あなたは「猟師」という職業にどのようなイメージを抱くだろうか?
鉄砲を持ち、毛皮をまとい、山を歩く。そのようなイメージが一般的かもしれない。
近年では狩猟に注目が集まり、狩猟専門誌の刊行をはじめ、大学に狩猟サークルができたり、若い女性が猟師になるなど、ちょっとした狩猟ブームになっている。
しかし、狩猟に注目が集まっても、仕事としての「猟師」の実態を知る機会は少ない。そこで長年猟師として活動し、「ぼくは猟師になった(新潮文庫)」などの著書をもつ千松信也さんに、猟師という働き方について伺った。
千松さんは運送会社で働きながら、18年間猟師を続けているという。今回は猟師という仕事の内情や、その生計などをご紹介したい。
千松信也(せんまつしんや)1974(昭和49)年兵庫県生まれ。京都大学文学部在籍中に狩猟免許を取得し、先輩猟師から伝統のワナ猟(ククリワナ猟)、網猟(無双網猟)を学ぶ。現在も運送会社で働きながら猟を続ける、現役猟師である。
専業猟師は難しい、気になる仕事の内容とは?
− 千松さんが猟師になった理由は著書の「ぼくは猟師になった」に詳しく書かれているので、今回は猟師に興味を持たれている方に向けて、どのように生計を立てているのか? また猟師とはそもそもどのような仕事なのか? などを中心に聞かせていただければと思います。
猟師を仕事として考える上でまず話しておきたいのは、猟師は専業でやるのはなかなか難しいということですね。猟を行える時期は決まっていますし、自然や野生の動物が相手なので、家畜のように一定の品質のものを、安定的に獲れるものでもありません。
だから僕みたいに会社で働きながら、という人や、農業と兼業で猟をしている人がほとんどです。
− 農家さんが行う猟は獣害を防ぐため、という側面もありますよね。
近年、イノシシやシカが激増していて、農業被害がすごい額に上っています。それゆえ、自衛のために農家の方自身が猟をされる場合もありますし、有害駆除という活動を行っている猟師も多くいます。自治体によりますが、その報奨金の額も1頭数千円から数万円まで差があります。地域によっては駆除だけでそれなりの収入を得ている猟師もいます。最近ではジビエが流行っているので、肉の販売やさきほどの有害駆除の報奨金を組み合わせて、猟師だけで生計を立てている人もいることはいますが、豪雪などで獲物が激減したり、駆除がうまくいくと報奨金の額が下がったりと、不安定であるのは間違いありません。
− 専業が難しいというのは意外でした。ところで、千松さんは猟師を続けて何年になるのでしょうか?
2001年に「ワナ猟」を始めたので、今年で18年目になります。
− 「ワナ猟」ですか?
ええ。猟師というと「鉄砲や猟犬を使って集団で獲物を狩る」印象が強いかと思いますが、僕が専門にしているのは「1人でワナを仕掛けて獲物を狩る」スタイルの猟なので、一般的なイメージとは少し異なりますね。
− なぜ千松さんは18年間も兼業猟師を続けているのでしょうか? 仕留めた獣を山から運んだり解体したりと、大変なことも多いですよね? 運送会社で働いて収入を得ているので「お店で売られている、肉を買ってくる」ではダメなのでしょうか?
自分の中で猟とは、「仕事」ではなく「生活の営み」だと考えています。「食」という営みにおいて、材料を買って調理をするという部分は多くの人々が経験していても、その材料を自ら獲ってくることはなかなか経験しないと思います。
ですが僕は、自分が食べる肉を自分で獲りたい。「命を奪う」という、人が1番やりたがらない部分もきちんと自分でやった上で「食」を営んでいきたいと思って猟を始めました。
− 要するに「命を食べること」に自分で責任を持ちたい、ということでしょうか?
はい。菜食主義者になろうとは思いませんでしたし、ちゃんと肉も食べて生活したいから、スーパーで肉を買うかわりに、山から肉を獲ってくるんです。猟には経済的なメリットもあります。シーズンに入って10頭ほどシカやイノシシを獲れば、僕と妻、こども2人の1年分以上の肉が賄えます。だから息子の友達の周りでも「千松の家に行けばいつでも焼き肉が食べ放題だ」と噂になっているみたいです(笑)。
結婚してこどもが生まれるまでは狩猟は個人的な営みでしたが、今では美味しそうに食べてくれる人ができた。それも狩猟を続けている理由かもしれません。