガトンパンチ」を期間限定で発売しました。
コンソメ風味2倍の「コンソメWパンチ」というレギュラー商品がありますが、それを遥かに上回る味の濃さで、コンソメ味好きを喜ばせたようです。個人的には味が濃すぎるような気はしましたが、色の濃さには確かにインパクトがありました。そしてそのインパクトにより、SNS上でも「映え」たそうです。
「見栄え」はやり過ぎくらいがちょうどいい!?
本質的に考えたら、大量に具材が乗ったご馳走おにぎりは、「具材まみれ」や「メガトンパンチ」のようなやりすぎの部類に入るようなトレンドなのかもしれません。
しかし、今のビジネスを考える時には、実は「見栄え」はものすごく重要な要素であることは間違いなく、それをあらためて気づかせてくれたように感じています。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「SNS上で映えるから」でした。ちなみに、少し前に大ブームとなったタピオカも、かつては白い小さな粒のものが一般的でしたが、人気となったのは黒くて大きなタピオカでした。あれもよく考えたらやりすぎの部類に当てはまりそうな見栄えですが、だからこそインパクトがあったのかもしれませんね。
構成:志村 江