起業家、経営者にとって大事なのは、世の中を見抜く力です。1つの事象をどう捉えるかで、ものの見え方も、そこから得られる情報も大きく変わります。そうした「着眼点」、実はトレーニングによって鍛えることができるのです。累計20万部を超えるベストセラーとなった『戦略思考トレーニング』シリーズでおなじみの経営コンサルタント・鈴木貴博氏に解説してもらいましょう。
経営者に必要な「着眼点」の鍛え方 第71回・原価率10000%
いきなりですが、クイズです!
※少し難しいかもしれませんが、「ファミレスを使う人はどんな人なのか」「どういった理由で、何を求めて利用していたのか」をまず考えてみて、その周辺で起こっていることを想像してみると、答えに近づけると思います。
クイズの答えの中に、着眼点を鍛えるポイントがある
「ガスト」「ジョナサン」などを運営する外食大手のすかいらーくホールディングスが、2020年4月までに国内全店で24時間営業を廃止することを発表しました。
2017年にはすでに「ロイヤルホスト」を全国展開するロイヤルホールディングスが24時間営業を廃止しています。
かつては24時間営業が当たり前だったファミレスも、大きな転換期を迎えつつあるようです。
この24時間営業を見直す動きは、コンビニ業界でも見られますよね。しかし、ファミレスとコンビニでは、実はちょっと話が違うと思っています。
コンビニについては、「アルバイトが見つからない」ことからの「働き方改革」の影響が大きいのは間違いありません。
一方のファミレスについては、そうした理由はもちろんありつつも、最大の理由は「顧客ニーズの変化」により24時間営業を見直す必要があった、というわけなのです。
それでは解説します!
一言でいうと「ファミレスはコンビニと違って深夜にお店を開けるメリットが減ってきている」ということなのですが、その理由にはどのようなものがあるのでしょうか。私は、大きく分けて3つあると考えています。
1つ目が「法律が変わった」ことです。具体的には、お酒とたばこです。
今では考えられませんし、絶対にいけないことですが、かつては車でファミレスに来てお酒を飲み、朝までに酔いを覚まして家に帰る、なんてことをする人が少なからずいました。
それが今では、仲間の飲酒運転を黙認することも含めて、絶対にダメだということが法律でも定められていますし、社会ルールとしても多くの人に認められています。
たばこについても、すでに分煙が当たり前になっていることに加えて、2020年4月から改正健康増進法が全面施行され、屋内は原則禁煙となります。
お酒やたばこが当たり前だったかつてのファミレスとは、全く状況が違うわけですね。つまり、ファミレスという場所が、夜に仲間で集まる場所としては不適格になってきているのです。
深夜にファミレスを利用していたのはどういう人たちか?
2つ目が、「SNSの普及」です。具体的には「LINE」の影響が大きいと思います。
夜中にファミレスに集まっていた人たちの多くは、やることがないから仲間とダラダラしゃべっていたわけです。しかし今は、それが自宅でスマホを使って簡単にできるようになりました。
同じ場所に一緒にいなくても、LINEなどのアプリを使えばずっとダラダラと時間を過ごせるわけですね。そうなると、夜中にあえてファミレスに行かなくてもいいわけです。ですから、LINEグループがファミレスの需要を奪ったともいえるかもしれません。
そして3つ目が、「夜中まで働く人が減った」ことです。
あらゆる会社が「働き方改革」を進めるこのご時世。深夜残業をして「やっと晩飯にありつけるよ」などと夜中にファミレスに来る人が、働き方改革によって減っているのは間違いありません。
つまり、夜中にどうしてもファミレスを利用しないといけない人が、そもそも少なくなっているわけです。
「顧客ニーズ」という視点で世の中を見直してみよう
「働き方改革」は確かに大事なことです。しかし、そのキャッチーさゆえにいろいろなことをそれで語ってしまおうとしてしまっている現実も、少なからずあると思っています。
新聞やニュースなどの報道を鵜呑みにして「働き方改革」を受け取るのではなく、「顧客ニーズ」というところから世の中の動きを見直してみると、同じ事象であっても違ったふうに見えてくるものです。ぜひ、いろいろなことを考えるうえで参考にしてみてくださいね。
最後に、もうお分かりだと思いますが、冒頭のクイズの答えは「法律が変わった」「LINEが普及した」「夜中まで働く人が減った」の3つでした。ちょっと今回のクイズは難しかったかもしれませんが、特に飲食店の経営者にとっては非常に大事な視点でもありますので、ぜひお店づくりの参考にしてくださいね。
経営戦略コンサルタント
百年コンサルティング株式会社
代表取締役
鈴木貴博