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「攻略」という概念が人生を変える。髙木光治さんが、マリオカート世界一の兄と起業を決めた理由

「攻略」という概念が人生を変える。髙木光治さんが、マリオカート世界一の兄と起業を決めた理由

攻略。

本来の「敵陣を攻め取る」という由来から転じて、ゲームの世界では「ゲームで勝利するための方法」としての意味合いで使われるようになりました。

「攻略」は、ゲームだけでなく、人生にもとても大きな力を発揮する――。そう語るのは、今回お話を伺った髙木光治さん。

髙木さんは、『マリオカート/任天堂』シリーズの世界大会で6度の優勝を経験したNOBUOさんを兄に持ち、昨年兄弟で起業。自身が代表取締役に就任しました。

そこで今回は髙木さんの幼少期からキャリア、起業を決めた理由とともに、ゲームで培われる「攻略」の力の重要性について伺いました。

<プロフィール>
髙木光治さん
株式会社Life Reversal Gaming.代表取締役。

兄は『マリオカート』シリーズの世界大会で6度の優勝を経験した、NOBUOさん。
NOBUOさんの“練習相手”として、幼い頃から『マリオカート』をプレーし、NOBUOさんと同様に大会にも多く出場する。

大学を卒業後は商社に就職。
2020年1月に退職し起業準備を進め、NOBUOさんとともに2020年株式会社Life Reversal Gaming.を立ち上げる。

毎週木曜日20時から、YouTubeチャンネル「THE TAKAGI BROTHERS」にて生配信中。

お金があれば、全ての問題を解決できる? 難病を持つ『マリオカート』世界覇者、その弟の苦悩とかっ藤

――『マリオカート』の世界大会優勝経験者であり、ストリーマーのNOBUOさんを兄に持つ髙木さん。まずは髙木さんとゲームの出合いから教えていただけますか?

髙木さん
それはもちろん、物心つく前からゲーム三昧でした(笑)。兄の影響もあり、家にはたくさんのゲームがありましたから。

兄と僕はもちろん、父も一緒にゲームをしていて。

でも「世界大会で優勝するほどの実力を持つ兄」の練習に付き合うということは……下手では当然務まるはずもありません(苦笑)。

必死に兄に食らいつくうちに、僕自身のゲームのスキルもどんどん上がっていきました。

そういえば昔、ある日本国内の『マリオカート』の大会では兄が優勝、僕が2位。そして父が8位だったことがあったんです。

今思えば「日本で8位」って結構すごいことだと思うんですが、当時の僕らは「お父さんは8位なの? まだまだだね〜」なんて言ってました(笑)。

――いやいや、日本で8位って相当上手いはずですよ? まさに『マリオカート』版“華麗なる一族”ですね。

髙木さん
「俺も頑張ってるのになぁ……。お前らはすごいなぁ……。」と、父はよくぼやいていました(笑)。

それくらいゲームというのが家族の中で当たり前というか、1つのコミュニケーションツールになっていて。

ちなみに大人になった今でも、年末年始やお盆休みは家族でゲームをしていますよ。

――ゲームというものが身近であった少年時代を経て、その後はどのような進路を?

髙木さん
高校、大学を経て、会社に就職しました。

転機になったのは高校1年生の時。こどもの頃からゲームと同じくらいサッカーが得意だったので、サッカーが強い私立の高校に進学したんです。

しかし入部する直前に、腰椎分離症(※)を患ってしまい、サッカーができない身体になりました。

そして僕はサッカーに注いでいた情熱を、勉強へと向けたんです。

※成長期のスポーツ選手に多発するケガ

――サッカーがダメなら得意だったゲームに、という選択肢もあったように思いますが……。なぜ勉強に?

髙木さん
今と違って「ゲームが仕事になる」ような環境も、僕が学生時代の時にはありませんでしたから。あくまで「ゲーム=遊び」という感覚で。

「せっかくお金のかかる私立に入れてもらったのに、サッカーができなくなってしまった……。僕にはもう、勉強しかない」。当時はそう強く思い込んでいましたね。

高校に入学する以前から兄は病気(※)を発症。決して安くない治療費を払わなければなりませんから、家計は経済的にあまり豊かとは言えませんでした。

そんな状況でも親は、僕の希望を尊重して、サッカーの強い私立高校に入学させてくれた。

だからこそサッカー以外の別の形、すなわち勉強で結果を出すしかないと思ったんです。

そうして高校3年間は勉強に時間を費やし、大学に入学。大学でも好成績を維持し続け、卒業後は大手の専門商社に入社しました。

※髙木さんが小学生の時に、兄・NOBUOさんは線維筋痛症という難病を発症。現在もなお闘病中。

――専門商社を選んだのも、家族のために?

