中小企業の事業承継を進めるときに、事業を引き継ぐためのまとまった資金が準備できず頓挫してしまうことがあります。
現経営者の個人保証など、中小企業ならではの問題もあり、事業承継において資金問題は避けて通ることができません。
国では事業承継の資金を準備するための支援策を用意しています。
今回は、事業承継にあたりどのような融資制度を活用できるのか紹介します。
利用目的に該当するか確認しよう
事業承継に際しては、通常の事業継続に必要な資金以外に事業承継特有の理由により多額の資金が必要になる場合があります。
下記のように法人ばかりでなく、後継者や現経営者など、事業を引き継ぐ個人が資金を準備しなければなりません。
・後継者が自社株式・事業用資産を買い取る資金
・後継者が相続・贈与で自社株式・事業用資産を取得した際の納税資金
・親族外の役員などが株式や事業を承継するための資金(一部承継も含む)
・経営者の交代による金融機関や取引先の条件変更に対する資金繰り対策
事業承継に使える資金融資の代表的なものとして、日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」があります。
<利用対象>
事業の承継・集約に必要な設備資金や運転資金が対象です。
<融資限度額>
事業者の個人・法人と資本金規模によって異なります。
個人事業主または資本金1,000万円以下の中小企業は、上限7,200万円(うち、運転資金4,800万円まで)、それ以上の規模では、上限7億2,000万円(うち運転資金4億8,000万円まで)です。
<返済期間>
設備資金は20年以内、運転資金は7年以内となります。
<据置期間>
据置期間は最長2年間、原則自分で設定できるので、事業承継後経営が安定するまでの期間を考慮して決めます。
その間の支払いは、利息のみです。
<融資利率>
担保や保証人の有無、そして融資利率は融資を受ける人の条件により、個別審査で決定します。
事業承継に関する融資の場合は、基準金利よりも低い特別金利が適用されることがあります。
融資を受ける条件
「事業承継・集約・活性化支援資金」の融資を受けるには、下記のいずれかの状況にあることが条件です。
1.現経営者が後継者と共に事業承継計画を策定している
2.事業承継に向けて安定的な経営権を確保している
3.経営承継円滑化法に基づき認定を受けた中小企業者の代表者や、認定を受けた事業を営んでいない個人である
4.経営者の個人保証を外すことにより、金融機関からの資金調達が困難となっている
5.事業承継をきっかけに新たな事業を展開する
事業承継の資金調達については、通常の事業資金の融資と異なり、
・自社株式と事業用資産の評価
・相続・贈与税の試算
・経営承継円滑化法の認定手続き
などさまざまな準備が必要です。
事業承継後の事業展開を踏まえた事業承継計画を検討し、顧問税理士と一緒に認定支援機関や取引先の金融機関に相談するなど早めに準備しましょう。
融資の申し込み方法
日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」の融資を受けるには、経営承継円滑化法に基づき、事前に都道府県知事の認定が必要です。
<経営承継円滑化法の認定手続き>
認定支援機関の指導および助言を受けて「特例承継計画」を作成し、各都道府県の担当課の確認を受けます。
「特例承継計画」の記載事項としては下記などが挙げられます。
・後継者の氏名
・事業承継の時期
・承継までの経営および承継後5年間の事業計画
・認定支援機関の指導および助言
<「事業承継・集約・活性化支援資金」の申し込み>
日本政策金融公庫の融資制度は、個人・法人と資本金の規模によって異なります。
個人事業主や中小企業の場合は「国民生活事業」に申し込みます。
ただし、中小企業でも大規模の場合は「中小企業事業」へ申し込む場合もあります。
融資限度額の範囲内であっても希望通りの融資額が通るとは限りません。あらかじめ認定支援機関に相談しましょう。
まとめ
事業承継の課題を抱えている中小企業を発掘し、より長期的な経営支援をおこなうことが目的で、中小機構や東京都などが地域金融機関などと連携し、民間の事業承継ファンドに加入しています。
融資ではありませんが、中小企業の事業承継支援で投資ファンドを利用する例も増えています。
また、2019年7月16日より、中小企業の継続的な事業活動を支援するために「中小企業強靱化法」が施行されました。
中小企業の事業継続性(BCP)に関する法改定ですが、事業承継ファンドを通じた事業承継を促進する政令も含まれています。
今後さらに、事業承継および事業の継続を支援する政策の充実が期待されます。
経営コンサルタント 奥野美代子
独立後は、中小企業診断士とFPのノウハウを生かし、経営者の法人と個人の財務コンサルティングやリスクマネジメント、事業計画策定、マーケティング支援など幅広い支援を行っています。