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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第163回・「しめ飾り」はどこで買うべきか

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

インフレの影響で生活が大変になり、出費を抑えている人も多いと思います。そういう時の強い味方が「100円ショップ」です。当然ながら、お正月に飾る「しめ飾り」も安く購入することができ、私もここしばらくはずっとそれを使っていました。ところが先日、ある友人から「いくら安いといっても、それはやってはいけないことだ」と助言され、その理由を聞いたところ、すごく納得してしまいました。この年末からはもう少しお金を出して別のものを買うことにしたのですが、さて、友人は私にどのような助言をしたのでしょうか。

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

あらゆるものが100円均一でそろう「100円ショップ」は、今や人々の暮らしには欠かすことができないお店になっています。

何でも売っているからこそ、100均のもので済ませてしまうケースが皆さんもあるのではないでしょうか。

ただし、どんなものでもそれでいいわけではありません。今回のクイズは「ものによってはちゃんとお金を出して、相当のものを買った方がいい」というマーケティングをするための1つのネタといえるかもしれません。

それでは解説します!

あらゆるものが100円で手に入る中、「お金をかけるところはきちんとかけなくてはいけない」などといわれても、正直、私のような経済合理性を重視して動いている人間からしたら、全く心が動きません。

例えば、結婚式のご祝儀袋について「お祝いのものだから、1000円くらいする立派でいいものを渡した方がいいに決まっている」などといわれたことがあります。しかし、100円ショップで売っているものの中にも十分にゴージャスで失礼のないものだってあるのです。ケチるわけではなく、ものとしてちゃんとしている以上、別にそれを使うことが悪いとは全く思っていません。

しかしそんな私でも、お正月の「しめ飾り」については考えを改める必要があるなと納得し、このお正月からは違うものを買うことにしました。

そのような行動変化を起こさせた友人からの指摘のポイントは、一体どのようなものだったのか。それは「しめ飾りをなぜ飾るのか」という話が大いに影響しています。

日本人は古くから農業を営んできましたが、一年の終わりや始まりに、神様に向かって「来年も豊かな実りがありますように」とお願いするために、稲わらを編んでしめ縄を作り飾ったものが「しめ飾り」です。

日本の文化としてそういうものを飾るということは、材料が稲でないといけないわけですね。しかし、残念ながら100円ショップなどで安く売っているもののほとんどは、稲では作られていません。

それを飾るのは、プリントアウトしたしめ飾りの写真をハサミで切って飾っていることと大差なく、「そんなのは意味がないのでは」という友人の意見に私は大いに納得しました。そして、ものによってはきちんと選ばないと意味がないのだと実感したのです。

つまり、「安いからいい・悪い」という話ではなく、「根本的に違うものなのだから買うべきではない」ということで、これは実に新しい説得手法ではないかと思いました。

安いケーキに使われているのは生クリームではない!?

この話をしていて、パッと浮かんだのが「カニカマ」です。カニカマとカニは全くの別物ですが、多くの人が「美味しいからこれでいいや」と思って選んで買っているはずです。

そう考えると、今回の話は2通りあるのかもしれません。別物だと分かって選ぶケースと、やっぱり別物だときちんと分けて考えるべきケースです。

前者については、カニカマの他だと「フリース」があるかもしれません。今やユニクロで有名なフリースですが、出てきた当初は軽いのに暖かいセーターという認識をしている人が多かった印象です。その後、ポリエステルの一種であるポリエチレンテレフタラートで作られた繊維素材であると知られるようになったわけですが、実際のところは「暖かいから別に何でもいい」となっているような気がします。

一方で、「しめ飾り」と同様に「別物である」という説明が必要なものとしては、「すりごま」があげられます。

どうやら、お店で見かけるすりごまには2つの種類があるようです。簡単にいうと「安くてたくさん入っているもの」と、「素材重視の値段が高いもの」です。

これはある詳しい人から聞いた話なのですが、安いすりごまの多くは、ごま油などを搾り取った後のごまを粉にしたものなのだとか。つまり、お茶でいうと出がらしを飲んでいるのに近いらしいのです。実際のごまをそのまますったすりごまは油分もしっかり含んでいることを考えると、含まれる栄養価も違う可能性がありますし、ごまの一部ではあるものの全くの別物といってもいいかもしれません。

同様の話でよく知られているのは「生クリーム」です。生クリームとは「生乳や牛乳から脂肪分を取り出したもの」。しかし、安く売っているケーキで使われているものの多くが、カラギーナンという海藻の粉を乳化剤で固めたもので、生クリームではなく植物性油脂や乳化剤を多く含んだホイップクリームの類のものです。

そもそも成分が違う以上、別物だと捉えた方がいいように思います。

相手の行動変容を促す説得方法とは?

もしかしたら、「そんな細かいことをいわなくても」と思った読者の方もいるかもしれません。しかし今回の話で重要なことは「相手の行動を変えるためにどう説得させるのか」であり、その時に「全くの別物である」という説得ができる場合は、それが大きなビジネスチャンスに繋がる、ということです。

もし皆さんのビジネスにおいて、ライバル会社の商品がしめ飾りやすりごまみたいな商品だったとしたら、それは消費者にきちんと教えてあげる努力はした方がいいかもしれませんね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「稲で作られていないのだとしたら、全くの別物である」でした。今回は、日本の文化について理解できている人であればすぐに答えに近づけたかもしれませんね。それでは良い年末年始をお過ごしください。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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