髙木さん
ええ。兄の治療費を少しでも負担してあげたかったですし、親も安心させてやりたかったんです。なんとかして僕がみんなの力になれないかと。

そして……その気持ちに嘘はないんですが、もう少し本音を言うと、どこかで家族にとっての「自慢の光治」でありたかったのかもしれません。

「サッカーが上手い」「勉強ができる」「就職は大手の商社に決まった」――。これまでの自分の選択は全て、いわゆる“世間体”を気にしてしまうところがあって。

入社を決めた会社も、そこで何かやりたいことがあったから入った、というわけではなく。

いつしか「お金があれば今の問題を解決できる」「お金があれば幸せになれる」と、そんなふうに思うようになっていったんです。

ゲームは単なる遊びじゃない。だから僕は、兄と起業する道を選んだ。

――就職してから起業するまでの経緯を教えてください。

髙木さん
2020年の1月末に退職するまで、約3年半その会社に勤めていました。

当初の目的であった「お金を稼ぐ」という目標は達成できたのですが、その代わりに毎日が仕事三昧で、心に余裕がなくなってしまったんです。

――忙しく毎日を過ごしていると、自分が働いている意味が分からなくなってしまうことは、よくありますよね。

髙木さん
そんなある時、出張のついでに実家に泊まったことがありました。

そこで久しぶりに会った兄が、疲れ切った僕の顔を見て「光治どうした?」「辛かったら帰ってこいよ。無理するなよ」と言ってくれたんです。

その時に自分の中で張り詰めていた糸がプツン、と切れる音がしました。

「家族のために働かないと……」と、いつの間にか自分を追い詰めていたことに、ようやく気がついたんです。

――そこで会社を退職されたと。しかしそれから転職という選択ではなく、なぜNOBUOさんとの起業、という選択をされたのでしょう?

髙木さん
これまでの兄の活動が、とても意義があるものだと感じたからです。

実は、病気の兄がゲームに積極的であることに対して、少し複雑な気持ちを持っていました。

もちろん「病気の人がゲームをしてはいけない」とか、そういう風に思っているわけではありません。

話が前後してしまうのですが、僕が小学生の頃から、兄は原因不明の病を患い病名も分からないまま寝たきり生活を送っていました。

だからこそ僕は勉強をがんばったし、就職後も必死で働きました。

兄は兄で病気と闘いながらも、ベッドの上でもできるゲームに、希望や居場所を見出していたのですが……。

でも僕にとって、たとえ世界一になれるくらいゲームが上手かったとしても、あくまで“遊び”という感覚でした。

だからどうしても、兄がゲームで遊んでいる「だけ」のように、僕には見えてしまっていたんです。


――そういった気持ちが生まれてしまうのもまた、1番近くにいる家族だからこそなのかもしれませんね。

髙木さん
兄に対する想いが変わったのは、就職してからです。

僕が就職したのは2017年。ちょうど「eスポーツ」という言葉も盛んに聞こえてくるようになってきた頃で。

当時商社に勤めていた僕は、家電やゲーミングチェアなどを小売店に卸すことがありました。

そこで兄にゲームの環境設備などについて話を聞いたら、到底素人とは思えないような専門的なアドバイスが返ってきて。その知見が仕事でめちゃくちゃ役に立ちました。

そして兄は、その時期くらいからYouTuberとしても活動をスタートさせました。

『マリオカート』のプロ選手(プロゲーマー)としても活躍し、新たにYouTuber(ストリーマー)としても活動する兄を見て、「もはやゲームは遊びじゃない」と思うようになっていったんです。

――NOBUOさんのプロゲーマー・ストリーマーの活動を見て、価値観が変わっていったと。

髙木さん
ここまで真剣にゲームに向き合い、さらにプロとして収益を立てているなら、それはもう“仕事”なんだと。

そして今「兄がゲームをすること」そのものが、多くの人にとっての“居場所”になっています。

髙木さん
「仕事=お金を稼ぐ」だけではない。仕事をする上でとても大切な価値観を、兄とゲームを通して知ることができました。

そして僕も、ゲームで誰かを幸せにできるような、そんな仕事がしたいと思った――。だから、兄と共に起業をする道を選んだんです。

「攻略」という概念が人生を変える。髙木さんが語る、ゲームの持つ可能性

――髙木さんとNOBUOさん。そんな2人の想いから生まれた株式会社Life Reversal Gaming.の事業について教えてください。

髙木さん
これまでの兄の活動をサポートしつつ、ゲームを通したきっかけ作りの場を広げています。

具体的には様々な企業様の社内イベントに、ゲーム大会等の制作・プロデュース・出演などで参加させていただいたり。最近は自治体からのご依頼で、地域の方々や学生に向けたトークセッションをさせていただいたり。

