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経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第129回・この夏注目の新素材

独立ノウハウ・お役立ち

起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。

いきなりですが、クイズです!

今回は、新素材による新しいビジネスからの出題です。暑い日に首につけておくと涼しくなる「アイスネックリング」という商品が人気です。これは、NASAで開発されたPCMという素材が水のかわりに入ったリングで、冷たく凍ったリングが溶ける際に体の熱を奪ってくれるのです。しかし、ネットなどで利用者の声を見ると「効き目がある」と言っている人と「効き目がない」と言っている人にはっきりと分かれているようです。よく調べてみると、どうやら両者では買っている商品が違うことが分かりました。さて、「効き目がない」といっている人たちの商品には何が起こっているのでしょうか?

クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある

新素材により新しい発明が起こるといったことはよくあります。今回取り上げた「アイスネックリング」は、まさにこの夏の新しい発明の1つといえそうです。子どもから大人まで広く使われているようで、既にお持ちの方もいるかもしれません。

今回のクイズは、化学の知識がないとちょっと難しいかもしれませんので、少し考えてみて見当がつかなければ、どんどん読み進めてくださいね。

それでは解説します!

「アイスネックリング」は、NASAで開発されたPCM(Phase Change Material)という素材が水のかわりに入ったリングで、簡単にいってしまうと冷却材のようなものです。

そもそもPCMというものは、急激な温度変化から宇宙飛行士を守るために研究開発されたものだそうで、「溶けない氷」ともいわれています。

アイスネックリングを凍った状態で首に装着すると、体の熱でPCMが溶け、その際に体から熱を奪ってくれます。説明書によると、2時間程度はひんやりとした状態が続くので、猛暑対策にはバッチリというわけです。

しかし、商品の選び方によっては効果を感じないという人もいるようです。その差がどこにあるのかを考えるのが今回のクイズとなります。

1つ目のヒントですが、このPCMというものは、実は11種類あるのだそうです。つまり、効果を感じた人と感じなかった人の違いは、選んだ商品で使われているPCMの違いということになります。

では、何が違うのか。これが2つ目のヒントですが、実は「融点」が違うのです。融点とは個体が液体になり始める温度のことです。

最後のヒントを出しましょう。「効果がある」と言っている人の多くは、融点が28度程度の高めのものを使っていて、「ない」と言っている人は少し低めの22度程度のものを使っているようです。

この違い、分かりますでしょうか?

融点が低いということは……

使われているPCMの融点が28度の場合、置いてある場所の温度が仮に26度だとすると、まだ溶けておらず凍った状態です。一方、融点が22度の方は、同じ場所でも既に溶けていることになります。

この商品のポイントは、PCMが溶けてしまった後、融点よりも低い温度の場所にしばらく置いておけば、また凍ってくれることです。よって、融点が28度の商品を外で使って体を冷やした後、オフィスに戻ってからカバンの中に入れておけば、よほど暑い部屋でない限り、2、3時間でまた凍ってくれるので、すぐに使うことができます。

ところが、融点が22度の商品は、オフィスの中がよほど冷えていない限り凍ってくれないことから、ずっと溶けているために効果が実感しにくいというわけです。

商品の名誉のために言っておくと、不良品でも何でもなく、「そういう商品」だということです。ちなみに、融点が22度の商品の説明書をよく見ると、「冷蔵庫で凍らせてください」と書いてある場合が多いようです。

すごい技術が我々の生活を変えていく

今年の夏は平年よりも気温がやや高く、全国的に暑い夏になると予想されています。アイスネックリングは、そんな季節にぴったりのちょっと面白い新たな発明品ではないでしょうか。NASAの技術の凄さに驚くとともに、こうしたすごいものが我々の生活を変えていくところにも面白さがありますよね。

化学の知識がちょっとあるだけで、商品の良さや使い勝手をより理解できるという話でもありました。この新素材、今後もいろいろなところで活用されるかもしれませんので、注目してみてください。

最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「融点が低く、ずっと溶けているように感じるから」でした。ちょっと難しい問題だったと思いますが、商品の特性や、場合によっては値段の差といったものが、どういうところで出てくるのかを読み解くヒントともいえそうな今回のお話でした。

構成:志村 江

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PROFILE
鈴木貴博

東京大学工学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループに入社し、数々の大企業の戦略立案プロジェクトに従事。1999年にはネットイヤーグループの創業に取締役として参加。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業する。大手企業の経営コンサルティング経験を元に2013年に出版した『戦略思考トレーニングシリーズ』(日本経済新聞出版社)が累計20万部を超えるベストセラーに。現在はビジネスをエンタメクイズ化する経済エンタテナーとしても活動中。『パネルクイズ アタック25』(優勝)、『カルトQ』などのクイズ番組出演経験も豊富。近著に『戦略思考トレーニング 最強経済クイズ[精選版]』(日本経済新聞出版社)、『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AI失業」前夜―これから5年、職場で起きること』(ともにPHPビジネス新書)など。

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