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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第146回・時代遅れのサービス

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

ここ数年、音楽・映像レンタル市場はシュリンクしており、実際にこの10年ほどで市場は3分の1程度まで縮小しています。そんな中、成長しているのがCDやDVDのレンタル事業を行う「GEO(ゲオ)」を運営する株式会社ゲオホールディングスです。同社によれば、レンタル市場は縮小していても構わないというのです。実はゲオはレンタル事業を集客ツールと考えていて、来店客が買う「別の主力商品」で成長しているのです。さて、その主力商品とは一体何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

今や、音楽も映像もサブスクが当たり前の時代です。

CDやDVDなどのメディア事業そのものも大きく苦戦しており、そうしたメディアを扱うレンタル事業もなかなか厳しい状況が続いています。もはや、レンタルは時代遅れといってもいいかもしれません。

ところが、市場がどんどん縮小する中でも増収を続ける会社があります。それが「GEO(ゲオ)」を運営する株式会社ゲオホールディングスです。

それでは解説します!

ゲオのお店に行ったことがある人は想像がつくかもしれませんが、DVDやCD、コミックなどのレンタル以外に、いろいろなものが売っています。

お店に入ってすぐに目に入るのが、中古のスマートフォンやタブレットです。実はこれらがゲオの新たな主力商品なのです。

ゲオホールディングスは2つの柱となるブランドを展開しています。1つが、CDやDVDなどのレンタルに加え、中古スマホやタブレットを扱う「ゲオ」。もう1つが古着を扱う「2nd STREET(セカンドストリート)」です。直近の売り上げ構成を見ると、レンタル事業は売り上げが減少しており、占める割合も10%程度。簡単にいうと、同社はリユース事業で成長しているわけですね。

ただ、特徴があって、客層がはっきりしているのです。どちらのお店も足を運んでみるとわかるのですが、高級志向ではない「普通の人たち」が利用しているように感じるのです。

それは、並んでいる商品の切り口が、そういう人たちにフォーカスしているからでしょう。

主力商品である中古スマホもその1つです。新品で買うと高いスマホやタブレットも、少し型が古くてもいいのであれば、リユース品なら手頃な価格で購入できます。「使えれば、安いものでいい」という感覚を持つ人には、ちょうどいいでしょう。

PCの周辺機器なども新品で売っていますが、家電量販店のように品揃えがすごいわけでもなく、最新式のものがあるわけでもありません。DVD-Rのようなメディアや、ケーブル、イヤホン、USBメモリといった小物類も同様です。

「使えればいい」と考えて、あまりこだわらない人にとっては安くてちょうどいい品揃えです。しかもその値段は、私が調べたところではかなり最安値に近いものもあります。

ちょっと部類は違いますが、安くて買いやすいお菓子やドリンク、カップ麺などのインスタント食品などもいろいろと取り揃えています。

KOMEHYOや大黒屋のようにブランド品を扱うリユース店はたくさんありますが、そういうお店の客層とはちょっと違いますし、扱うものも明らかに違うように感じられるわけですね。

全てをサブスクで済ませることに抵抗がある人もいる

リユースといえばメルカリが成長していますよね。他にも、スマホだけで簡単に売買できる便利なサービスが増えています。

Z世代のようにスマホの扱いが得意だったり、全てをスマホ一台で完結させられたりするようなデジタルに詳しい人ならいいでしょう。しかし、例えば中年世代などのそうでない人にとっては、メルカリのようなサービスは若干、敷居が高い部分があるのも事実です。

加えて、そのようにデジタルに詳しくない人たちの中には、全てをサブスクで済ませることに抵抗がある人もたくさんいます。

そんな人たちが「使い慣れているし安いから」とCDやDVDをレンタルするという図式は、想像に難くありませんよね。大多数ではないものの、そこに根強いニーズがあるのは間違いありません。

こういった「高級志向ではなく、なおかつデジタルに乗りきれていない人たち」をうまく取り込んだのが、今の同社のビジネスであり、成長を支えているのだといえると思います。

なおかつ、そういう人たちがお店に来たついでに買いそうなものを揃えているのです。それこそDVDを借りたついで、映画を見ながら食べるものでも買おうとお菓子やカップ麺を一緒に買ったり、安いからと、スマホのケーブルを一緒に買って帰ったりするかもしれません。これは、顧客ターゲットが明確だからこそ、できるのでしょう。

「ターゲットは誰か」を突き詰めて考えることの大切さ

今回の事例を見ていて思うのは、ビジネスというものは「誰を相手にしているのか」を突き詰めて考えることがすごく大切だということです。

まさにゲオがターゲットにしているのは、「庶民」といわれる人たちで、いわゆるZ世代といわれるような層ほどにはデジタルに乗りきれておらず、なおかつ、高級志向でもない人たちです。そして、ゲオの成長を見る限り、そういう人たちは実はいっぱいいるんだということが見えてきます。

そういう人たちをターゲットにしたら、一見時代遅れの「CD・DVDレンタル」という事業も、実は集客ツールとしてものすごく機能する可能性があるということです。あらためて、ビジネスモデルって面白いなあと思いました。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「中古スマートフォン」でした。ちなみに、ゲオの場合は経済理論的には残存者利益が得られたというのも大きいかもしれません。つまり、同業他社が撤退したり事業を縮小したりした結果、市場は小さくなってもお客様を集めやすくなっている、ということですね。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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