ゲームに関するイベントの演出や解説、トークセッションの依頼を受けています。

トークセッションでは「プロゲーマーとして活動していくためには?」といった話から、保護者の方向けに「こどもとゲームの付き合い方」といった話など、僕たちならではのお話をさせていただいております。

また今後の展開ですが、全国の病院を訪問して、入院しているこどもたちとゲームを通じた交流や、その場所場所でこどもたちの笑顔を作れるイベントの開催を検討しています。ゲームでの全国ツアーのようなイメージですね。

――髙木さんが考える、ゲームの魅力とはなんでしょう?

髙木さん
大きく2つあると思っています。

1つ目は、誰かとつながりたい時につながれて、1人になりたい時に1人になれること。

ゲームには、人と人とをつなぐ力があります。

例えば普段関わらない人とでも、一緒にゲームをすることで一気に距離が縮まったりすることってあるじゃないですか。

それが会社や学校、病院であれ。そして大人であれこどもであれ。誰かと一緒に盛り上がりたい時のツールとして、ゲームは最適だと思うんです。

そうしたみんなでワイワイする側面もありながら、ちょっと1人になりたい時にも、ゲームはそっと寄り添ってくれます。

何か辛いことがあったとしても、ゲームをしている時間はそのことを考えなくて済むかもしれない。そして時には、人生が変わるような素敵な価値観に出合うことだってあるんです。

――もう1つはなんでしょう?

髙木さん
ゲームは単なる遊びではなく、人生を生きやすくする「学び」につながることです。

どんなゲームでも必ず「攻略」という概念があるじゃないですか。

様々な課題や困難が提示され、それをどうクリアするのか――。ゲームをプレーすると、クリアのための「攻略法」を自然と考えることができます。

この「攻略」という概念は、人生においてもとても大きな力を発揮するものだと思っていて。

――具体的に教えていただけますか?

髙木さん
例えば僕は、中学時代までサッカー漬けだったので、高校生になるまで正直勉強がとても苦手でした。

でも高校生になってサッカーを辞めて、本腰を入れて勉強を開始した後、学年トップの成績を取ることができたんです。

この時に使ったのがゲームで培ってきた「攻略」という考え方。

「勉強」のジャンルによっても多少は異なりますが、例えば高校生が定期テストで点数を取るための勉強なら、各教科の先生の出題傾向を徹底的に分析しました。

公式を暗記するだけで取れる点数の配分、授業をきちんと聞いていないと取れない問題の配分。他にも苦手な教科の勉強の仕方や、あえて「捨てる」教科の点数の取り方……。

挙げたらキリがないですが、僕からするとこれは「兄に勝つための『マリオカート』の攻略法」と変わりません。

相手の使用するキャラクターやカート、ステージの特性から、プレースタイル、さらにはプレーヤーの癖など、常に「自分がどうやって試合に勝つか」を、小さい頃からずっと考えてきましたから(笑)。

このようにゲームで養われる「攻略」という考え方は、勉強でも仕事でも必ず役に立ちます。

そんなゲームの持つ可能性、素晴らしさを、1人でも多くの人に伝えていけたらいいですね。

――最後に、読者の方へメッセージをいただけますか?

髙木さん
「果たして自分は、独立・起業に向いているのか、向いていないのか」。

よく問われる質問だと思いますが、僕は向き不向きよりも「やりたいか、やりたくないか」だと思っています。

「あなたには独立なんて、向いていない」と言われたとして、それで自分の気持ちを諦めてしまうなんて、本当にもったいない。ある価値観に囚われて、自分の気持ちに蓋をしたまま生きるってとても大変なことです。

僕自身も「自分がこうでなきゃいけない」という固定観念に、長年縛られ続けていましたから。

本当に大切なのは「自分はこんなことをしてみたい、やってみたい」という気持ちです。

「こういう世界だったら素敵だな」という想像は、誰にでも描けることではありません。そう思えるあなただから、描けることなんです。

自分の本当の気持ちを決して殺さず、もしちょっとでも何かやってみたいことがあるなら、少しずつでいいからぜひチャレンジしてみてください。

僕もまだまだ夢の途中です、一緒にがんばりましょう!

取材・文・撮影=内藤 祐介

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