起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
いきなりですが、クイズです!
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
2023年5月に上海で開催されたモーターショーでは、新時代を感じさせるようないろいろな機能を持った自動車がたくさん紹介されたそうです。
そんな中、すでに日本に上陸している中国の自動車メーカーBYDの電気自動車は、遊び心をふんだんに取り入れたデザインだけでなく、実用性の部分でも大きな注目を集めました。
それでは解説します!
BYDの「ドルフィン」はその名前の通り「海」をイメージした電気自動車です。デザインしたのはメルセデスベンツを手がけるデザイナーだそうで、細部にわたり見事にブランドイメージが作り出されています。
例えば、車のダッシュボードの部分が波打っていて砂浜がイメージされており、波や泡まで表現されています。個人的には、なんでこんなどうでもいいところにコストをかけているんだと思ってしまうようなデザインではあるものの、何だかそれがいい感じなのです。
他にも、ドアハンドルのレバーがイルカの胸ビレを模したデザインになっていたり、エアコンの吹き出し口が波をモチーフに作られていたり、ヘッドライトがイルカのつぶらな瞳のように見えたりと、いたるところにデザインの「遊び」があります。
そもそも車全体が「イルカが泳ぐ姿」をイメージして作られていて、丸みを帯びた柔らかい作りになっています。
気になって私も試乗したのですが、1つ驚いたことがありました。自動車が動き出した途端に何やら美しいメロディが流れ始めたのです。デザインとあいまって「海の中にいるような雰囲気」が演出されて面白いなあと感心していたところ、実は実用的な意味もあるのだとディーラーの方が教えてくれました。
ゆっくり走っている時だけ、音楽は鳴り続ける
それは、周囲の人たちに車の存在を伝えるためなのだそうです。電気自動車に乗ったことがある人なら分かるかもしれませんが、エンジン音がしないため歩行者にほとんど気付かれないのです。特に細い路地を走っている時などは車の存在に驚かれることが多く、結構危なかったりします。
そんな時に「自動車が近づいていますよ」と知らせる意味も兼ねて、海を思わせるような美しい音楽を歩行者なら気づくような邪魔にならない音量で奏でているのだそうです。
ちなみにこの音楽、時速30㎞を超えると鳴り止みます。あくまでゆっくり走っている時だけ必要な機能というわけですね。そこもなかなか考えられています。
こうしたドルフィンの話は1つの事例ですが、未来の車がどうなるのかは本当に楽しみなところです。
インターネットに常時つながるコネクテッドカーなど、自動車の可能性についてはいろんなことがいわれており、こうしたモーターショーなどのような場所で紹介されることも増えてきました。とはいえ、各社ともまだまだ試行錯誤中でしょう。
当然、日本のメーカーへの期待も高まっています。例えばソニーが持つエンターテインメントの技術やノウハウが取り入れられたら、相当面白い、多くの人が喜びそうな自動車が誕生しそうですよね。
変化が激しい業界では今この瞬間にも新しいものが生まれ続けている
5月の上海モーターショーでは、日本の多くのメーカーがショックを受けるような、世界の面白い次世代の自動車がたくさん紹介されたといいます。
これは自動車に限った話ではなく、新しいマーケットにおいては常に最先端のものをチェックしながら、世の中の動きやトレンドに注目しておく必要がありそうですね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「周囲に自動車の存在を知らせるため」でした。ちなみに、時速30㎞以下だと音楽が鳴るということは、信号で停止して動き出した時も当然鳴るわけです。信号待ちをしている人にどのくらい聞こえているのか、ちょっと気になりますよね。なお、音楽ではなくクラクションのような「音」に変更することもできるようですが、いずれにしても慣れるまでは運転者自身が毎回びっくりしてしまいそうです。
構成:志村 江