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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第134回・典型的な破壊的イノベーション

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起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

今年6月に発売された日産の「サクラ」は、「電気自動車(EV)がついに軽自動車サイズに」ということで注目されましたが、案の定、売れているようです。ただ、サクラを買っている人が「この商品」に気づいたらそっちの方を買ってしまうのではないか、と思えるものがヨドバシカメラやアマゾンで販売されているのです。さて、その商品とは一体何でしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

「サクラ」の登場で、日本にもついに軽自動車のEVの波が本格的にも来たといわれます。

これまでのEVと比べると、軽自動車であるため安価で、近距離用に使うのであればサイズ的にも非常に使い勝手がいいでしょう。セカンドカーとしてもぴったりですし、売れているのも納得です。

ただ、そんなサクラを脅かすような商品がヨドバシカメラの店頭やアマゾンなどで販売されているのです。「もっと早くこれを知っていたら、サクラを買わなかったのに」なんて人がいてもおかしくない、非常に優れた商品なのです。

それでは解説します!

その商品とは、自動車ではあるのですが、バイクのようなものでもあり、最大で3人乗れて、ちゃんと公道も走れます。屋根があるので雨風もしのげます。しかも電動です。

それは「電動トゥクトゥク」です。

トゥクトゥクとはタイの三輪自動車で、東南アジアなどの現地でタクシーとして利用されているのをご存知の人も多いでしょう。ヨドバシカメラではその電動車が新車で70万円程度で販売されています(9月末時点)。自賠責保険が3年間で1万円ちょっと、車庫証明は不要で車検もいらないということから、かなりおトク感がありますよね。

先にデメリットだけお伝えすると、原動機付自転車(原付)と同じでスピードがそれほど出ないため、片道一車線の道だと渋滞を起こしてしまう可能性があります。扉がないため、二車線以上の大きな道だと横を通り過ぎる車がちょっと怖いかもしれません。

じゃあどんなところなら良さそうかというと、基本的には地方などの農村地帯だと思われます。要は、「足」として軽自動車がないと生活できないような場所です。最近は、そういった場所でも「自動車の維持が大変」という声が聞こえ始めています。ガソリン代が高いことと、軽自動車そのものの値段が年々上がっていることです。

「軽自動車は100万円程度で買える」というイメージの人も多いと思いますが、それは一昔前の話。デフレ経済が続く中、この20年余りで唯一といっていいほど価格が上昇し続けているのが自動車です。今だと普通の軽自動車でも新車なら200万円程度。実際、サクラもグレードは様々ですが、当然200万円は超えています。

だからこそ、すでに大きな自動車を一台所有しているうえで、セカンドカーとしてちょっとした家族のお迎えや買い物、畑までの移動手段みたいなかたちで軽自動車が欠かせないような場所では、「サクラもいいけど電動トゥクトゥクもいいんじゃないか?」ということなんです。

現実的に原付くらいのスピードは出るわけですし、走行距離が短くても日常的には問題なく、しかも家庭用の100V電源で簡単に充電できます。燃費は確実に自動車よりも安いわけですし、そもそも本体価格が約3分の1低度。お得なうえに、ちゃんとニーズも満たしています。

これぞ破壊的イノベーションの典型例

ここからが今回のポイントなのですが、実はこの電動トゥクトゥク、まさに「破壊的イノベーション」のわかりやすい図式なんです。

典型的な破壊的イノベーションとは、最初に、それまであった業界の中に「安っぽいもの」が出てきます。古くからその業界にいる人たちは「こんなおもちゃみたいなものは競争相手ではない」とバカにし、相手にもしないのですが、気がついたらその需要が拡大して強大なライバルになっていくのです。

スピードも出ず、乗り心地も悪く、安全性能が低い現状のトゥクトゥクは、間違いなくライバル視はされないでしょう。しかし、値段の安さと実用性の高さから、ある種のユーザーに劇的に売れるということが起こり始める可能性があります。

さらに、破壊的イノベーションの第二弾として、性能が上がっていく段階があります。相手になるような商品ではないとのんびり構えていたら、知らないうちに性能が上がり、「ある種」の人たち以外からも注目されるようになって市場をとられ始めます。

トゥクトゥクのような自動車の場合は、性能を上げようと思った場合、自動車部品というよりは電気部品によるところが大きいわけですから、機能拡大がしやすいのです。

つまり、ドライブレコーダーがないと嫌だとか、自動ブレーキがないと不安だと思っていたら、「じゃあプラス10万円でオプションとしてつけましょう」という話になるのは時間の問題です。オプション込みで80万円なら、ちょっと気持ちが動きませんか?

というような感じで、実はこれは典型的な破壊的イノベーションの商品と同じなのです。

「おもちゃがライバルになるはずがない」と思っていたら、意外とそのおもちゃに需要が出てくるというのは、振り返ればパソコンが出てきた時も同じでした。いわゆるコンピューターがメインの時代に、「パーソナルなコンピューターなんて」と思われていましたが、今や完全に市場を食ってしまいましたよね。

デジカメが出てきた時も、フィルム業界の人たちは「こんなものが画質を上回るはずがない」と思っていたら、ご存知の通り。コピー機も、複合機が出てきて、どんどん性能が上がり、あっという間に市場が拡大しました。

パソコンやデジカメの事例を知っている私たちからしたら、地方の農村で電動トゥクトゥクが軽自動車を駆逐するみたいなことがあってもおかしくないのは、容易に想像できますよね。

今後どのように進化していくのか注目してみよう

ビジネスパーソンのスキルとして、電動トゥクトゥクのような破壊的イノベーションの図式に敏感に気がつく「戦略脳」はかなり重要です。

今回初めて電動トゥクトゥクを知ったという方は、これからこの商品の周りでどんなことが起きるのかを観察してみるだけでも、いろいろな発見があり、スキルアップにもつながるはずです。

今後どう進化していくのか、どのような売れ方を見せるのか、どういう人が買い始めるのか…などなど、ぜひ注目してみてくださいね。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「電動トゥクトゥク」でした。両側に扉がないトゥクトゥクは景色も見やすいことから、浅草の人力舎にとって変わったりしても面白いですよね。いろんな活用の仕方の可能性を考えてみるのも面白いかもしれません。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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